名匠のスペシャリテ「オトワレストラン」音羽和紀さん


時代を超えて愛され続ける名匠のスペシャリテがある。
連載第35回目は、地産地消フレンチの集大成「オトワレストラン」の音羽和紀さんと、「プレミアムヤシオマスのコンフィ オリーブ ヴィアンド(紅茶風味)」。

1981年、34歳で栃木県宇都宮市にレストラン「オーベルジュ」を創業しました。当時、「フランス料理のレストランなのに、なぜ東京でオープンしないのか。東北新幹線が開通したとはいえ、宇都宮で成功するとは思えない」と言った声も耳にしました。しかし、僕にとって母のように、父のように、たったひとつのかけがえのない故郷でレストランを開くことは、料理人としての夢の実現のスタートラインでした。以来、故郷に根ざして30余年。栃木の四季折々の素材とフランス料理のマリアージュを探求してきました。

今年で8年目を迎えた、ここ「オトワレストラン」は、還暦の年に僕の集大成のレストランとして新たにオープンしたのです。料理とは、その土地の風土や歴史、気候、暮らしの影響を受けながら育っていくものではないでしょうか。この考え方は、ヨーロッパでの料理修業で確固たるものとなりました。

大学を卒業した1970年の初冬、横浜港から船とシベリア鉄道を乗り継ぎ、ドイツへ。そして、ついにフランス中南部の美食の街リヨン郊外、ミオネー村の三つ星レストラン「アラン・シャペル」で、日本人として初めて働くチャンスをつかみました。〝厨房のダ・ヴィンチ〞と賞賛され、フランス料理界に革命を起こしたシャペル氏が何よりも大切にしていたもの。それが素材です。地元の産物を知り尽くし、生産者のもとを訪ね、毎朝、自分でジープを運転して新鮮な物を持ち帰ってきます。シャペル氏は、その素材の持ち味を引き出し、そこに新しい風を吹き込み、伝統を守りながらもオリジナリティーあふれる皿に仕上げていく。郷土に根ざす料理人シャペル氏のこのフィロソフィーを、宇都宮で受け継ぎたい――この想いが、僕の料理人としての生きる原点となりました。

故郷に根ざし、食の大切さ、喜びをつなぐ

この想いで昔から作り続けている料理はいくつもありますが、今回は昨年から栃木県が力を入れているプレミアムヤシオマスのスペシャリテを作りました。ソースには、フォン・ド・ヴォライユ、ジュー・ド・ヴォライユなど鶏のだしやコンソメを使っています。この鶏、福島産の「伊達鶏」の養鶏には、僕もアドバイスをしています。宇都宮に戻った当時から、伊達物産の先代会長と、ブロイラーではない本物の鶏を作るために奔走しました。フランスのブレス地方に何度も視察に行き、日本でできる安心安全でおいしい養鶏を生産者の方とともに研究してきました。

フランス料理のソースは仔牛のフォン・ド・ヴォーが定番ですが、僕は伊達鶏のフォン・ド・ヴォライユを使っています。野菜やいろいろな食材との相性が良いと思います。川魚特有の臭みを消すために用いる紅茶は、那須烏山で作られる「北限の紅茶」です。以前はほうじ茶を使っていましたが、この地元の紅茶の香りがとても合いますね。創業以来、共に歩んできた妻のマダム、「オトワレストラン」料理長の長男元、「シテ オーベルジュ」の二男創、サービスの長女香菜と、家族の絆を深めながら、これからも食べることの大切さ、喜びを地域へ、そして次世代の子どもたちへと伝えていきたい、と切に思っています。

プレミアムヤシオマスのコンフィ オリーブ ヴィアンド (紅茶風味)
那須烏山の優美な紅茶の香りをまとったプレミアムヤシオマスのコンフィは、深みのあるしっとりとした優しい味わいを奏でる。音羽シェフの新たなスペシャリテ、最上の「とちぎキュイジーヌ」は、至福のときを約束する。

音羽和紀 Kazunori Otowa
1947年栃木県宇都宮市生まれ。大学卒業後、渡欧。ドイツを皮切りにスイス、フランスで学ぶ。日本人として初めてアラン・シャペル氏に師事し、郷土に根ざす料理人としてのシャペル哲学を受け継ぐ。1981年、宇都宮市に「オーベルジュ」を創業。 2007年、自らの集大成として「オトワレストラン」をオープン。現在はフランス料理店のほかに「シテ オーベルジュ」「デリカショップ」などを経営。2010年、農林水産省「第1回料理マスターズ」受賞。 2013年、フランス料理アカデミー日本支部会員認定。2014年、ルレ・エ・シャトー加盟。著書多数。

text 長瀬広子   photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国2015年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2015年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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