「イ・ルンガ」堀江純一郎、炎の肉料理(牛肉編)


ピエモンテ州やトスカーナ州で培った、肉焼き術に定評のある堀江純一郎さんが、牛肉、豚肉、羊肉の3種の肉を使い、ロースとスネのふたつの部位について、調理のコツを伝授します。

大和牛のタリアータ

外側は焼き色がついて香ばしく、中身はロゼでしっとりと焼かれた大和牛のロース。薄すぎず、厚すぎない1cm程度の厚さに切り分け、フルール・ド・セルを塩気のアクセントにし、ハーブオイルを香り付けにした。黒毛和牛のジューシーな旨味をストレートに感じる料理。

肉質のよさ、ジューシーな旨さを発揮

Point 1
5cm程度の厚さにカットしたロースを充分に室温に戻す。塩、コショウをふりながら、熱したグリルパンで両面を格子状に焼く。この段階ではまだ表面を焼き固める程度で、中はレアの状態。

Point 2
内部に火を通すため、180℃のスチームコンベクションオーブンに入れる。片面焼いたら裏返し、トータルで約5分間ロースト。その後、70~80℃のオーブンに入れて、肉を約15~20分間休ませる。

性格の異なる「ロース」と「スネ」をいかに使い分けるか

肉質がやわらかく、グリルやローストに向く「ロース」。いっぽう、肉質が硬く、煮込みに向く「スネ」。堀江純一郎さんには、この性格の異なるふたつの部位を、牛肉、豚肉、羊肉の3種の肉を使って、6品料理を披露してもらうこととなった。

「ロースは、ていねいな焼き加減が命。スネはやっつけなきゃだめ。やわらかくするためには調理時間はかかるけれども、それだけにリターンが大きい。最後に『来たぜー!』って、充実感があるのはスネですね」と、ニヤリと笑う堀江さんは、まさに肉焼きファイター。メラメラと燃える炎をプリントしたコックパンツが、それを物語っていた。

今回牛肉は、奈良県の黒毛和牛「大やまとうし和牛」が使われた。鎌倉時代にすでに存在した銘牛だという。
「イタリア料理の場合、ロースは赤身のおいしさが決め手。そこで今回使った大和牛は、月齢32カ月まで肥育した未経産の雌牛で、比較的サシの少ないものを選びました」
「牛肉のタリアータ」は、シンプルな料理だけに、肉選びはもちろん、火加減と休ませ方が重要。「とくに和牛は火の入り方が早いので、目が離せません」と堀江さんは話す。

いっぽうスネは、香味野菜やハーブと一緒に鍋で気長にゆでることで、肉質がやわらかな「ボッリート」となった。前菜料理が豊富な「これぞ、ピエモンテ!」の一品である。
「この料理をピエモンテで前菜として出されたとき、こんなに手間のかかる料理を前菜にするなんて、ピエモンテ人は食いしん坊だなあって思いましたね」
トロトロにやわらかくなった筋肉を愛でつつ、酸味のある赤と緑の2種類のバニェットソースで味わうボッリート。スネ肉もリストランテのイタリア料理になりうることが証明されたひと皿だ。

大和牛のボッリート 赤と緑のバニェットソース添え

筋肉質な牛スネを時間をかけてゆでることで、肉質はやわらかくなり、野菜や香草の風味を取り込む。あえて取り除かずに残した脂身が、とろりとした旨味を添える。酸味が利いたバニェットソースは赤がトマトベース、緑は香草ベースでゆで卵の黄身入り。

硬い牛スネを、スジまでやわらかくゆでる

Point 1
スネは仕上げに旨味を残すために、周りに付いた脂身をあえて取り除かない。指でつまんだスジの部分もカットしない。このスジの部分がプルプルになったときが、ゆで上がりのサインとなる。

Point 2
鍋に水を張り、香味野菜やパセリ、ローリエ、クローブ、シチリア産の岩塩、白粒コショウ、シェリービネガーとともにスネ肉をゆでる。時々アクを取り除きながら、肉に竹串が通る寸前まで火にかける。

牛 肉

<料理に使用した牛肉>
●生産地/奈良県宇陀市●
種類/未経産の雌牛を月齢32カ月まで肥育させた黒毛和種の大和牛。●肉質等級/A2級。堀江さんはサシが少ない牛を特別に指定。(写真上がスネ肉、下がロース肉)。

沖村かなみ=文・構成 太田恭史、山家 学=写真

本記事は雑誌料理王国181号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は181号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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