【対談】オーナーとシェフによる二人三脚「テストキッチンH」という奇跡


山田宏巳シェフがキャリア40年の集大成として、2018年4月にオープンした「TEST KITCHEN H」。
260坪という敷地をはじめ、厨房設備から内装に至るまで、その贅を尽くした巨大なスケールに誰もが驚いた。
この華々しいステージを用意したのは、オーナーである三浦哲也さんだ。
ふたりはいつ、どのように出会い、このようなレストランを開店するに至ったのだろうか。

運、タイミング、経験値。
そして信頼がもたらした最強のタッグ

料理人と客として出会って年築いてきた信頼関係があればこそ

ーーまずは、おふたりの出会いについて教えてください。いつ頃、どのような形で出会われたのですか?

山田宏巳(以下:山):10年くらい前、三浦さんが銀座の店にお客さまとして来てくれたのが最初ですね。

三浦哲也(以下:三):あの時は冷製パスタから始まって、野菜のチーズスープ、そしてパイと、とにかく出てきたもの全部がおいしくて、天才的だと思いましたね。私はもともと、ヒロさんが最初に開いた「リストランテ・ヒロ」の共同経営者だった方とは旧知の仲で、ほかにもヒロさんをよく知る方たちから、ご本人について聞いていました。しかもヒロさんを悪く言う人がいない。それが印象的でした。

ーー「TEST KITCHEN H」を出すという話を最初に持ちかけたのはどちらから?

三:私からですね。最初はメールで。

ーーきっかけはあったのでしょうか?

三:5年前の、ヒロさんの還暦パーティーに私も出席させてもらいました。こんなにおいしい料理が作れて、仲間も多く、料理を教わりたいという後輩もたくさんいるヒロさんを見て、僭越ながら、もっと大きな器で活躍した方が輝けるのではないかと。あれだけの錚々たるメンバーが揃っていても、ヒロさんはどこにいるかすぐわかる。そういう存在感を持っている人は少ないですよ。こういう人と一緒に店を出したら、たぶんすごいことになって、楽しくできそうだなと。

大きい店なら幅広いニーズに応えられる。
「そういう店をやりませんか?」と誘いました。(三浦さん)

山:場所を見せていただいたら、260坪の広い駐車場があって「この全部を使って店にする」と三浦さんが言うんです。これをやるなら中途半端に関わるのではなく、自分の店を閉めてガッチリ入り込む必要があると思いました。「バスタ・パスタ」がまさに100坪の大箱でしたが、いつかまた大きな店でやりたいという思いを抱き続けていたので。

三:ここに小さな店をわざわざ作る必要はない。ここまで来てもらえる大きな店を作るとしたら、シェフはヒロさんしかいないと思ったんです。

ーー今回の取材では撮影するお料理を三浦さんに選んでいただきましたが、「ボリート」を選ばれた理由とは?

三:この店が出来て初めて食べたのですが、肉をがっつり食べれて、すでに毎日食べたいと思うくらいとても気に入っているんです。

山:今までどの店でも出したことがない料理ですね。

三:一度にたくさんの量を頻繁に作る必要があるんですよね?大きな鍋で大きな肉を煮込むからこそ、ここまでおいしく作れるのだと思います。

ボリート・ミスト テストキッチン・エイチ
山田さんの料理のエッセンスが全て集約されているひと皿 ボリート・ミスト
イタリア・ピエモンテ州の郷土料理として知られる鍋料理。鶏モモ肉と牛ブロックをメインにニンジン、タマネギ、ジャガイモ、セロリなどの野菜と合わせて大鍋で煮込む。パセリを使ったグリーンのソース、サルサ・ヴェルデを添えて。

──三浦さんはどれくらいの頻度でお店に顔を出されているのですか?

