to our READERS 読者の皆様へ 24年2月号

バブルが崩壊して、自社さ連立の村山内閣が誕生した年、大江健三郎さんにノーベル文学賞が授与されました。料理界ではフレンチだけではなく、イタリアンにも注目が集まるようになり、世の中はITバブルに向かってデジタル化の波がやってきた頃だったと記憶している1994年。「知識」を超え、「技術」を超えて、人と料理の関係を考える雑誌です、というキャッチコピーを掲げて料理王国は創刊されました。料理は作る人の数だけ顔があり、その世界を持っている。その個性ある世界を「料理王国」と名付けたい。そしてこの王国が豊かになり、その数が増えることを願ってこの雑誌を創刊する。そんな創刊にあたっての決意が書かれています。創刊特集は、ミッシェル・ブラス。三つ星を獲得する前のフランスの山の中のレストランを紹介したのは、フランスでも特に資源のない貧しい牧草地帯に、料理する人の目からは豊穣な自然が見え、それを元に豊かなレストランを築くことができた、という事実を日本に紹介したかったから。そして日本にもある、豊かな「料理王国」を探る旅に出発しよう、と創刊の言葉は続いています。

料理王国は、シェフはもちろん、食に関わるすべての方を対象に、これまで331冊を送り出してきました。332冊目になる本号は創刊30周年。この30年で食を取り巻く環境で変わったこと、それは、美味しいことだけを求められていた時代から、環境や持続性、働き方までを考えて料理に向き合うようになったことではないでしょうか。東京などの大都会に集中していたレストランが、地方で独特の広がりを見せている。地方の伝統的な食文化を掘り起こし、独自の解釈で料理を提供する。生産者を巻き込んで観光客を呼び込む、地方創生の担い手になるような素敵なシェフ、料理人たちが育っているような気がします。30年前に紹介したミッシェル・ブラスのようなシェフが日本でも登場しているのです。

30年前に始まった料理王国を探る旅はまだまだ続きます。東京・恵比寿にタイユバン・ロブションがオープンした年が1994年。それから30年経って、同じ年の料理王国の大賞が関谷健一朗シェフになったことに、何かの縁を感じます。料理はインテリジェンス! これからも美味しく深い料理王国探しの旅にお付き合いください。

料理王国編集長 野々山豊純