フォワグラ選びのルールとして、下村浩司さんは、「まず鮮度」と強調する。フォワグラの産地として知られるフランス南西部のレストランで働いた体験を持つシェフの舌には、新鮮で旨いフォワグラの記憶が刻まれているからだ。「店の近くの農家から運ばれてくるフォワグラはまだ温かかった。それをそうじしてから冷やし固めたものを生ハムのように薄くスライスし、トーストにのせて食べていました。フランスのその地方でしか味わえない、最高に新鮮なフォワグラの食べ方でしたね」。そのトーストの滋味あふれる素朴な味わいが、下村さんのフォワグラ料理の原点なのだ。
「生のまま塩でマリネしたフォワグラを、トウモロコシと合わせます」
そう言いながら、下村さんは生のフォワグラをミネラル豊富な粗塩ですっぽり包み込んだ。「90分ほどこの状態で置いておきます。すると塩が馴染むと同時にやわらかくなり、そうじしやすくなりますから、そのタイミングを見計らって、血管をきれいに取り除きます」
その後、消毒も兼ねてフォワグラにぬるのはペルー産のアルコール「ピスコ」。ただし、下村さんが用いているのは、市販のものに手を加えたオリジナル「ピスコ」だ。アーモンド、バニラ、トンカ豆を加え、2年間寝かせてナッツ香の漂う「ピスコ」に仕上げる。
トウモロコシを選んだのは、「鴨が餌として食べているから」だが、下村さんの料理は、ここでもひとひねりある。トウモロコシにココナッツの風味をプラスしたのだ。なぜ?アジアの食材に惹かれバンコクを旅したとき、トウモロコシとココナッツのフレーバーがよく似ていることを発見したのだ。
「街中にはココナッツウォーターの屋台がよく出ています。ほとんどは生のままなんですが、ある時、ココナッツの底をバーナーで焼いているのを見かけた。その香りがトウモロコシの香りととても似ていたんです」
旅は新たな発想の源。世界を旅すると、未知の食材や調味料との出会いがあちこちにある。その出会いに向き合うと、伝統を生まれ変わらせ、定番食材の新たな魅力を引き出すパワーにつながる。今回のフォワグラ料理にも、ペルーやバンコクでの出会いがきっちり盛り込まれている。「僕にとって、すでに注目されている場所はつまらない」
自分をインスパイアーしてくれる何かとの出会いを求めて、世界中を見回してみる。意外な地に興味深いものが眠っている。「そういうものとフォワグラの組み合わせを考えていると、ワクワクしてくるんです」
今回、対談していただいた中村シェフ同様、下村シェフもまた「基本は大切だが、伝統を守るがゆえに時代遅れになってはいけない」と言う。
そのチャレンジ精神やワクワク感がゲストに伝わるから、下村さんのフォワグラはおいしいだけでなく、斬新で新鮮な感動を与えるのだ。
1.フォワグラはたっぷりの塩でマリネしてから血管などを取り除く。マリネする時間は600gぐらいのフォワグラで90分を目安に。
塩は、ゲランドのように粒が粗くて、精製していないものを使用。
2.そうじをしたフォワグラに風味付けと消毒を兼ねて、バニラ、アーモンド、トンカ豆を加えた「ピスコ」をぬり、冷蔵庫で冷やす。
ピスコ は、ペルー原産のブドウ果汁を原料とした蒸留酒で、アルコール度数は約42度。
3.2を丸く成形して、冷やし固めてから表面に黒コショウをふる。フォワグラがやわらかいとコショウが内部に浸透してしまうので、よく冷やしてから行う。
4.ラップを巻きながら形を整えていく。ラップはやや厚めで弾力のあるタイブを使用し、何重にも巻く。最初に巻いたラップには穴をあけて空気を抜4.
5.ラップのまま、氷水に浸けて冷やし固める。液体の中に浮かべることで、より整った円形に仕上がる。
ラップの中に水が入らないようにきっちり巻くこと。
6.トウモロコシの芯を焼いて加えたコンソメをジュレにして、ゆでたトウモロコシと合わせて付け合わせにする。
7.バン・ド・カンパーニュの代わりに添えるものとして、トウモロコシの粉を練ったものを球形(中は空洞)にして揚げる。
フォワグラは、食べやすいように薄めに切って盛る。コンソメのジュレであえたトウモロコシの上にのっているのはココナッツのアイスクリーム。フォワグラに合うように、アイスクリームの糖分は控えめにしている。
Koji Shimomura
茨城県生まれ。「ラ・コート・ドール「」ホテル・ブリストル・パリ「」オーベルジュ・レリダン」等で、8年間研鑽を積む。2007に独立。08年には「ミシュランガイド東京」で二ツ星を獲得。20年に東南アジアの都市にスイーツプロデュース店を開業予定。
EdiTion Koji Shimomura
エディション・コウジ シモムラ
東京都港区六本木3-1-1
六本木ティーキューブ1F
☎03-5549-4562
●12:00~13:30、18:00~ 20:30
●不定休
●コース 昼6000円~、夜15000円~
●34席
www.koji-shimomura.jp
上村久留美=取材、文 星野泰孝、依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国301号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は301号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。