料理には国境がない。山根流味の方程式「リストランテ・ポンテベッキオ」山根大助さん


〝おいしさ〞を求め縦横無尽。クリエイターとして独走する

「その素材が一番おいしくなる料理を作る」。シンプルだが、山根大助さんの華やかで斬新な料理のベースは、この言葉ひとつに尽きる。

大阪・北浜にある山根さんの店「リストランテ・ポンテベッキオ」は今年、25周年を迎えた。2度の移転の末、2004年に現在地へ。その間に3つのコンセプトの異なる店をオープンさせ、今年は梅田に2店を新規開業し、現在7店舗のオーナーシェフ。つねに関西の、そして日本のイタリア料理界をリードしてきた。

山根さんが修業を始めた店は神戸「ドンナロイヤ」。戦後の日本に本場イタリア料理を伝えた老舗だ。そこでイタリアの味に近付けるための工夫を学んだ。たとえば野菜はイタリアの野菜のようなコクを出すため、しっかりと水分を飛ばす。それが正しいと教わった。その後イタリアに渡り、当時ヌオーヴァ・クチーナを牽引していた「グアルティエーロ・マルケージ」などで修業。新しく創造される料理を目の当たりにし、「誰かが作った料理の真似をしていても仕方がない。料理人はクリエイターでなければ」との思いを強くした。

決意を胸に帰国。1986年に自店をオープンさせる。80年代といえば東京で徐々にイタリア料理店が増えていった時代。山根さんは関西の先駆的存在であった。周囲より一歩も二歩も先を行く山根さんの考えは、時に受け入れられず、悩んだ時期もあったという。そこで生まれたのが「最適調理」という考え方だ。最適調理とは、素材の〝表情〞をとらえ、どうおいしいのか、おいしさはどこにあるかを考え、その味を引き出すためのもっとも適した調理を施すこと。言葉では単純なことだが、素材の味からスタートさせて料理をクリエイトすることで、料理の表現力は飛躍的に変わった。

調理には国籍がない。山根流、味の方程式

「調理には国籍がない」と山根さんは言う。〝調理〞とは、切り方、加熱方法、火加減など調理技法すべてを指す。対して、ソースを加えたり、味付けして調味したりして、ひと皿に仕上げることを〝料理〞と考える。〝料理〞は、料理人のパーソナリティや嗜好性、国籍が反映される個人的なものだという。イタリア料理に仕上げたければイタリアを知り、嗜好や文化を知り、味を当てはめてゆけばいい。また、日本人なのだから、ウナギに山椒をかけたくなるような〝好み〞がひと皿に表現されたっていい、と柔軟だ。最適調理から始まり、料理に仕上げる。山根流の味の方程式は、組み合わせで無限に解が広がる。「厳しいのは調理のほうです。素材の旨味を逃がさず、味をぼやけさせないため、非常に緻密に考え仕事をする。自分は何よりも調理にエネルギーを費やしています」。

山根さんの料理には、タケノコやハモなど日本の食材が多く登場する。絶対に日本の食材や国産品を、といった気負いはないが、野菜はもちろん、肉や魚介類も国産が中心だ。「たとえばよい日本の野菜があるなら、その中のおいしさを追究すればいい。それに、収穫して時間が経った外国産を使うより、採れてすぐ店に届く食材を使いたい。食材が一番おいしい状態の時に提供したいから」。ここにも、山根さんの〝おいしさ〞へのこだわりが生きている。

山根さんのクリエイティブな料理は、イタリアからも高い評価を得ている。04年にはカヴァリエーレ(騎士)勲章を受勲。「ガンベロ・ロッソ」誌では2回、日本のイタリア料理店で最高点を獲得した。自分なりのイタリア料理を作ってきた自負ゆえ、イタリア人に受け入れられることは「やはり、うれしい」と言う。

味の再現でも創造でもなく、素材のおいしさを引き出すため、素材と真摯に向き合うことで、料理を発展させてゆく。結果、日本でしかできないイタリア料理が生まれている。「同じ料理でも毎日改良するし毎年おいしくなっている。最適調理は素材にひとつではなく、まだまだある」これからも山根さんの料理の表現は無限に広がってゆく。

一度高温で揚げた天然スッポンのフリカッセ賀茂茄子とアーティチョークを添えてグレモラータ風味

スッポンの身をシェリー酒とミルポワで丸1日マリネし、高温のオリーブオイルで約5分間揚げる。トマトジャム、グレモラータ(アンチョビなどを加えたペースト状の薬味)、スッポンのだしに昆布水を加えたソースをからめる。オーブンでシンプルに焼いた賀茂茄子を濃厚なスッポンに合わせ、ナスのみずみずしさをあえて残した。

山根さんに聞く3つの質問

Q1│イタリアで衝撃を受けたイタリア食材は?
A.バッサーノ・デル・グラッパで食べたホワイトアスパラガス。ペルージャの畑で食べた採れたてのソラマメ。

Q2│これから使ってみたい未体験の日本の食材は?
A.米粉、ソバ粉、コノワタ、イタドリ。

Q3│自分のイタリア料理の核としている味は?
A.あまりブレるという感覚はないが、グレモラータ、リボッリータ。グアンチャーレや生ハムなど塩蔵したものや発酵食品。

リストランテ・ポンテベッキオ 山根大助さん
1961年大阪府生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、神戸「ドンナロイヤ」を経て84年に渡伊。86年に帰国し大阪・本町に「リストランテ・ポンテベッキオ」を開店。現在、梅田「モード・ディ・ポンテベッキオ」など7店舗を展開。

text:Norimi Shiga /photo:Ichiro Nakanishi

本記事は雑誌料理王国2011年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする