シャブリを音色で表現した全4楽章のシンフォニーとペアリング

シャブリを音色で表現した全4楽章のシンフォニーとペアリング

ワインは五感で楽しめるもの。ブルゴーニュワインの中でも際立った個性をもつシャブリを音楽で表現する、そんなプロジェクトが実現しました。気鋭の作曲家、松波匠太郎氏がシャブリの4つのアペラシオンにインスピレーションを得て4つの交響曲を作曲。実際にワインを味わいながらその演奏を鑑賞するというイベントが開かれ、そこで公開された楽曲の詳細と、シャブリとペアリングされた料理を紹介します。

資料提供/ブルゴーニュワイン委員会
資料提供/ブルゴーニュワイン委員会

シャブリを音楽で表わす「シャブリ・シンフォニー」

ブルゴーニュ北部の特異な土壌に由来するミネラル感を生かし、洗練された味わいに仕上げられる辛口の白ワイン、シャブリ。「プティ・シャブリ」、「シャブリ」、「シャブリ・プルミエ・クリュ」、「シャブリ・グラン・クリュ」という4つのアペラシオン(AOC=原産地呼称)があり、スタイルもさまざまですが、いずれもシャルドネのもつ上質でエレガントな個性が表れています。

ブルゴーニュワイン委員会が、このシャブリを音楽で表現するというプロジェクトを企画。気鋭の作曲家、松波匠太郎氏が、レカン・グループ飲料統括マネージャーの近藤佑哉ソムリエのナビゲートのもとに4種のシャブリをテイスティングし、その特徴をもとに4つの楽曲を制作しました。イベントでは、近藤ソムリエのテイスティングコメントを交えつつ、松波氏が作曲のポイントを解説。続いて、4つのシンフォニーを、クラリネット、バイオリン、チェロ、ピアノの4奏者が演奏するコンサート形式で行われました。

シャブリを音色で表現した全4楽章のシンフォニーとペアリング
自由学園明日館で開催されたプレスイベント。
 ▼「全4楽章のシャブリ・シンフォニー」の演奏はこちらから動画をご覧ください。
作曲のためにテイスティングされたワイン。左から、ドメーヌ・ビヨー・シモン プティ・シャブリ 2019、ドメーヌ・ラロッシュ シャブリ サン・マルタン 2019、ドメーヌ・ダンブ・エ・フィス シャブリ プルミエ・クリュ コート・ド・レシェ 2019、ドメーヌ・ジャン=ポール・エ・ブノワ・ドロワン シャブリ グラン・クリュ ヴォーデジール 2019
作曲のためにテイスティングされたワイン。左から、ドメーヌ・ビヨー・シモン プティ・シャブリ 2019、ドメーヌ・ラロッシュ シャブリ サン・マルタン 2019、ドメーヌ・ダンプ・エ・フィス シャブリ プルミエ・クリュ コート・ド・レシェ 2019、ドメーヌ・ジャン=ポール・エ・ブノワ・ドロワン シャブリ グラン・クリュ ヴォーデジール 2019

【第1楽章〜プティ・シャブリ】

■プティ・シャブリAOCのスタイル
溌剌としてフレッシュ、かつ軽快なキャラクターが特徴的。

〔テイスティングコメント〕
プティ・シャブリ 2019/ドメーヌ・ビヨー・シモン
柑橘やハーブのニュアンス、ピュアなミネラル感。

〔作曲のポイント〕
軽快さを表現するために、 高音楽器であるバイオリンを主体に構成した。弦楽器のピチカート(弦を指ではじいて音を出す技法)を駆使し、クラリネット、ピアノはスタッカートを多く取り入れた。 またシャブリの綴り「CHABLIS」に入っている「C」「B」「A」は音階でいうと「ド」「シ」「ラ」に相当するため、これをメロディに活用し、作曲の拠り所とした。

〔ワインと楽曲のマリアージュ〕
「印象的なイントロからずばり、プティ・シャブリの軽快で溌剌としたキャラクターを感じとることができる」(近藤ソムリエ)
「自分がもっともピンときた”溌剌さ”を表現できたと思う」(松波氏)

【第2楽章〜シャブリ】

■シャブリAOCのスタイル
シャブリの生産量のうち66%を占め、もっともポピュラー。プティ・シャブリに比べると優美で柔らかく、バランスがよい。

 〔テイスティングコメント〕
シャブリ サン・マルタン 2019/ドメーヌ・ラロッシュ
リンゴに白い花。酸と果実味のバランスがよく、しっかりとしたミネラル感も。

〔作曲のポイント〕
どなたにもなじみのある楽器、ピアノをメインにクラシックなメロディラインを作り、テンポはモデラート(中くらいの速さ)で終始通した。

〔ワインと楽曲のマリアージュ〕
「音楽があると、時間軸がより鮮明に感じられる。フルーツやハーブのようないろんな要素が、音楽の流れとともに立ち上がってくるよう」(近藤ソムリエ)
「ワインを飲みながら聴くと、香りとともに親しみやすい音がすっと入ってきて、ミネラルや果実味が一体となって広がる」(松波氏)

【第3楽章〜シャブリ プルミエ・クリュ】

■シャブリ プルミエ・クリュAOCのスタイル
雄大なスケール感、柔らかさと深遠な丸み

〔テイスティングコメント〕
シャブリ プルミエ・クリュ コート・ド・レシェ 2019/ドメーヌ・ダンプ・エ・フィス
白桃や色とりどりの花のブーケ。蜜のような甘やかなニュアンスと柔らかいテクスチャー。

〔作曲のポイント〕
音に丸みがあるクラリネットがメイン。とろみのある口当たりに合わせてテンポもスローにして、弦楽器も全面に出して複雑味を出した。

〔ワインと楽曲のマリアージュ〕
「プルミエ・クリュのスケール感が見事に表現されている。ワインから感じられる甘やかな感じとまろやかなテクスチャーが、柔らかなトーンの音色とぴったり」(近藤ソムリエ)
「複雑に絡み合う音がワインの質感と呼応している」(松波氏)

【第4楽章〜シャブリ グラン・クリュ】

■シャブリ グラン・クリュAOCのスタイル
味わいの力強さや奥行き、壮大なボリューム感。

〔テイスティングコメント〕
シャブリ グラン・クリュ ヴォーデジール 2019/ドメーヌ・ジャン=ポール・エ・ブノワ・ドロワン
しっかりとした骨格、熟した桃や香ばしいクレームブリュレの香り。なめらかなテクスチャーでより優美でリッチな印象。

〔作曲のポイント〕
メインの楽器は優美で雄大な音色のチェロ。アレグロやモデラートなどさまざまやテンポやリズムを多用し、ここまでのテーマをすべて散りばめてワインの複雑性を表現。4つのシンフォニーのまとめの意味合いも。

〔ワインと楽曲のマリアージュ〕
「力強さがありながらなめらかで優美な印象のワインと、チェロをはじめとするさまざまな楽器の音色ひとつひとつが際立ち、それが重合されて聴こえる。グラン・クリュのワインがもつ香りの豊かさや複雑な味わいを表現しながらも、見事にバランスよくまとまっている」(近藤ソムリエ)
「グラン・クリュのワインは溌剌さもありながら気品も兼ね備えた奥深さがある。さまざまなメロディラインや楽器の音色を組み合わせて壮大なスケール感を出すことを試みたが、成功したと思う」(松波氏)

松波匠太郎 まつなみしょうたろう 作曲家。東京藝術大学音楽学部作曲科を首席で卒業、同大学院修士課程作曲専攻修了。第82回日本音楽コンクール第2位、第8回(JFC)日本作曲科協議会作曲賞受賞。国内外の現代音楽の分野で幅広く活躍。

松波匠太郎 まつなみしょうたろう
作曲家。東京藝術大学音楽学部作曲科を首席で卒業、同大学院修士課程作曲専攻修了。第82回日本音楽コンクール第2位、第8回(JFC)日本作曲科協議会作曲賞受賞。国内外の現代音楽の分野で幅広く活躍。

