to our READERS 読者の皆様へ 23年8月号

観光が主目的ではなく、美味しいものを食べてのんびりする旅、それがオーベルジュ。そう考えると、有名な観光地や史跡がなくても、どこでもオーベルジュを作れば、その料理を目指してゲストはやって来るはず。去年8月号で紹介した富山県のレヴォはまさにその象徴のようなオーベルジュで、今や世界的にも有名になっています。

観光客を呼び込むための大きな施設を作らなくても、1軒のオーベルジュがあれば、地元の食材を使うことで生産者を支援し、食材を有名にすることができるかもしれない。何より美味しい食材を地元で調達できれば、より美味しい料理を作ることができる。地方に埋もれている先人の料理の知恵を学びさらに美味しい料理に仕上げることも出来る。美味しい料理を作る人がオーベルジュを作れば、生産者や地元の料理文化を知る人たちのネットワークが出来上がる。そんなに単純なものではないけれど、実際、特集で紹介した6軒は、それぞれ素敵なストーリーを持ったオーベルジュで、その地方で地域おこしのハブになる魅力を持っていました。そこでは地域の人が集まり知恵を出し合い、ゲストを迎えてくれます。大きな観光施設がなくても1軒のオーベルジュがあれば、地方創生の未来を担うことが出来るのではないでしょうか。そんな魅力を秘めたオーベルジュを進化系と名付けて取材しました。

オーベルジュはレストランに宿泊施設がついている形態を言いますが、地方創生を担うため、レストランがひとつ出来れば、人が集い、そこでいろいろな化学反応を起こすことが出来るのでは? そのレストランが極上の美味しい料理を出すとするならば、そこに行く旅は、B級グルメの旅とは一線を画す、ガストロノミーツーリズムになります。もう一つの特集では美食都市とは何かを考えながら、スペインのサン・セバスチャンなど海外の実情から日本の現状までをリポートしました。

オーベルジュの進化系とガストロノミーツーリズムから、食が起こす社会変革について考えます。

料理王国編集長 野々山豊純