おいしい日本再発見 in Kushiro

海と山が仲良し。そんな場所は根釧にしかない

今回旅をしたのは、釧路地区と根室地区にまたがる「根釧エリア」。日本最東端の地である。太平洋に面した沿岸部では、沿岸漁業が盛ん。昆布やウニ、牡蠣なども豊富だ。海岸付近には釧路湿地や霧多布湿地があり、その後方には日本で最大規模とされる広大な根釧大地がひかえる。ここ根釧は、その自然の力に接しながら共に生きてきた。

小松牧場
霧多布岬で、放牧による乳牛の飼育を行う。明治末期から続く牧場で、現在、乳牛50頭、育成牛80頭を飼育する。小売り用は、昔ながらの瓶詰。75°C15分の低温殺菌で、素材の風味を活かしている。地元で小売りする以外の牛乳を、タカナシ乳業に出荷している。

酪農王国
出産を終えた牛、1頭ごとにセンサーを付けて管理し、乳量や飼料の履歴など管理している。酪農を地域全体で持続可能にしていくため酪農王国では、新規就農者の育成や、企業が酪農業に参入しやすいシステムの構築、法人経営の農場設立を促進する働きも担う取り組みをしている。

タカナシ乳業の乳製品
新商品「ラ・モッツァレラ・フィローネ」の製造ラインを見学。生地の練り上げは、季節による原料乳の変化に対応しながら行っている。

日本にナポリピッツァを広めたパイオニアであるサルヴァトーレ・クオモさんと、日本を代表するピッツァイオーロ(ピッツァ職人)の大西誠さん、久野貴之さんの3人が、「タカナシ乳業」の製造工場を視察するために、釧路空港へ降り立ったのは、2015年11月下旬。 まず、タカナシ乳業が乳製品に使う牛乳を生産する農家のひとつである、浜中町の「小松牧場」を訪れた。

「根釧エリアは、夏の平均気温が度と低く、農業には向きません。ですから、酪農しかできない、というのがその答えでしょうか。でも、暑いのが苦手な牛には快適な場所なんですよ」と笑顔で話す牧場主の小松昭彦さん。「牛乳の質は飼料で決まります。海に面したこの地の牧草は、海のミネラルをたっぷり含んだ潮風を受けて育っています。放牧ですから、牛にもストレスもありません。だからおいしい牛乳が搾れるんです」

また、釧根台地、浜中町東部の姉別地区に位置する「酪農王国」も、タカナシ乳業に出荷する牧場だ。 390ヘクタールの敷地で、1000頭の牛を飼育。1日6200キロリットルの牛乳を生産。この量を、放牧飼育で生産しているのは驚きだ。「放牧飼育をするのは、牛乳の味にこだわるからです。牧草やサイレージ(発酵させた牧草)を中心に、足りない場合に穀物飼料などで補うようにしています。」と酪農王国の場長、土屋仁さんは語る。

浜中町酪農技術センター牛乳を遠心分離器にかけ、脂肪分を取り除いたものを、約3倍に濃縮した「北海道脱脂濃縮乳」をテイスティングするサルヴァトーレさん。

ほえいとん
タカナシ乳業の工場から出るホエイ(乳清)を譲り受け、飼料に加えて育てた豚。「北海道はまなか ほえいとん」としてトンタス浜中が販売。

厚岸湖で養殖される「カキえもん」
浜中町の西に位置する厚岸町は、古くから牡蠣の名産地と知られ、汽水湖の厚岸湖で養殖される「カキえもん」は芳醇な風味と旨味が絶品。

山と海が近い。だからこそお互いが思いやることが必要

浜中町でとれた牛乳は、浜必ず酪農技術センターで科学的な乳質検査が行われる。同センターで分析コンサル係長を務める金子利弘さんは、全国の先駆となる分析施設は、浜中町の産業を守るためにも重要な役割を持つと話す。「浜中町でできる農業は、酪農しかありません。ですから、酪農を未来へつなぐことが、私たちの大きな使命。そのため、牛乳検査の他、土壌や牧草などの検査も行っています。」

海と山が近い浜中町では、牧場の糞尿処理が悪いと、地下水や周辺水系に流れ、海までも汚濁させてしまう。現在、コンクリートでできた大型装置に糞尿を貯留管理しながら、肥料として牧草地に散布しているが、それが適切に行われているか、また過剰肥料はないかなどの土壌検査を行い、環境保全に努めている。

根釧の地の恩恵がもたらす牛乳の質の高さを大切に

釧根台地に位置するタカナシ乳業の工場では、根釧各地から集められた生乳を、牛乳や生クリーム、バター、チーズに加工する。「最高の素材が、最高の商品をつくる」と考える北海道工場の工場長齊藤博昭さんは、地域の産業を未来につなごうとする循環型農業についても知ってほしかったという。

「海が山を思いやり、山も海を思いやる。お互いがこんなに仲良しなのは、イタリアにもないかも。素晴らしいね。この土地の良さを料理で表現したい」と、サルヴァトーレさんは産地を訪れ、感銘を受けたようだ。

タカナシ&根釧食材フェア開催!

今回の旅で訪れた根釧産の牛乳から誕生したタカナシ乳業の「ラ・モッツァレラ・フィローネ」や「脱脂濃縮乳」などのチーズや乳製品と、「カキえもん」や「ほえいとん」といった根釧の山と海の食材を使ったレストランフェアを2016年1月6日~31日の期間、4店舗で開催します。3人が旅を通じて得た根釧の記憶をひと皿にした特別メニューを、この機会にぜひ堪能してください。

ゼックス愛宕グリーンヒルズ KUSHIRO 2016
ザ キッチン サルヴァトーレ クオモ 銀座
北の大地 PIZZA TERRA DEL HOKKAIDO
築地パラディーゾ / 築地トゥットベーネ
Pizza fritta “Takanashi”

「ゼックス愛宕グリーンヒルズ」
Salvatore Cuomo サルヴァトーレ・ クオモ

1972年、イタリア・ナポリ生まれ。88年に来日。以後、日本とイタリアを行き来しつつ修業を重ねる。2001年に「XEX DAIKANYAMA / Salvatore Cuomo Bros.」を開く。その後も次々と新店をオープンし、ナポリピッツァ普及の立役者に。

「ザキッチン サルヴァトーレクオモ 銀座」
Makoto Onishi 大西 誠

1975年、奈良県生まれ。2002年に渡伊。翌年、ピッツァ職人の世界大会「Pizzafest」で外国人初の最優秀賞に輝く。同年、帰国し、現ワイズテーブルコーポレーションに入社。12年より「日本ナポリピッツァ職人協会」会長も務める。

「築地パラディーゾ」「築地トゥットベーネ」
Takayuki Kuno 久野貴之

1973年、東京都生まれ。高校卒業後、「駒形どぜう」で2年間修業。その後、イタリア料理に転向し、恵比寿の「イル・ボッカローネ」などを経て、2011年に「築地パラディーゾ」で独立。15年に「築地トゥットベーネ」をオープン。