to our READERS 読者の皆様へ 23年12月号

4月号のフレンチ特集「日本のフランス料理が歩んできた道」の中に、バブルが崩壊した1990年代になると、「フランス料理は値段が高く、高カロリーで店の雰囲気も堅苦しい」と言われ、冬の時代に。対してイタリア料理は値段も安くカジュアル。バターやクリームが少ないため健康的と言われブームになった、という記述があります。諸説あると思いますが、日本におけるイタリアンの定着をこのあたりと考えると、それから30年余り。どこまで深化したのか全国規模で取材して特集を組みました。まずはフレンチとイタリアンの違いは何かという素朴な疑問。特集の全てを取材、撮影した、フィレンツェ在住のジャーナリスト、池田匡克さんに伺いました。

「基本的にフランス料理はレストラン料理であり、イタリア料理は郷土料理の集合体であると思います。90年代に活躍したシェフ、ジャンフランコ・ヴィッサーニも、『イタリアにはイタリア料理は存在しない。あるのは無数の地方料理だ』とよく言っていました。イタリアという国家の概念が生まれたのは1860年なのでほんの160年前のことですが、ローマ帝国崩壊以降小国分裂を繰り返したイタリア各地で、それぞれの文化に根ざした郷土料理が生まれてきました。つまり、160年前まではそれぞれが同じ文化とルーツを持ちながらも外国の料理であり、それだけにバリエーションが豊かなのです。例えば当時ミラノの人にとってシチリアとは文字通り遠い外国であり、同じイタリアという概念は料理においてもなかったと思います」

イタリア料理は、明治以降に東京、名古屋、京都、大阪、福岡などの都市で地方色を取り入れながら独自に深化していった日本料理と系譜が似ていると思います。日本の地方に、もともと地方料理の集合体だったイタリアンがどのように広がっていったのか? イタリアンウイーク100(IW100)という全国のイタリア料理店100店舗が参加して11月18日から始まるレストランイベントでは、その深化系を見て味わうことができます。池田さんはIW100のディレクターで、今回取材した8件は、その参加店から厳選されたシェフ達。地産地消を担う日本で深化したイタリアンの現在をお楽しみいただけたらと思います。

料理王国編集長 野々山豊純