食材一期一会 第17回 ルージエのフォアグラ 中村哲也×鈴木啓太 24年8月号


ジャンルの異なる料理人が同じ食材テーマに料理を考え、仕上げるYouTubeチャンネル「料理王国」の人気企画「食材一期一会」。今回は欧州食材のパイオニア・アルカンとコラボレーション。フランス料理店「フィリップ・ミル 東京」の中村シェフと「ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座」の鈴木シェフが、ルージエのフォアグラを使用した逸品を作る。

塩釜で蒸してプルッとした食感に あぶり仕上げで香ばしさも

フランス料理らしい食材と聞いて真っ先に浮かぶのがフォアグラ。もちろん日本料理や中国料理など他の業態でもよく使われるようになったが、それでもやはり、フレンチのテリーヌやポワレの正統なおいしさは、何にも代え難い。フォアグラ料理に定評のあるレストランのシェフ達に秘訣を聞くと、口を揃えて「上質なフォアグラを使うこと」だと言う。動物性脂肪が主の食材であるから、質が悪いと、これはもう箸にも棒にもかからないのだ。

ルージエのフォアグラ

世界120カ国のシェフが愛用するフランスのフォアグラ「ルージエ」。1875年創業の歴史をもち、本拠地はトリュフの名産地でもあるペリゴール。日本には1960年代に初めて輸入され一流ホテルの料理長などがこぞって使用しフォアグラの代名詞的ブランドになった。

アルカン業務食材営業部 TEL 03-3664-5114

今回、フォアグラ料理を披露いただくのは、株式会社ひらまつが展開する二つのブランド店「フィリップ・ミル 東京」と「ブラッスリーポール・ボキューズ 銀座」のシェフ達。シャンパーニュ地方ランス「レ・クレイエール」で長年シェフを務めたフィリップ・ミル氏は今春、自身のレストラン「アルバンヌ」を開業した。彼の名を冠した世界で唯一のレストランでは、そのエスプリを中村哲也シェフが忠実に皿に投影する。一方、ポール・ボキューズ氏のフィロソフィーを受け継ぐブラッスリーのなかでも、「伝統とモダンの融合」をコンセプトとする銀座店には今年5月、大丸東京店から新たに鈴木啓太シェフが着任した。

彼らが愛用するのは、株式会社アルカンが扱うフランス・ルージエ社のフォアグラ・ド・カナール。「いくつかのブランドのフォアグラを同時に調理して食べ比べたことがあるのですが、ルージエのフォアグラは焼いた時の香りが良く、味わいも素晴らしかった」と中村シェフ。鈴木シェフも「ルージエは加熱しても脂が出過ぎず、しっとり仕上がります」と評価する。近年、鳥インフルエンザによる輸入規制でフォアグラの入手が困難になっているが、アルカンでは新鮮なフォアグラを最新技術で急速冷凍したルージエのホールタイプの在庫を確保している。

会社は同じだが一緒に厨房に立つ機会は滅多にないので新鮮、と話す2人。

まずは中村シェフから調理スタート。3年前に発刊されたフィリップ・ミル氏の本に載っている、塩釜包み焼きを作るという。塩釜の生地は塩、ソバの実、ソバ粉、卵白を混ぜ合わせてシート状にし、1日ねかせたもの。美しい石のような仕上がりはランスの採石場跡地(現在はシャンパーニュメゾンのセラーとして有名)からインスピレーションを受けたもので、シャンパーニュのミネラル感や味わいの厚みをも連想させる。「フィリップ・ミル氏はソバの実について“グルテンフリーの方にも召し上がって頂ける食材。私の好きな日本旅行も連想させます”と話していました」と中村シェフ。
「大小の房に分け、大きいほうの形をととのえ、丸ごと生地で包みます。ホールのフォアグラだからこそできる調理法ですね。しかし、塩釜を開けてみるまで火の入り具合はわからないという、料理人の腕が試される一品でもある。オペレーションの都合上、当店ではまだ提供していないのですが、いずれ特別なイベントなどで提供できたらと思っています」

塩釜生地にのせ、四方からフォアグラを包んで密封。

オーブンで20分間焼いた後、何℃の場所で何分間やすませるかは、フォアグラの芯温状態により決める。一度刺した金串を、くちびるの下に当てて感じ取る昔ながらのやり方のほうが、デジタルより的確につかめるというのだから、まさに経験に勝るものはない。

180℃のオーブンで10分、前後入れ替えて10分焼き、やすませる。

つけ合わせのエリンギやアーティチョーク、マッシュルームのブイヨンソースなどを用意し、いよいよ塩釜を開封。

フォアグラを傷つけないよう、そっと刃先で塩釜生地に1周切り込みを入れる。緊張の面持ちの中村シェフだが、湯気をまとってツヤツヤに輝くフォアグラが姿を表すと、頬が緩んだ。大成功、ということだろう。
「仕上げに焼き色をつけます。フライパンでポワレすると火が入りすぎるので、バーナーでさっとあぶる程度に」

