牧野も餌もオーガニック。日本発のオーガニックビーフ体験


放牧で育ち、未利用資源を食べる北海道オーガニックビーフ

海霧がけぶる釧路の牧草地で、漆黒のアンガス牛たちが思い思いに草を喰み、寝転びながら暮らしている。この放牧地全体がオーガニック認証を取得しているため、ここに生える草を食べている牛はオーガニックの対象となる。春に生まれ、母牛の乳と牧草で育った子牛は、雪が降る季節になるとゆったりした広さの牛舎に入り、出荷までの期間を過ごす。そこで食べるのは、夏の間に刈り取った乾草に加え、オーガニック認定をとった醤油粕におから、ドライフルーツやナッツといった〝ごちそう〞ばかり。餌桶に飼料が入ると、アンガス牛たちがわれさきにと餌をめがけて駆け寄り、すごい勢いで食べていく。

「ドライフルーツの甘さやナッツの油脂分は、牛にとってもおいしいらしく、喜んで食べます」というのは、このオーガニックビーフの所有者である青山商店の青山次郎さんだ。

青山商店は、食品の未利用資源を畜産飼料にして販売するスペシャリストで、全国の生産者に栄養価の高い飼料を届けてきた。未利用資源とは、たとえば豆腐製造時に出るおからや醤油を絞った後の醤油粕、食品の規格外品などのこと。廃棄されてきたこれらの資源を、栄養価に富む飼料として利用する。次郎さんはこの仕事をするなか、北海道でオーガニック畜産を推進する団体であるHOBAと関わることになり、オーガニックの食品未利用資源の供給を頼まれた。それが縁で、昨年からはオーガニックビーフの所有と販売も行うことになったのだ。「有機豆乳や有機醤油の粕をベースに、有機のドライフルーツやナッツの規格外品をミックスすると、栄養価の高い餌となります。廃棄するはずだった未利用資源を牛が食べ、オーガニックビーフを生産できる。これは社会的に意義がある仕事だと思ったのです」

未利用資源の活用はフードロスの削減に繋がる。加えて畜産のオーガニックでは、家畜が快適に暮らすためのアニマルウェルフェアも遵守する必要がある。先に挙げた「倫理的な肉」という存在にこれほど近しい牛肉が他にあるだろうか。

もうひとつ重要なのが味わいだ。世界のオーガニックビーフの生産では、放牧して草だけを食べさせるものが多い。しかし青山さん特製の未利用資源は、栄養価の高い素材をベースにしているため、ほどよい脂も乗るのである。こんな「倫理的でおいしいオーガニックビーフ」を体験することで、これからの日本人の食べるべき肉のあり方が見えてくるかもしれない。

「釧路生まれ、釧路育ちのオーガニックビーフ」のフィレステーキ。有機の未利用資源を食べることで断面にほどよくサシも入る。オーガニックでありながらリッチな味わいを実現した。

SNSでフォローする