「カンテサンス」岸田周三さん。初めてのスパゲッティ作りに挑戦!


形と食感にこだわらず、発想の大転換を初めてのオーダーでしたから、考えました。スパゲッティをフレンチ風に作るのはむずかしい。スパゲッティはイタリア料理の象徴ですから。歴史は長い、バラエティは豊富、どの調理法もおいしい。フランス料理が入り込む余地はなかなかありません。僕のようなパスタ経験歴のないフレンチの料理人が、一朝一夕にお客さんを唸らせるものを作れるわけがない。正統派のスパゲッティで攻めるのでは、到底歯が立ちません。

そこで、発想の大転換。最初に頭をかすめたのは〝ゆでずに調理する〞。これくらいに思考回路を変えないと新しい発想の料理は生まれません。でも、残念ながらこの着想は未完で終わり。そんなこんなでほかにも試行錯誤をして、たどり着いたのが写真の2品です。

コンセプトは「形にこだわらず、食感にこだらわず」。長くてシコシコした本来あるべき姿を取り払い、なおかつ「これはスパゲッティ!」と感じさせること。

ゆで汁に香りが残る?甘いスパゲッティ?

スープ・スパゲッティのポイントは香りです。実はスパゲッティをゆでると、ゆで汁のほうに〝小麦の香り〞が残っている。その発見が原点です。ここでは最初から少ないゆで汁でじっくりゆで、溶け出す小麦成分の濃度を高めて、そのゆで汁をスープとします。300mlの湯がだいたい30mlに煮詰まるまで。とろっとして小麦の味も舌に感じます。

これ、蕎麦湯と同じ感覚ですね。デュラム小麦の香りと味、そして栄養分も溶け出たおいしいパスタ湯。ハマグリの蒸し汁と身を加えると、うま味十分です。

そして、もう一品がデザート。スパゲッティの原材料は小麦だから、柔らかくて甘いお菓子に使えないわけはないという発想です。イタリアの代表的なお菓子にリコッタチーズを型詰めしたカッサータがありますが、そのイメージで牛乳とリコッタと一緒に甘く煮て、四角に固めたもの。凝固剤を入れなくても小麦のデンプン質で固まります。

このデザートは、スパゲッティをミキサーで小さく粉砕して、粒々を残しているところがミソ。できあがりはねっちり、もっちりの重厚なペースト状ですが、粒々が食感として残っているところにスパゲッティの片鱗があるわけです。

「甘いスパゲッティ!?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。でも、小麦のお菓子ですから、おいしいんです。まだまだ、いろんなことができそうだぞ、という気がしてきましたよ。とても勉強になりました。

【レシピ】スープ・スパゲッティ

材料

スパゲッティ……40g
水……300ml
ハマグリ(殻つき)……2個
赤トウガラシ(小口切り)……少量
オリーブオイル……少量
イタリアンパセリ(みじん切り)……少量
塩……適量

作り方

1 小鍋で分量の水を沸かし、スパゲッティを二つ折にして入れてゆでる。ゆで汁は30裨くらいになるまで煮詰める。
2 殻付きハマグリを鍋に入れて少量の水(分量外)を入れ、蓋をして火にかけ蒸し煮にする。殻が開いたら殻から身をはずす。
3 1のスパゲッティをザルにあけ、ゆで汁のみ小鍋に戻す。2のハマグリの身と煮汁、赤トウガラシを入れて温める。塩で味をととのえ、オリーブオイルとイタリアンパセリを加え、器に盛る。

【レシピ】スパゲッティ・カッサータ

材料

スパゲッティ……20g
牛乳……400ml
リコッタチーズ……20g
グラニュー糖……8g
レーズン*……30粒
クルミ(半分に割る)……15片分
オレンジの果皮(すりおろし)……1/8個分
ラム酒の泡
 ヴェルジュ(未熟のブドウ汁)……20ml
 ラム酒……20ml
 グラニュー糖……3g
ソース
 レーズン*……10粒
 ハチミツ(アカシヤ)……適量
*レーズンはラム酒と水各適量に浸してやわらかく戻しておく。

作り方

1 スパゲッティをミキサーにかけてクスクスのスムールくらいの粒に粉砕し、鍋に入れる。
2 牛乳、リコッタチーズ、グラニュー糖、オレンジの果皮を加えて、スパゲッティがやわらかくなるまで弱火で12~13分間煮る。途中でレーズンとクルミも入れる。やわらかくなる頃には、水分が煮詰まってほとんどなくなる。
3 直方体の型の一角に寄せて詰め、厚みのある直方体に整える。アルミホイルなどで覆い、冷蔵庫で冷やし固める。
4 泡の材料をボウルに入れ、ハンドミキサーで泡立てる。ソース用のレーズンを刻む。
5 3を切り分けて器に盛り、ラム酒の泡をのせる。脇にソース用レーズンを直線に並べ、その上にハチミツをたらす。 

河合寛子―構成、菊地和男―写真

本記事は雑誌料理王国159号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は159号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする