昨夏にも愛媛県を訪れた大石義一シェフと井上和豊シェフ。当時の目的は「媛プチ柑」の視察だ。媛プチ柑とは、伊予柑、ポンカン、河内晩柑 (かわちばんかん)の未熟果のこと。柑橘を育てる際に間引かれる未熟果 (摘果みかん)は、柑橘栽培の長い歴史の中でずっと“不要なもの”として廃棄されてきたが、2017年に愛媛県で食材探索する元「エスキス」の成田一世シェフが偶然口にしたことをきっかけに、食のプロを魅了する“価値ある食材”として新たなステージを迎えた新食材だ。
両シェフが再び愛媛県を訪れたのは、前回と季節が真逆の2月。通称「みかん島」と呼ばれる松山市の離島・中島をはじめ、宇和島市、西予市にある4つの果樹園を巡り、最盛期の中晩柑(12月から5月に収穫される柑橘)を40品種以上試食した。「まるで別の食材」と未熟果からの変化に驚き、成熟柑橘の質の高さに思わず唸る場面も。柑橘の魅力に改めて触れる旅となった。
中島北部にある田村農園では、FVO認定の園地で有機JAS認証の柑橘を手がける。化学肥料不使用で樹体をコンパクトに育て、一つ一つ丁寧に扱われる柑橘は「皮までおいしい」と評判。陳皮を扱う中華の井上シェフもまた香り高い果皮に着目していた。
田村農園
愛媛県松山市畑里933
TEL 089-997-1510
1974年にいち早く西予市で無農薬栽培をスタートした無茶々園。現在は約70軒の有機農家が運営に参画する。理事の平野さんから、昨夏に都内で開催された媛プチ柑お披露目会の大きな反響についても報告があり、同会で腕を振るった両シェフから笑顔がこぼれた。
無茶々園
愛媛県西予市明浜町狩浜2-1350
TEL 0894-65-1417
施設内に約250種の柑橘が栽培されるみかん研究所では、柑橘の新品種や新しい栽培技術を研究している。視察では未発表の未熟果を試食。シェフからは「食べたことのない食感」と驚きの声が上がり、商品化への期待を高めた。
愛媛県農林水産研究所 果樹研究センター
みかん研究所
愛媛県宇和島市吉田町法花津7-115
TEL 0895-52-1004
みかん研究所の元所長である加美さんは、島を歩けば方々から「先生」と声をかけられる柑橘の達人。おいしい柑橘を育てる方法は愛情と話す言葉通り、中島にある果樹園は美しく丁寧な栽培が伺える。味わいも格別で両シェフの心を震わせた。
加美農園
※連絡先非公開
NPO法人柑橘ソムリエ代表でもある二宮さんは、次世代へ誇れる農業を目指す。味へのこだわりから、鮮度のいい魚を用いた有機肥料を採用し、雑味のない味わいに仕上げる。細やかな出荷対応にシェフからの信頼も厚い。
ニノファーム
愛媛県宇和島市白浜274
TEL 0895-28-0207
2019年にスタートしたブルワリー。週1回醸造するクラフトビールは、県産食材を積極的に扱う。昨夏には媛プチ柑をいち早く採用し、香り豊かで酸味が心地よいと大好評の内に完売した。視察では東温市の柚子を使ったビールを試飲。素材を活かした味わいに両シェフからも太鼓判が押された。
DD4D BREWING & CLOTHING STORE
愛媛県松山市千舟町4-2-6 DD4Dビル 1F
TEL 089-932-7764
text 君島有紀 photo sono(bean)、よねくらりょう