日々、料理に研鑽を重ねているのは、シェフも料理家も同じ。
一方で、シェフが飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、プロのトップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」。
今回は、4人の料理家が「調理は食材の水分調整」と語る島田哲也シェフに学んだ。
料理界の第一線で活躍するシェフと料理家を、食材を通じて繋ぐ場として好評を博している「料理王国アカデミーサロン」。
その5回目の〝舞台〞は「料理は食材の水分調整」と語る島田哲也氏がオーナーシェフを務める、東京・人形町のビストロ「イレール 人形町」だ。お店で提供するのは、〝体に優しい料理〞をテーマに、ハーブやスパイスを使ったシンプルなメニューがメインだが、ゲストにとって幸せなのは、それらのいずれもがシェフの長年の経験によって裏打ちされた下ごしらえや調理方法によって、極上の味わいを醸しているという点だ。今回は、そんな〝秘技〞を余すところなく教えてくれるという。集まった4人の料理家たちにとっても、驚きと納得が入り交じった、貴重な時間の始まりとなった。
島田シェフが教えてくれる「料理王国アカデミーサロン」のテーマ食材は、群馬県産の赤城牛の内もも肉。
「赤城牛は知り合いに紹介されて使うようになったのですが、肉のうま味が強いのが気に入っています。特に赤身の味が強い。うちはビストロなので赤身肉の美味しさをお客様に伝えたくて、赤城牛を使い続けています」と島田シェフ。
そんなシェフが今回教えてくれるのは、「赤城牛の内もも肉のステーキ」と「赤城牛の内もも肉の塩竃焼き」だ。
まずは、「赤城牛の内もも肉のステーキ」から。
ここで島田シェフは、アッと驚く下ごしらえを教えてくれる。料理家たちの目の前に取り出したのは、水切りバットの上に乗せられた赤城牛の内もも肉の塊だ。色が心なしか白っぽい。
「これは冷蔵庫にこのまま入れて、2日間乾燥させたものです」と島田シェフ。「こんなに乾いてしまって大丈夫なんですか」という質問が料理家の一人から投げかけられるが、「水分が少なくなれば、焼き時間も少なくてすみます」と島田シェフ。
「焼く」という行為は肉にストレスをかけること。それを少なくすれば肉へのストレスが減り、肉はさらに美味しくなる、と島田シェフは説明する。塩コショウも焼く前にすると水分を吸ってしまうので、味付けとして塩コショウを振るなら、焼いた直後にするほうが効果的だという。
「今回は牛肉なので2日間乾燥させましたが、鶏肉や豚肉のような白い肉なら3日間ほど乾燥させたほうが旨くなると思います。この方法は魚にも応用できますが、皮がカピカピになってしまうので、皮を下にして乾燥させるようにしましょう。ただ、個体差などもあるので、乾燥させる日数は自分でいろいろ研究するといいと思います」と島田シェフは助言する。
続いては「赤城牛内もも肉の塩釡焼き」だ。
岩塩と薄力粉を混ぜ、ホールのままのピンクペッパーとハーブを入れ、卵白を加えたら手で混ぜる。あとはこれを赤城牛の内もも肉の塊にかぶせてオーブンで焼けば出来上がり。岩塩で包んだままの姿も可愛く、そのままゲストに提供すれば、パーティなどにもぴったりだ。
「付け合わせのアスパラやブロッコリー、サヤエンドウも、僕は塩分たっぷりの湯で茹でます。目安は1ℓの湯に50gの岩塩プラス30gのトレハロース。こうすることできれいな色に仕上がり、栄養素も素材のなかにギュッと閉じ込めることができます」と島田シェフは言う。
料理は準備段階が大切、と話す島田シェフ。レストランのオーナーシェフとして研鑽を積み続けてきた島田シェフの調理方法は、ときとして〝料理の教科書〞とは真逆だ。でも、それこそが現場で培ってきた〝生きた理論〞にほかならない。それは、4人の料理家たちにとっても大きな刺激になったようだ。
島田 哲也
