脇屋友詞さん直伝!西洋料理にも使える醤のオリジナルアレンジ


中国料理に欠かせない「醤」には実にさまざまな種類があり、香りや辛味、塩味、甘味、酸味もバリエーションが豊かだ。こうした醤にアレンジを加え、西洋料理にも活用できるオリジナルの醤のアイデアを、脇屋友詞さんに考案いただいた。

トウチジャンハイセンジャンマーラージャン ソンヨウラーチュージャン

 中国には数百種類の醤があるといわれている。塩や砂糖、醤油、酢、油といった基本調味料以外に、醤は各地のさまざまな中国料理に使われる。なかでも豆を使った醤は多く、豆豉醤、海鮮醤は料理にコクを与える。また花椒と唐辛子を使った麻辣醤やトウガラシにニンニクを加えた蒜蓉辣椒醤は香りや辛味を加えることができる。

基本的に醤は店で作るという脇屋友詞さん。旬の野菜を取り入れ、日本人ならではの繊細な感性で五味(酸味、苦味、甘味、塩味、旨味)のバランスを醤で図り、モダンなチャイニーズを提案する。

「塩や醤油、砂糖だけでは味わいが限られてきますが、醤は甘かったり辛かったり、香りも味わいもいろいろあります。醤を使うことで料理にさまざまなアクセントをつけることができるのが魅力ですね」

フォン・ド・ヴォーを加えるとさらに西洋風に

西洋料理に醤を使う時のポイントとしては、今回考案したオリジナル醤にバターやフォン・ド・ヴォー、ワインといった洋の材料を加えることで、より味わいを西洋料理に近づけることができると話す脇屋さん。たとえばキノコを合わせた豆豉醤ベースの醤も、これにオリーブオイルや焦がしバターを混ぜることで風味がいちだんとまろやかになり、フレンチやイタリアンに近づく。しかも日頃、西洋料理で使う調味料と異なり、どこか複雑味を感じさせてソースに奥行きを与えてくれる。「醤はこの材料でなければいけないということはとくにありません。われわれ中国料理の世界では、コース料理の流れの中で、奥行きや素材のメリハリをつけるのにさまざまな醤が役立ちます。西洋料理に使えば、アイデア次第でおもしろく効果的に使えるでしょう」

今回登場したオリジナル醤にさらにアイデアを加えて、自由に醤づかいを楽しめば、ジャンルを超えて料理の世界が広がるにちがいない。

豆鼓醤ベース

5種類のキノコに豆豉の塩味や旨味を混ぜ合わせる

材料

マッシュルーム…50g、
マイタケ、シイタケ、エリンギ…各20gシメジ…10g
鶏ガラスープ、サラダ油…各適量

作り方

  1. キノコはすべてスライスしてサラダ油でよく炒める。
  2. 1に豆豉醤を加えてさらに炒め、鶏ガラスープを加えて数分間煮て味を出す。
  3. 2をミキサーにかけてピューレ状にする。

色々キノコとサワラの豆豉ソース蒸し
蒸したサワラを豆豉醤のコクが溶け込むキノコのソースがまろやかに包み込む。仕上げに素揚げした銀杏と豆豉醤を添えた。エリンギやマッシュルームなど5種のキノコは豆豉醤とともによく炒めた後、鶏ガラスープで煮て豆豉やキノコの風味を充分に引き出すのがポイント。

フランス料理にはフォン・ド・ヴォーやバターを足してみては?
豆豉醤は大豆を発酵させた豆豉に醤油やニンニクなどを合わせた醤です。豆豉は日本の「浜納豆」に似たような凝縮した旨味が特徴で、中国料理では豆豉そのものも魚や肉の炒め物によく使います。今回はフレンチやイタリアンでも馴染みのある数種類のキノコを炒めてペースト状にし、豆豉醤の旨味を加えました。このオリジナル醤は、牛肉料理のソースに使ってもいいでしょう。もう少し濃厚なコクを出したい場合は、バタ ーやフォン・ド・ヴォーを混ぜることで、より西洋料理風のボリューム感のある味わいに仕上がります。

麻辣醤ベース

白味噌を加えることで、麻辣の風味をまろやかに

材料

白味噌…200g

作り方

麻辣醤に白味噌をよく混ぜ合わせる。好みにより麻辣醤の量で辛さを調節する。

鶏肉の照り焼きピリ辛山椒風味
塩、コショウで下味をつけた鶏モモ肉は、でき上がりの醤に1時間程度漬け込んだあと、サラマンダーで皮目を香ばしく焼き上げる。蒸し焼きの百合根とピックに刺し、醤を添えた。麻辣醤の花椒(ホワジャオ)の香りとピリリとしたトウガラシの風味を白味噌がまろやかに仕上げる。

