スペイン生まれのスパークリングワイン「カバ」について知っておきたい3つのこと / カバ発祥の地スペイン・カタルーニャを訪ねて【vol.1】


ワインを熟成させるのに、地下の洞窟が適しているということを耳にしたことがあるだろう。ワイン大国スペインが誇るスパークリングワイン「カバ(=cava)」は、カタルーニャ語で洞窟を意味する。そんな由緒正しい名前をもったカバが生まれたのはスペインの地中海沿岸に位置するカタルーニャ地方。現地から、その誕生の秘密と魅力をリポート。

親しみやすくておいしいカバ、その3つのポイント

世界各地でさまざまなスパークリングワインが造られており、カバもそのひとつ。はつらつとした泡立ち、スッキリとしたドライな味わい。ワインショップやレストラン、バルなどで見かけることも多く、親しみやすいスパークリングワインとして筆頭に上がるだろう。中でもD.O.カバ(Denominación de Origen=原産地呼称)と呼ばれるものは、地理的表示のための厳格な基準をクリアし、安定した品質が約束されている。

その1 地中海沿いのカタルーニャ生まれ

カバ発祥の地はスペインのカタルーニャ州。地中海に面した州都バルセロナから東へ約50kmに位置するペネデス地方が主要産地で、サン・サドゥルニ・ダノイアやヴィラフランカ・デル・ペネデスといった街を中心にしてブドウ畑が広がっている。

photo: D.O.CAVA
頂上がノコギリの歯のようにギザギザになったモンセラット山がブドウ畑越しに見える、ペネデス地方の典型的な風景。

カバの歴史は古く、1872年に遡る。サン・サドゥルニ・ダノイアの老舗ワイナリー「コドルニウ」の醸造家がフランスのシャンパーニュで学んだ醸造技術を持ち帰り、カタルーニャのブドウを用いてスパークリングワインを造り出した。二次発酵を瓶内で行うこの製法は特殊な設備と大変な労力を要するが、今もこの製造方法が守られている。

D.O.カバの産地としてはこのバルセロナ近郊を中心とした「コムタッツ・デ・バルセロナ」のほか、内陸にある北部やバレンシア近郊、南西部のポルトガル国境近くなど全4地域に及ぶ。しかしカバの95%はカバの発祥の地でもあるコムタッツ・デ・バルセロナ地区から生産されており、主要生産地である。

パン・コン・トマテ(トマトとにんにくとオリーブオイル風味のパン)やクロケット(小さめのコロッケ)、ハモン・セラーノといったカタルーニャの代表的なタパスとともに楽しまれるカバ。

フランスのシャンパーニュやイタリアのプロセッコなどスパークリングワインの産地は大陸性の冷涼な気候条件下にあることが多い。これに比してスペインのペネデス地方は年間を通して温暖で雨量も少ない地中海性気候に属し、長い生育期間を経てブドウがしっかりと成熟する。収穫時の糖度が高いため補糖が必要ない場合も多く、ブルット・ナトゥーレ(残糖3g/ℓ以下)がポピュラー。また雨量が少なく病害の発生も少ないため、有機栽培に適しているのもポイントだ。

その2 固有品種を用いて、伝統製法で造られる

カバの大いなる特徴、それは伝統的な瓶内二次発酵製法で造られているということ。シャンパーニュ地方で発明されたこの製法は特殊な技術と設備を要するだけでなく、高コスト。ワインの生産者の誰もが簡単に着手できるものではない。カバは誕生時からこの製法で造られ、そうでなければカバと名乗ることは認められていない。

ピュピトルと呼ばれる瓶を固定する台でアルコール発酵中のワインと、ボトルネックに溜まった滓。瓶の傾斜と角度を少しずつ変えながら滓を瓶底から瓶の口の部分に集める。ヴィラルナウ(https://www.vilarnau.es/en)のセラーにて。