三:ほとんど毎日。サービスというほどのことはできないのですが、フロアに立たせてもらっています。

山:こちらがびっくりするくらい、お客さまに頭を下げているんですよ。これだけ成功されている人で、そうやって人に頭を下げられる人ってなかなかいないと思うんです。自分の店にお客さまが来てくださることが嬉しくて、自然とそうなっているように見えます。

三:仕事をしなきゃいけないとか、心配だから来ているのではなくて、一緒にやるのがすごく楽しいですね。

山:レストランは毎日シーンが違うから、レストランみたいに楽しい場所はないでしょう? こちらとしても、オーナーの三浦さんを楽しませるためにやっている部分もありますから。楽しかったら、多少儲からなくてもいいかなって思ってもらえるでしょ(笑)。

キッチンはシェフのステージそれを用意するのがオーナー

ーー完成した店舗はキッチン周りだけでも約1億円とうかがっています。予算的なことはどのように考えていらっしゃったのでしょうか?

山:予算としてこれくらいと、上限が提示されることは全くなかったですね。この店に関しては本当に好きなようにさせていただきました。厨房周りって、上限を設けないと、あれも必要これも必要と、どこまでもキリがないもの。ところが三浦さんは見積もりを見せても驚くこともなく、値切ることもせずに支払う。業者の方が「本当にこれでいいのか」と確認してきたほど。

三:ヒロさんがこれまでの料理人人生をかけると言ってくれた以上、キッチンもいいものを作らないとテンションが上がらないでしょう。テンションがMAXじゃないといい料理はできないし、目一杯フルスロットルで活躍してもらえたらなと。

まさかこれだけ大規模だとは思わなかった。
でも願ってもないチャンスでした。(山田さん)

──おふたりの役割というのは、どのように分けているのですか?

三:料理に関することはすべてヒロさんにお任せしています。今までヒロさんの作る料理を食べてきた信頼があるので、まったく心配はしていませんね。

山:それ以外のことは、ほとんどふたりでやっていますね。売り上げのことや、スタッフの採用もふたりで面接をして。それにサービス面では、三浦さんがお客さま目線で改善点を見つけて、どんどん言ってくれるんです。

ーー三浦さんは現在、5店舗の飲食店のオーナーでもありますが、各店のシェフたちに何か共通点はありますか?

三:ヒロさんの場合は料理が当然うまい。そして仲間が多い。経営目線も持っているし、経営の大変さも経験している。みんながそこまでの経験を持っているわけではありませんが、年齢を問わず建設的な会話ができるという共通点がありますね。

山:よいオーナーと出会うためには、その人のそれまでの経歴や、人となりを知っているかどうかも大切。お金の生々しい話も、最初にできる相手が望ましいと思いますね。三浦さんにはたくさんお金を使わせてしまったので、ここから先は僕の責任。がんばらなきゃいけないなと思っています。

三浦さんは誰にでも誠意ある対応ができる人。
そんなところを尊敬し、信頼しています。(山田さん)

山田さんは抜群のセンスと存在感をもつ人。
大きなステージで大勢の人を魅了してほしい。(三浦さん)

TEST KITCHEN H 三浦哲也さん

三浦哲也さん
Tetsuya Miura
1957年広島県生まれ。東京大学工学部卒業後、(株) 間組(建築系)、(株) 日本長期信用銀行を経て、1998年大手外資系ファンド日本法人のMDに就任。2015年に独立。現在は(株)ティー・アンド・エム含む3社の代表取締役であると同時に、飲食店5店のオーナーも務める。

TEST KITCHEN H 山田宏巳シェフ

山田宏巳さん
Hiromi Yamada
1953年東京都生まれ。イタリア留学後、都内数店舗の料理長を経て1985年に原宿「バスタ・パスタ」の料理長に就任。1995年に「リストランテ・ヒロ」、2009年に「リストランテ・ヒロソフィー 銀座」をオープン。2018年4月、南青山に「TEST KITCHEN H」をオープン。


TEST KITCHEN H テストキッチン エイチ

TEST KITCHEN H
テストキッチン・エイチ
東京都港区南青山5-12-13
03-6452-6582
● 17:30~23:00(コース21:30LO)
● 無休
● コース 5800円~
● 80席
www.testkitchen-h.tokyo

田中英代=取材、文 岡本 淑=撮影
text=by Hanayo Tanaka photos=by Yoshi Okamoto


SNSでフォローする