この醤は、ホタテや牛肉などを漬け込んで焼くのもいいですね。
ベースとなる麻辣醤は、豆板醤をベースに花椒の「麻(マー)」と唐辛子の「辣(ラー)」の風味を加えています。そのまま使うと西洋料理には辛味が際立ちすぎるため、マイルドな旨味を感じる日本の白味噌を合わせました。鶏のモモ肉は塩、コショウをふって下味をつけてこの醤に漬け込み、味を馴染ませてから香ばしく焼きます。エシャロットのような香味野菜を混ぜると、さらに西洋料理の香りが出せるでしょう。鶏肉はそのまま食べても充分に味わえますが、野菜とともにピックに刺し、醤をディップとして提供してもいいですね。

蒜蓉辣椒醤ベース

香味野菜や漬け物で、爽やかな酸味をプラスする

材料

セロリ、エシャロット…各40gニンジン、紅芯大根、古漬け白菜 …各20g
ショウガ…10g
オリーブオイル…100ml

作り方

1.野菜と古漬け白菜はすべてみじん切りにする。
2.オリーブオイルで蒜蓉辣椒醤の香りが出るまでよく炒め、1の野菜と古漬け白菜を加えてさらに炒めてよく混ぜ合わせる。

牛肉の香り揚げ
蒜蓉辣椒醤を香味野菜と一緒に炒めた、ニンニクの香りと優しい辛味が広がる醤。薄くスライスした牛ロース肉に醤を塗って、ベーキングパウダー入りの揚げ衣で、外はサクッと中はミディアムレアの状態に揚げた。香味野菜入りの醤は、シャキシャキとした食感があり食欲が進む。

辛味と酸味が利いたニンニク風味はパスタのソースにしても。
このオリジナル醤は、ニンニクの香りと唐辛子の風味が利いた蒜蓉辣椒醤がベースとなっています。蒜蓉辣椒醤と、みじん切りにしたセロリやエシャロットの香味野菜、乳酸発酵した古漬けの白菜を炒めることで、辛味だけではなくほどよい酸味を出しました。炒め油に爽やかな風味のE.V.オリーブオイルを使っているのもポイントです。フレンチやイタリアンの場合は、古漬けの代わりにピクルスを使ってもいいでしょう。この醤はニンニク風味ですから、イタリアンのパスタソ ースの隠し味にも使えるのではないでしょうか。

海鮮醤ベース

甘味噌にゴマの風味を加えてとろりと濃厚なソースに

材料

炒りゴマ…200g
サラダ油…50㎖

作り方

1.炒りゴマをミキサーにかけてペースト状にする。
2.フライパンにサラダ油を入れて熱し、これを1に注ぎ入れてゴマの香りを立たせ、よく混ぜ合わせる。
3.海鮮醤に2ででき上がった芝麻醤(チーマージャン)を混ぜ合わせる。

茄子の甘味噌焼き
炒りゴマをペースト状にして、熱したサラダ油を加えて芝麻醤を作り、甘味とコクのある海鮮醤を合わせてゴマ風味の甘味噌のソースに仕上げた。ナスは油で揚げた後、オリジナル醤を表面に塗ってオーブンで香ばしく焼き上げる。仕上げに軽くゆでた金針菜をトッピングする。

焼き菓子やパンの生地に練り込んでもおもしろいですね。
海鮮醤は中国料理では叉焼(チャーシュー)を作るときの下味に使うなど、そのコクと甘味を利用して隠し味に使うことが多いですね。この甘味のある海鮮醤に、煎った白ゴマと油を混ぜ合わせた芝麻醤を合わせました。芝麻醤を加えることで、まったりとした濃厚な醤となっています。このオリジナル醤は、野菜などの淡泊な素材に濃厚な旨味を与えてくれます。また魚に塗って焼けば香ばしく仕上がる。このほか甘味があるのでデザートに使ってもいいでしょう。焼き菓子やパンの生地に練り込んでもおもしろいのではないでしょうか。

Yuji Wakiya
1958年北海道生まれ。96年「トゥーランドット游仙境」の総料理長、97年にパンパシフィックホテル横浜の中国料理総料理長に就任。2001年に赤坂「Wakiya一笑美茶樓(いちえみちゃろう)」を独立開業。2011年10月、赤坂に「トゥーランドット臥龍居」をオープン。

沖村かなみ・文/構成 山家 学・写真

本記事は雑誌料理王国2011年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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