まずベースとなるワインを造ってから(この時点で一度発酵している)酵母と糖分を加えて瓶詰めし、密閉したボトルの中で2回目のアルコール発酵を行う(=瓶内二次発酵)。さらに発酵によって生じ、瓶底に溜まった滓(おり)を除去するために瓶を少しずつ回転させてボトルネックに集め(=動瓶)、その部分を急速で凍らせて滓だけを取り除いて(=滓抜き)、最後に減った分のワインと糖分(=門出のリキュール)を添加して味わいを調整し(=フランス語でドサージュという)、コルクで打栓して留金をかける。

カバス・ヒル(https://www.ywc.co.jp/wineries/winery.php?id=165)の地下セラー。湧水が出る鍾乳洞並みの高湿でまさにcava(洞窟)のような空間で、熟成中のボトルや壁には黒いカビがびっしり。

瓶内二次発酵時の熟成期間が長ければ長いほど、味わいは深みを増す。さらに長期熟成によってトーストやブリオシュのような香りが生まれることがあり、その芳醇さはうっとりするほどで、極上のスパークリングワインの証でもある。熟成期間中は瓶を静かに寝かせておく必要があり、光や振動、乾燥や温度変化といった物理的な刺激はワインの品質に影響を与えるためご法度だ。古来より熟成に最適とされているのが、温度や湿度が一定に保たれる地下の洞窟。カタルーニャ語で洞窟を意味するカバ=cavaはまさにそういう場所で生まれた、本格的な味わいをもつスパークリングワインなのだ。

その3 輝くシールが品質を証明する

カバというスパークリングワインがいかに由緒正しいかおわかりいただけたと思う。中でもD.O.カバ(Denominación de Origen=原産地呼称)と呼ばれるものは、地理的表示のための厳格な基準をクリアし、安定した品質が約束されている。

D.O.カバは、栽培条件や瓶詰めから滓抜きまでの最低熟成期間によって格付けされ、それぞれに呼称がある。カバ・デ・グアルダは軽やかさやフレッシュさが特徴。さらにカバ・デ・グアルダ スペリオールの中にレゼルバ、グラン・レセルバ、そして単一収穫年で最低36カ月の熟成を必要とするパラへ・カリフィカードがある。

名称が長くて覚えにくいかもしれないが、それぞれ認証シールがボトルに貼られているので選ぶ目安にするとよいだろう。

左から時計回りに カバ・デ・グアルダ、カバ・デ・グアルダ スペリオール レゼルバ、
カバ・デ・グアルダ スペリオール グラン・レセルバ、カバ・デ・グアルダ スペリオール パラへ・カリフィカード

*瓶詰めから滓抜きまでの最低熟成期間
○カバ・デ・グアルダ:瓶詰めから滓抜きまで最低9カ月以上
 →メタリックグリーンのシール(丸形または長方形)
○カバ・デ・グアルダ スペリオール レゼルバ: 〃 最低18カ月以上
 →シルバーのシール(丸形または長方形)
○カバ・デ・グアルダ スペリオール グラン・レセルバ: 〃 最低30カ月以上
 →ゴールドのシール(丸形または長方形)
○カバ・デ・グアルダ スペリオール パラへ・カリフィカード: 〃 最低36カ月以上、単一収穫年のみ。
 →Pの文字の入ったひし形のゴールドのシール

最低18カ月熟成のカバ・デ・グアルダ スペリオール以上のカバは、2025年産より、100%有機栽培が義務付けられている。世界にスパークリングワイン多しといえど、そんな産地はほかにない。

ヴィラフランカ・デル・ペネデスの街のカフェで楽しまれるカバ。必ずついてくるのがオリーブ。手前はtocinillo de cieloという卵黄を使ったアンダルシアの郷土菓子。

ときはフェスティブシーズン、スパークリングワインを開ける機会もグンと増えるはず。本記事のVol.2では、高品質なのに価格も手頃なカバを紹介する。輝くシールが貼られたD.O.カバを選んでみてはどうだろう。

写真・文:谷 宏美


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