マッシュルームのブイヨンを煮詰め、水溶き葛粉でリエする。
バーナーであぶり、香りを立たせる。

ジュ・ド・ヴィヤンドをひと塗りしてコショウをふり、再び塩釜にもどし、客席にプレゼンテーション。切り分けて皿に盛る。試食した鈴木シェフは「いい香りがたまらないですね。2段階の火入れにより、表面の香ばしさと、プルふわっとした中の食感が味わえる。とても勉強になりました」。

フォアグラ ソバの実の塩釜焼き キノコの旨み
エリンギはホイル焼きにしてからスライスしてソテーすると縮みや反りが防げる。マッシュルームの濃縮ブイヨン、アーティチョークのピュレとチップ、ソバの実のロースト、ソバ粉のチュイルを砕いたものを添えて。

色とりどりの季節野菜とコンソメで軽やかなポトフー仕立てに

後行の鈴木シェフは、フォアグラは厚めに切ってポワレするのが好みという。
「ただ、当店はウエディングなどの需要も多く客層も幅広いため、フランス料理を食べ慣れていない方や食の細い年配のお客様にも軽やかな印象で最後までおいしく召し上がっていただきたい、と思い、ポトフー仕立てを考えました。ポール・ボキューズ氏のスペシャリテである、フォアグラ入りトリュフのスープへのオマージュも込めています」

瑞々しい夏のポトフー向き野菜。

大ぶりにカットしたジャガイモや玉ネギをコトコト煮込む従来のポトフーではない。フォアグラは塩、コショウ、強力粉をつけてカリッと焼き上げ、ミニトマトはオーブンで水分をとばして味を凝縮。姫ニンジン、紫カリフラワー、ズッキーニは時間差で茹でる。ポワロー、姫ニンジンの葉、アスパラガスは
フォアグラを焼いた鍋に入れて、鍋底に残っている脂で焼きつける。スープは鶏のブイヨンを丁寧にクラリフィエしたコンソメで、多めのヴェルモット酒で香りづけるのがポイント。これらを皿の上で合体させるのだが、鈴木シェフの遊び心で、茹でたラヴィオリ生地を1枚、フォアグラにかぶせて姿を隠した。ツルッとした舌触りでフォアグラのなめらかさを助長する役割も兼ねる。
「華やかな野菜の色彩が食欲をそそります。フォアグラ自体がおいしいのはもちろん、その旨みがしみ出ているスープも味わい豊か。ミニトマトが引き締めてくれるのもいいですね」(中村シェフ)

「中村シェフが試食するからサービスで大きめにカット」と鈴木シェフ。
フォアグラをポワレし、出てきた脂でアロゼ、サラマンダーで仕上げる。
フォアグラを取り出した鍋にポワロー、ニンジンの葉、細いアスパラガスを順に入れて焼く。
ヴェルモット酒でコンソメを香りづけ。
「次はフォアグラのテリーヌも研究したい」と中村シェフ。
フォアグラのポワレ ポトフー仕立て
フォアグラ、ラヴィオリ、野菜、コンソメを盛りつけたら、フォアグラの脂を垂らして完成。フォアグラは表面をしっかりポワレしているので、液体に浸っていながらも香ばしさが持続する。

動画では、フォアグラの調理だけでなく、つけ合わせの作り方や、そこから繰り広げられる二人のトークなども公開しているので、併せてお楽しみいただきたい。

【フォアグラの美味しい食べ方】東京の有名フランス料理店のシェフが教えるフォアグラ料理 | 港区 フィリップ・ミル 東京
【フォアグラのポトフ】銀座の有名フランス料理店のシェフが調理したフォグラのポトフ仕立て | 東京 ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座

中村哲也
1977年、埼玉県生まれ。南仏とアルザスで3年半修業し、ひらまつに入社。「オーベルジュ・ド・リル トーキョー」を経て、2019年「フィリップ・ミル 東京」の料理長に就く。

フィリップ・ミル 東京
東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス4F
TEL 03-5413-3282
11:00〜15:30(14:00 LO) 17:30〜23:00(21:00 LO)
火休

鈴木啓太
1984年、埼玉県生まれ。ひらまつに入社し、国内やパリなど各店舗を経て「ブラッスリーポール・ボキューズ 大丸東京」料理長を務める。今年5月より銀座店料理長に就く。

ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座
東京都中央区銀座2-2-14 マロニエゲート銀座1 10F
TEL 03-5159-0321
11:00〜15:00(14:00 LO) 土日祝11:00〜15:30(14:30 LO)
17:30〜22:00(20:00 LO) 無休

text: Yumiko Watanabe photo: Yukako Hiramatsu

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