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なかなか味わえない!中国少数民族料理「旬菜 茶馬燕」


現地の味の再現は自分の仕事ではない。

広東料理でキャリアをスタートし、四川料理を深めた「茶馬燕」の中村秀行シェフ。雲南省の少数民族の食文化や、マレーシアの中華料理であるニョニャ料理にも造詣が深い。現地を体験して気付いたのは、日本で現地の味を100%作り出すのは不可能だということ。ゆえに中村シェフは、肉や魚や調味料などの発酵食材をすべて自ら仕込むという。


中村秀行シェフが常に目指しているのは「食べ手の身体と心の健やかさにいい影響をおよぼす料理」を提供すること。「実は、中国の少数民族の料理の根底にも同じ思想が流れているような気がしています。発酵由来のうま味を使ったり、ハーブやスパイスの香りで味わいに厚みや深みをもたせたりと、自然の力を非常に上手に使いますから身体に悪いわけがない。初めて雲南省や四川省に赴いたときに、中国少数民族料理のそのような凄みに気づいて以来、引き込まれました」。

例えば「土中発酵きゅうりと豚肉の山椒オイル煮」。夏場に大量に収穫したきゅうりに塩を振り、ビニール袋に入れて土の中に埋めて発酵させたきゅうりが主役。それを豚肉・豆腐・もやしとともに炒めた後に熱した油を回しかけて仕上げる。きゅうりの発酵由来の酸味とうま味が豚肉と絡み合う旨酸っぱい味わいが、なんとも食欲を刺激するこの料理、実はこの7年ほど中村シェフのまかない料理だった。「酸味があって食べやすいし、乳酸発酵したきゅうりなので胃腸にも優しい。仕事で疲れた晩のまかないとしては最高なんです」

土の中で乳酸発酵させたきゅうりを豚肉とともに四川料理の調理法で仕上げた「土中発酵きゅうりと豚肉の山椒オイル煮」。麻辣の風味と酸味とうま味が絶妙なバランスで絡み合う一品だ。
きゅうりを縦にスライスした状態で塩をふり、ビニール袋にいれてから土に埋めて発酵させる。萎びているが、水分が抜けているので加熱調理に向くのだ。5 ~6秒だけ水で洗えば使えるそう。

中国少数民族の発酵中華は、世界の食文化のアイデア源。

「発酵させた食材や調味料を駆使し、香り、辛味、苦味、甘味などの要素をハーブやスパイスで積み上げる中国少数民族料理は、フランス料理やイタリア料理、そして日本料理といったさまざまなジャンルの料理人にとっても参考になるアイデアや考え方が詰まっていると思います」。

例えば「酸鴨(鴨のなれずし炒め煮)」は、蒸したもち米で作った漬け床で発酵させた鴨肉にトマトを合わせて炒め煮にした料理。
この製法は琵琶湖の鮒ずしのルーツだともいわれているが「発酵させた鴨肉を熟成させた肉と捉えるならば、イタリア料理などに見られる生ハムやベーコンとトマトの組み合わせとも解釈できる」と中村シェフは言う。

「酸鴨」は、蒸したもち米の漬け床で、生の鴨肉を常温で数日間、その後冷蔵庫で1週間発酵させた “鴨のなれずし”を炒め煮にした料理。中国少数民族の間では、豚や牛、淡水魚などもなれずしにする。
調理前の鴨のなれずし。肉の中心部まで発酵が進んでおり、容器から出した瞬間に爽やかなヨーグルトのような香りが立ち込める。漬け床としたもち米もうま味の塊なので、ともに料理に使う。

そんな話を聞きながら鴨肉を齧れば、これが肉か? と見紛うような爽やかな酸味が口の中を巡り、うま味がひたすら長く続く感覚。まるで品の良いチーズ料理を味わっているかのような気にもなる。

食材を発酵させるという過程を自らの手で行なうことで、中華料理の本来の成り立ちが見えてくる。

中村秀行(なかむらひでゆき)
1973年埼玉県生まれ。「東天紅」、「招福門」での修業の後、半年間かけて中国を中心に東南アジアを旅する。帰国後「菊華」の料理長を経て、「白金亭」(東京・白金)の立ち上げに参加。2009年に「中国旬菜 茶馬燕」を開く。日本中医食養学会認定薬膳アドバイザー。

中国旬菜 茶馬燕
神奈川県藤沢市南藤沢20-15
第一興産18号館6F
TEL 0466-27-7824
12:00 ~ 13:30(最終入店/土日のみ)
17:30 ~ 20:30(最終入店)
水休(不定休あり)


text 小林淳一 photo 松園多聞

本記事は雑誌料理王国2019年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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