2024年10月18日
広東料理でキャリアをスタートし、四川料理を深めた「茶馬燕」の中村秀行シェフ。雲南省の少数民族の食文化や、マレーシアの中華料理であるニョニャ料理にも造詣が深い。現地を体験して気付いたのは、日本で現地の味を100%作り出すのは不可能だということ。ゆえに中村シェフは、肉や魚や調味料などの発酵食材をすべて自ら仕込むという。
中村秀行シェフが常に目指しているのは「食べ手の身体と心の健やかさにいい影響をおよぼす料理」を提供すること。「実は、中国の少数民族の料理の根底にも同じ思想が流れているような気がしています。発酵由来のうま味を使ったり、ハーブやスパイスの香りで味わいに厚みや深みをもたせたりと、自然の力を非常に上手に使いますから身体に悪いわけがない。初めて雲南省や四川省に赴いたときに、中国少数民族料理のそのような凄みに気づいて以来、引き込まれました」。
例えば「土中発酵きゅうりと豚肉の山椒オイル煮」。夏場に大量に収穫したきゅうりに塩を振り、ビニール袋に入れて土の中に埋めて発酵させたきゅうりが主役。それを豚肉・豆腐・もやしとともに炒めた後に熱した油を回しかけて仕上げる。きゅうりの発酵由来の酸味とうま味が豚肉と絡み合う旨酸っぱい味わいが、なんとも食欲を刺激するこの料理、実はこの7年ほど中村シェフのまかない料理だった。「酸味があって食べやすいし、乳酸発酵したきゅうりなので胃腸にも優しい。仕事で疲れた晩のまかないとしては最高なんです」