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【芸術家たちの食卓】モネが愛した「リヨン風ポーチドエッグ」の作り方


若き日のクロード・モネは貧しかったが、人生の後半は、大家族に囲まれ、広い庭のある田舎の家で暮らした。彼のために家族が作ったやさしい味は、芸術家の幸せな時間を伝えてくれる。

クロード・モネのリヨン風ポーチドエッグ

光、そして風までも描いた画家、クロード・モネ。86歳で亡くなるまで、絵を描き続けたその晩年は、白内障や視覚障害にひどく悩まされた。長年にわたる戸外での制作によって、光を浴び過ぎたことが原因だとか。移ろいゆく自然を追い求め、大気の揺らめきまでも貪欲に描こうとした画家の払った犠牲だった。

「ジヴェルニーの積みわら、夕日」(写真上)も、牧草地の真ん中にイーゼルを置き、朝、日中、夕刻と太陽の傾きに合わせてキャンバスを取り替えては描いた連作のひとつ。オレンジ色で丹念に塗り重ねられた夕日。誰しもが、どこかで心に焼きつけた光景、瞬間をモネはとことん追求し、巧みに描き表した。

パリから北西にキロほど離れたジヴェルニーの村に家を構えたのは、歳を過ぎた1883年頃。広大な庭に、100種類以上の四季折々の花や木をぎっしりと植え、近郊の川から水を引いて睡蓮の池を造り、浮世絵に心酔していたモネはそこに日本風の太鼓橋まで架けた。理想のモチーフを織り込んだ庭は、彼にとってまさに「最高の場所」だった。

モネはここでもうひとつの理想を叶えた。売れない画家だった頃、その日の食にも事欠いたモネだが、その実、食への思いは熱く「料理ノート」なるものを6冊も残している。そこには、家庭料理から、トリュフやジビエ、旬の味覚を駆使した料理、当時はまだ作ることのむずかしかったアイスクリームといったデザートまで、レシピがぎっしり綴られていた。家人は存分にモネの期待に応え、食卓を整えたという。食へのこだわりは庭にまで及び、花畑の脇には養鶏小屋、ハーブや香辛料を育てる菜園、果樹園があり、モネは早起きして野菜や茸を摘みに出た。

「リヨン風ポーチドエッグ」は、卵入りグラタンともいえるシンプルな料理。タマネギで甘く仕上げた濃厚なベシャメルソースをかけたポーチドエッグを、焦げ目がつくまで焼く。パレットの上で愛用したバーミリオン(オレンジ色)を思わせる、半熟でとろっとした黄身を味わうことを楽しみに、産みたての温かい卵を抱えて、足早に庭から戻るモネの姿が思い浮かべることができる。

目を細めて、自然の中に輝く瞬間を見い出しては、全身全霊をかけてキャンバスに写し取る。たとえ光に瞳を射られたとしても、画家はそこを立ち去ろうとはしなかった。傾く太陽に追われるように制作に励んだモネにとって、その合間に頂く三度の食事は、陽の下にあって唯一、安らぎを与えてくれる瞬間だったのだ。

【レシピ】リヨン風ポーチドエッグ

タマネギをたっぷり使った濃厚なリヨン風ベシャメルソースに埋もれたポーチドエッグ。卵にソースをからめて召し上がれ。

材料 (約4人分)

卵…4個
酢…50~100㎖
タマネギ…2個
無塩バター…30g+適量
小麦粉…30g
牛乳(濃厚なもの)…2カップ
ブイヨン…1カップ
グリュイエールチーズのすりおろし…大さじ4塩、コショウ…各適量 

作り方

  1. ポーチドエッグを作る。大きめの鍋に水(1~2ℓ)を入れ、沸騰したら酢を加える。卵をひとつずつ割り入れる。スプーンで形を整えながら、弱火で3分間ほど火を通し、レードルですくい上げ、ふきんの上に取り出して水気をきる。
  2. 薄切りにしたタマネギを、3分間ほど湯通しし、水気をよくきる。鍋にバター30gを溶かし、弱火でタマネギをゆっくり炒める。うっすらと黄金色になったら、小麦粉を加え、焦がさないように弱火でよく炒める。
  3. 牛乳、ブイヨンを入れ、ダマにならないようによくかき混ぜる。塩、コショウをして味をととのえる。
  4. グラタン皿にバター適量を塗り、3の半量を敷き、その上に1を並べ、残りのソースをかける。グリュイエールチーズをふりかけ、 250℃のオーブンできつね色になるまで焼く。

memo
2度の結婚を経て、モネ家には、一時は10人を超える家族が暮らしていたこともあった。そんなモネのレシピは8~12人分と巨大なプレート仕立て。それを作りやすい4人分のレシピにアレンジした。ポーチドエッグとよくからむよう、濃厚なベシャメルソースが味の決め手。

クロード・モネ
Claude Monet(1840~1926) 
フランス・パリ生まれ。印象派の中心的画家。ノルマンディーで絵の勉強を始め、パリに移り、ルノワールらとともに、印象主義を打ち立てる。睡蓮の大作をはじめ、太陽の光とともに変化する自然界の色をとらえることに腐心した。写真はジヴェルニーのモネの家。


文・料理 林 綾野
キュレーター。美術館における展覧会の企画、美術書の執筆、編集に携わる。企画した展覧会に「パウル・クレー線と色彩展」など。『ゴッホ旅とレシピ』『モネ庭とレシピ』、近著に『フェルメールの食卓』(すべて講談社刊)。

北村美香・構成 竹内章雄・写真(料理)

本記事は雑誌料理王国第183号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第183号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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