23歳で渡仏。「アルページュ」(3ツ星)などの星付き店、パティスリー、プーランジェリーなどで研鑽を重ね、帰国後、恵比寿に「イレール」をオープン。“日本食材”を用いたフランス料理が話題となる。その後、「イレール・ドゥーブル」「イレール・ボントン」などを展開し、2013年に念願のビストロ「イレール人形町」を開く。
イレール 人形町
東京都中央区日本橋人形町2-22-2
TEL 03-3662-0775
17:30~22:30(フード21:45LO)
日・第3月休
緒方美智子 イタリア料理教室Cucina Italiana Via Frua
イタリア・ミラノに6年間滞在しているなかで、イタリアの食文化を幅広く学ぶ。帰国後に料理教室を主宰。本場の味や食文化、テーブルコーディネートなどを教えている。また、各メディアや企業へレシピやフード写真を提供するほか、イベント、講師、コラム執筆など多方面で活躍中。
https://viafrua.com/
調理する前に食材の水分を抜くという下準備をすることで、うま味が凝縮され、食感もよくなることを試食を通して実感。お肉を焼くときは、肉を適度にひっくり返すことで肉を痛めつけずに美味しく仕上がるというお話も、目から鱗でした。教室では、牛肉を焼いて薄く切って盛り付けるタリアータという料理もよくやるのですが、今回教えてもらった方法は簡単にできますし、教室に来てくださる生徒さんたちにはすぐにでも伝えたいな、と思いました。
受講後の考案レシピ:牛肉のタリアータ フムス、トマトとナスのサルサ添え
山木成子 Bon gout(ボン.グー)
江上料理学校で家庭料理全般を学び、講師を勤める。また、フランス家庭料理の三村真喜子氏に師事、長年研鑽を積む。オーダーメイドケータリングや注文菓子の作成、レシピ・商品開発のほか、雑誌のメニュー開発などを手掛ける。自宅で少人数の料理教室主宰。料理レシピ本大賞の特別選考委員でもある。
シェフの食材や調理道具に対するこだわりはプロの料理人として素晴らしいと思いました。私達が学校などで教わった方法とシェフが調理の現場でやっていることは違っていたりするので勉強になりました。考え方を柔軟にして、研究していかなくてはいけないと思いました。お肉の熟成や焼き方はケータリングや教室で取り入れたいです。また、ハーブやスパイスを取り入れると家庭の味からレストラン味へと変化したりするので、料理教室でも生徒さんにひと工夫を伝えていきたいです。
受講後の考案レシピ:牛もも肉のブラジリアンシチュー
竹内浩恵 料理教室Cooking Salon Take
国際線の客室乗務員として働くなかで世界各国の料理や文化に触れ、料理の道を目指す。料理教室のアシスタントを経て、2008年より、おもてなしをテーマにした料理教室を主宰。また、企業や各種メディアへのレシピ提供やタイアップレッスンなど、幅広い分野で活動している。
https://www.cookingsalontake.com/
お肉を美味しくいただくために最初に水分を抜いておくというお話は、驚きでした。しかも、2日間も放置しておくという。あんなに乾いてしまって大丈夫なのかと思いましたが、食べたらしっとりしているし、牛肉のうま味が噛めば噛むほど感じられて美味しかったです。塩釡焼きは手軽だけれど見栄えもするので、おもてなし料理にはぴったり。ピンクペッパーやハーブを入れるなど、ちょっとした工夫で味わいもよくなり、見た目も可愛くなる。真似してみたいと思いました。
受講後の考案レシピ:ローストビーフ手まり寿司
青野晃子 料理教室La Saveur(ラ・サヴール)
辻調理師専門学校、ル・コルドン・ブルー東京校でフランス、イタリア料理を学ぶ。現在はフランス、イタリア料理の中から気軽にご家庭でも作りやすいレシピを中心に教える料理教室La Saveurを主宰。企業のレシピ開発やイベント講師、企業専任デモンストレーターとしても活躍している。
https://lasaveur1213.blogspot.com/
受講後の考案レシピ:赤城牛のレアカツ 2種のソース
text:Shoko Yamauchi photo:Yoshiko Yoda