飲食店に代わって、市場に出向き、魚介類を仕入れる“納め屋”。注文に応じて加工、アドバイスなども行う、いわば陰の立役者。そんな納め屋の仕事と現状について紹介する。
〝納め屋〞という仕事をご存じだろうか? 確固たる定義はないが、わかりやすくいえば、飲食店に代わる食材の購入代理業のこと。業種としては、水産物卸売業、加工業などと表示されることが多い。
たとえば築地。築地の仕入れと聞けば、朝、仲卸をまわる姿を想像するのが一般的だろう。もちろんそれをやっている料理人は多くいる。しかし、営業が深夜に及び早朝の築地を訪ねるのが大変、ランチ営業の仕込みがあり午前の時間がとれない、そういう悩みを抱えている店が多いのも事実。そこで活躍してくれるのが、納め屋、というわけだ。
納め屋が行っている購入代理という仕事の主軸は、顧客のリクエストに応じて、必要な魚介類を買い集めること。しかし、これはあくまで一業務にすぎない。必ずといっていいほど行っているのが配達。築地に来られない飲食店のため、そして魚介類は鮮度が命とあり、なるべく早く届けるため、納め屋自ら、納品のための配達を行っている。
そして「近年、納め屋に求められているものはますます細かくなっています」と160余年の歴史を誇る納め屋の大手、足立商店・代表取締役の足立純子さんは語る。「現在、納め屋における重要なサービスのひとつは魚介類の加工です。三枚おろしに始まり、小骨を取ったり、ひと口大の大きさや細長い幅に切ったりと、求められる要求にお応えしています」。そのため、足立商店では築地市場の場内に加工場を持つ。受注、仕入れ、加工、納品までをひとりの担当者が担い、取引先の細かいニーズや状況を漏らさず把握するようにしているのだ。
「大事なことは信頼関係」と足立さんは言う。「飲食店の方に代わって仕入れも行っていますので、目利きである必要があります。お店の方はもとより、今はお客さんも非常にシビアです。ですから、よい商品を選ばなければいけません」。それが取引先との信頼関係である。また、同時に市場での信頼関係も必要不可欠。というのも、魚介類の捕獲はどうしても気候条件に左右される。しけの場合は、予定していた魚介類が集まらないことも珍しくはない。そんな時こそ、信頼関係が物を言う。長年かけて築き上げた人脈を使い、文字どおり場内を駆けずり回り、必要な物を調達するのだ。
とあらば、魚介類に関する知識も当然持ち合わせている。旬や産地はもとより、その日の市場の動向を見て、おすすめを提案することも少なくない。
足立さんはこうも付け加える。「私たち納め屋は、顧客に対してNOは言いません」。そのため、味噌から探して味噌漬けを納品したことも、魚介のみならず青果を届けたこともあったという。足立商店ではホテルなどの大口の顧客が多いが、個人飲食店ともつきあいがある。納品の大小にかかわらず、リクエストはますます小ロット多品種になっており、それらにきっちり応えていくことが納め屋の仕事なのだ。
さぞや需要も高まっていると思いきや「確かに問い合わせはよくいただきます。そこで言われるのは『こういう仕事があるんですね』という声。納め屋という仕事がまだまだ知られていないのかなと思います」と足立さん。というのも、仕事時間のズレなどにより、納め屋と飲食店が知り合う場が圧倒的に少ないのだ。納め屋の仕事を広く知ってもらう、それが目下の課題である。
とはいえ、飲食店に代わって臨機応変にアウトソーシングを担う納め屋の仕事、見方によっては、飲食店にとってこれほど心強い仕入れ方法はない。さまざまな仕入れ方のメリット、デメリットを検討しながら、それぞれの店舗に合った仕入れ方をこの企画を機に見つめ直し、納め屋を選択肢のひとつにしてみてはどうだろう。
羽根則子・文/構成
本記事は雑誌料理王国207号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は207号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。