「毎日、4種の果実種を漬けています。1杯400円全部飲んで1000円!!4種で1000円 頑張る人にえこひいき♥」。ロッツォシチリアのメニューには、こう手書きされている。
「そういわれりゃ、頑張っちゃうよ」と、酒飲み心に火がついて、「全部」と頼む。テーブルに瓶が並ぶ。リモンチェッロにオランチェロ、林檎にスパイス系。「おっと、これは飲みやすい。コイツはスパイスでシャキッとなる。飲んでみる?」と、連れと一緒に片っ端から飲めば、いい気分。いや、かなり出来上がる。
翌日少し反省をするのだが、しばらくたつとまた、無性にこの店に来て、暴れたくなる。これは、確実にワナである。
サービスを務める阿部努さんと中村嘉倫シェフは、「お客さんが、気兼ねなく、目いっぱい飲んで、食べて、笑って帰ってもらえる店」を理想としていた。
「食後にも山場があって、皆でふらふらになっていく。食堂はそうじゃなきゃって、中村も僕もそう思っていたんです」と、阿部さんは語る。
そこで店を始めるにあたって、果実酒を何種類も手作りした。本来はスピリタスのような度数の高い酒でエキスを抽出するが、加水してもアルコール臭が残るため、通常のジンやウォッカを使う。様々な果物で試行錯誤をした。結果、黄色い果物は酸が強いので、ジンが合い、オレンジ色の果物は、ブランデー香りを合わせると、うまくいくようになった。
こうして香り高く飲みやすい、気がつくと酔っぱらっている、素晴らしき果実酒が生まれたのである。「最後にこれがあると思うと、逆算が出来るんです。会話に遊びが生まれて、凄く楽しい。お客様が一つの頂点を目指して、一緒に登っていく感じでしょうか」
共に酒を飲み、酔う。その共闘体験が楽しくて、また店に足を運んでしまうのである。
食後酒の会話は、ワインとは異なる。ワインでは、どこかでカッコをつけていても、スピリッツでは、声が大きくなって肩を組み、腹を割って話せようになる。
だから接待も楽になるという。しかも接待側が飲ませているのでなく、店側が飲ませているのだから。
確かにこの店は、食後酒の効用を熟知し、活用している。しかしだからといって、ただ自家製果実酒を沢山置いているだけではない。
人生を少しでも愉快に、楽しくやってもらいたい。食後酒を飲んで大きな声になり、笑い合い、酔っぱらえば、人生捨てたもんじゃないと思えるはず。そう心から願う気持ちが、店の隅々まで溢れているからこそ、楽しい。また来る。また酔っぱらう。
食堂とは、それでいいじゃないか。それ以上なにがあるのか。
最後に、今後どんな果実酒に挑戦していくつもりかと尋ねた。すると「今度はマルサラを充実させようと思っています」。ああ僕らは、また彼らの悪巧にはまるのか。上等だあ。かかってこい。
ロッツォ シチリア
東京都港区白金1-1-12内野マンション1F
03-5447-1955
● 18:00~24:00LO
● 日休
● アラカルトのみ
● 28席
本記事は雑誌料理王国第237号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第237号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。