近藤佑哉 こんどうゆうや レカン・グループ飲料統括マネージャー。2017年 第2回シャブリ杯シャブリ賞、2019年 第3回ボルドー&ボルドー・シュペリウール ソムリエコンクール 優勝 、2020年 第9回全日本最優秀ソムリエコンクール 第3位。注目の若手ソムリエ筆頭格。

近藤佑哉 こんどうゆうや
レカン・グループ飲料統括マネージャー。2017年 第2回シャブリ杯シャブリ賞、2019年 第3回ボルドー&ボルドー・シュペリウール ソムリエコンクール 優勝 、2020年 第9回全日本最優秀ソムリエコンクール 第3位。注目の若手ソムリエ筆頭格。

シャブリと料理のペアリング

イベントでは演奏会に続き、4種のシャブリに合わせた料理も披露されました。

■前菜 × プティ・シャブリ & シャブリ

プティ・シャブリ 2020 /アルベール・ビショー
×
五島イサキのマリネ イチジクとシトラスのジュレ・エディブルフラワー(写真左側)

イチジクと柑橘の香る爽やかなイサキのマリネに、フレッシュでフルーディなプティ・シャブリ。レモンを絞ったかのような感覚で。2020年はこのアペラシオンの爽やかさもありながら、ブドウの熟度も感じられ付き合わせに甘やかなイチジクとともにイサキの風味をもち上げます。

シャブリ・サント・クレール ヴィエイユ・ヴィーニュ 2020 ジャン・マルク・ブロカール
×
茄子のテリーヌ 蝦夷アワビのコンフィ (写真右側)

咀嚼とともに滋味深い味わいがゆっくりと広がるアワビ。古木から生まれるシャブリの柔らかさや質感、味わいの凝縮感と同調し、包み込むような酸味と奥行きが楽しめます。旨味たっぷりの茄子のテリーヌとも好相性、おいしさが後を引く組み合わせです。

■肉料理 × シャブリ・プルミエ・クリュ

シャブリ・プルミエ・クリュ・フルショーム2018 ドメーヌ・ジェラール・デュプレシ
×
低温調理した仔牛のロースト 夏野菜のピューレ 山椒ソース モスタルダ添え

仔牛のローストにシャブリ。稀なペアリングのように思いますが、上質な一級畑から生まれるシャブリにはふっくらとした重厚感に華やかさがあり、美しいロゼ色に仕上げたやわらかな仔牛肉と素晴らしくマッチ。鮮烈な山椒の風味をまろやかな味わいのワインが包み込み、えもいわれぬマリアージュです。

■魚料理 × シャブリ・グラン・クリュ

シャブリ グラン・クリュ レ・クロ2018、ドメーヌ・ウィリアム・フェーブル
×
ホウボウのポワレ 万願寺唐辛子のグリエ 磯香るブールブランソース

身が厚く歯ごたえのある白身魚のポワレと甘みのある満願寺唐辛子を、岩のりをあしらったリッチなブールブランソースで。しっかりとしたストラクチャーからくる力強さが特徴的なグラン・クリュ レ・クロと至上のハーモニーを見せます。ヨードのニュアンスをもつ岩のりをソースに加えることで、シャブリのミネラル感とのコンピネーションもパーフェクト。

イベントではこのデギュスタシオンの間、4つのシンフォニーの生演奏が行われ、ワインと料理、そして音楽というトリプルマリアージュを体験。要素が折り重なり掛け算となって、それぞれの魅力が増幅しました。
松波氏が「音楽とは、時間の芸術でもある。スピーカーから流れる音とは違う、今ここで奏でる生の演奏とワインを、贅沢に味わうことができた」と語るとおり、この時、この瞬間に音楽とワインを同時に体感することは、さまざまな軸での官能的な楽しみとなり得ます。
そのことを実証した「シャブリ・シンフォニー」。ワインと音楽、そして料理を、こんな観点で楽しんでみるのも興味深いものです。

text:谷 宏美 photo:ブルゴーニュワイン委員会

関連記事


SNSでフォローする