国産ジビエの人気は日増しに高まり、目玉メニューに掲げる飲食店も少なくない。目下の課題は、野生鳥獣ゆえ、安心安全が徹底したジビエの安定提供である。フランス食材輸入のパイオニアであるアルカンでは、20年前から国産ジビエを取り扱っており、加工処理施設との協力体制を整え、仕組みを作りながら、ますますの国産ジビエの普及を目指す。
もはや説明不要だろう。ジビエはすっかりお馴染みとなり、家庭で食べる機会こそ多くないものの、外食では浸透しており、ジビエメニューを看板にうたう店も少なくない。
ところが、である。家畜肉とは違う食材としてのジビエは知られるようになったものの、果たして、人の口に入るものであるがゆえの、安全安心についてはどうだろうか。提供する店側も、消費者も、一般的には理解が深くは進んでいないのが現状だろう。というのも、ジビエは飼育段階で人の目が行き届いた家畜と違い、野生動物であるため、よりていねいに衛生に注意を払う必要があるからだ。
このような現状を鑑み、2023年の年明け間もない、1月17日、東京日本橋蛎殻町のアルカン社キッチンを会場に、「国産ジビエ料理セミナー」が開催。プロの料理人を対象とした2時間のセミナーに、全国から15名が集結。
① ジビエの認証制度
② 枝肉解体・各部位試食
③ 最新の処理施設の紹介
の三本柱で、セミナーは進められた。
当日の講師は、日本ジビエ振興協会代表理事の藤木徳彦さん。藤木さんは、長野県蓼科高原のフランス料理店「オーベルジュ・エスポワール」のオーナーシェフでもあり、自らも店舗で四半世紀にわたってジビエと向き合っている。そのため、実践に基づいたきめ細やかで具体的なアドバイスができるのだ。
まず、セミナーで行われたのは、①ジビエの認証制度について。鳥獣被害対策と捕獲の現状から話が進められた。近年のジビエ人気の理由に、〝食べて応援〞することで、野生鳥獣による農林業被害を軽減できるのではとの思いがある。2020年度の被害額は161億円にものぼる。10年前、2010年度の239億円という数字と比較すると減少はしているものの、安心できる数字とは言い難い。主な動物は、シカ、イノシシ、サル。森林の被害面積は約6000ha。そのうち、シカの被害は7割だ。
捕獲頭数を見ると、シカが67万頭、イノシシは68万頭で、捕獲頭数は年々増加しており、被害防止などを目的とした許可に基づく捕獲が大きく増えている。しかし、捕獲頭数が増加しているからといって、そのまま食肉として利用できるわけではない。繰り返すようだが、ジビエは野生鳥獣。衛生面から、肉処理業を取得した施設で処理されるのは必須である。
そのジビエの処理加工施設に目を向けてみる。2020年現在、全国に691の施設がある。処理した野生鳥獣は2021年で約14万4500頭・羽。前の年に比べて8%近い伸びを見せている。それだけ需要も供給も増えているのだ。
ただし、手放しで喜べない点がある。数だけ見ると全国ほぼすべての都道府県に処理加工施設は点在しているが、まだまだ数は不足しているし、稼働しているすべての施設が、必ずしても衛生環境などに十分に配慮しているとはいえない。他の多くの業種同様、人材不足の問題もある。そのため、せっかく処理加工しても流通まで手が回らない、といった課題を抱える施設も少なくない。
そこで現在、アルカンでは、農水省や日本ジビエ振興協会、食肉加工施設などと共に、安心安全なジビエを全国で流通させるための「国産ジビエブランド推進コンソーシアム事業」の準備を進めている。アルカンが主に担うのは流通面だが、法律や衛生面、部位の特徴や調理法などの啓蒙活動も大切だ。今回のセミナーの狙いはまさにそこにある。
セミナーでは、食品衛生法や国産ジビエ認証制度についても詳しく説明がなされた。平たく言うと、許可のない施設、自ら捕獲、猟師から直接、ネットオークションで購入はできないのだ。
この後、②枝肉解体・各部位試食が行われた。特に解体は、実際に間近で見られるまたとないチャンス。スマホ片手に参加者が集まった。試食は、シカだけではなくイノシシも登場した。肉の部分は、シンプルに焼く、という同じ条件下だったからこそ、それぞれの部位の食感の違いが明確にわかるものだった。実際に体験することで理解はより深まる。
最後に、③最新の処理施設の紹介として、信州富士見高原ファーム(長野県)、西米良村ジビエ処理加工施設(宮崎県)、わかさ29工房(鳥取県)の各担当者が登壇。会場提供したアルカンは流通、参加者は飲食店の料理人と、ジビエへのアプローチの仕方が異なる。それぞれの業界から集まり学んだ、有意義な時間だった。
藤木徳彦
1971年東京都生まれ。高校卒業後、長野県・蓼科高原のオーベルジュで修業し、98年に「オーベルジュ・エスポワール」開業。日本ジビエ振興協議会代表理事でもあり、日本各地にセミナーや講座、料理教室に講師として赴く。大学・高校の講師も務める。
text :Noriko Hane photo: Yusuke Onuma