【初心者のためのワイン講座6】ヴィンテージによる味わいの違い


今回はワインのヴィンテージとそれがもたらす味わいについて考える。飲食店でワインリストを作る際に、注目すべきヴィンテージ情報は、実は収穫期間の天候ではない。各ヴィンテージの味わいのキャラクターを決定づけるのは、開花期間の長さ、短さなのである。

【講師】ワイン評論家 田中克幸さん
Katsuyuki Tanaka
1962年東京都生まれ。文京学院大学でワイン文化論担当講師。ワイン専門誌などで執筆。ワインに関する講演、イベントを日本各地で行う。独自の視点と理論の明快さには定評がある。

ワインを投機対象とみなすなら、長期熟成するグレートヴィンテージ」のみに注目すればよい。しかし、飲食店のワインリスト作りでは、それとは異なる視点で各ヴィンテージの特徴を見る必要がある。なぜならメニューには長熟タイプのワインに合う料理もあれば、そうでない料理もあるからだ。

 マリアージュを想定してワインを選ぶ場合、ワインと料理の味わいの大きさ、重心、質感、風味の要素がそれぞれどのように合致するかを考える必要がある。だが実際にこれらを記憶して、頭の中で組み合わせを再現するのはかなり難しい。

 そこでまずは、大きさと質感のカテゴリーが組み合わさった「集中」と「拡散」というふたつの感覚でワインの味わいをタイプ分けすると(把握方法は下記の図表を参照)、要素がよりシンプルになりマリアージュがイメージしやすくなる。

そして、この集中型、拡散型の味わいはワインのヴィンテージの特徴をよりどころとしている。一般にヴィンテージ情報を読みとく際、収穫期の天候に注目しがちだ。確かにブドウの収穫前に晴天が続き乾燥した年(グレートヴィンテージ)であった場合には、超熟型のワインになることが多い。

ブドウの開花期の降水量と気温で味わいが変わる

ワインを飲み込んだ後に、口内の感覚がどのように変化するかに注目する。食材や料理でも同じ感覚を見出すことができる。

 しかし集中型か拡散型かを図る場合に重要なのは、ブドウの花の開花期間の長さだ。5月末〜7月初旬の開花期に晴天が続き、気温が高く、花が一斉に開花すれば粒ごとの熟度が均一になり、集中型の味わいとなる。反対に雨が続き気温が低いとそれぞれの開花に時差が生じ、期間が長くなる。結果、収穫時に粒の熟度がそろわないため拡散型の味わいとなる。つまりヴィンテージ情報で注目すべきは、開花期間の降水量と天候なのである。

 なおフランスのブルゴーニュやロワール、北部ローヌ地方の場合は、単一であるかひとつの品種が支配的なので、各ヴィンテージが集中型か拡散型かを記憶してしまえば、おおむね外れることはない。ブルゴーニュのヴィンテージでいえば、1990、92、94、96、00、03、05、07、09、11が集中型。それ以外が拡散型となる。だがボルドーのように年によって品種の配合具合が変わる地域は、少し難しい。カベルネ・ソーヴィニヨン種の開花はメルロ種よりもあとなので、開花期間の気候条件がそれぞれ異なることがあるからだ(右ページ図表参照)。

 さらに具体的に料理との相性をどのように考えるかについては、次回に解説する。

実際に試飲してみると…

(A) ワイン名 (B) 生産者名 (C) 産地 (D) 品種 / ヴィンテージ

ラ・コクシネル・ド・ラ・グロレ_2008

(A) ラ・コクシネル・ド・ラ・グロレ 2008
(B) シャトー・ラ・グロレ
(C) コート・ド・ブール
(D) メルロ100/2008

メルロの開花時期は天候が悪かったため、開花が長引き、ワインは典型的な拡散型。よって収穫も遅く、また気温が低かったため、酸化は強く、タンニンにカドがあり、風味は涼しげ。広がりは中程度で、重心は中央にある。芯の質感は堅く、内部は薄く固く、表面も硬い。

シャトー・ピュイ・カステラ・クリュ・ブルジョワ_2006

(A) シャトー・ピュイ・カステラ・クリュ・ブルジョワ 2006
(B) シャトー・ピュイ・カステラ
(C) オーメドック(シサック)
(D) カベルネ・ソーヴィニヨン57、メルロ30、カベルネ・フラン10、マルベック2、プティ・ヴェルド1/2006

例年より遅めの開花時期(7月)は好天で短期間だったが、ワインは例外的に拡散型。8月と9月の顕著な多雨の影響かもしれない。リッチな味わいのワインで、広がりは大きく、余韻も長い。重心は中央にあり、形は縦方向に四角い。酸は低く、タンニンもソフトだが、表面は硬い。

ラ・コクシネル・ド・ラ・グロレ_2010

(A) ラ・コクシネル・ド・ラ・グロレ 2010
(B) シャトー・ラ・グロレ
(C) コート・ド・ブール
(D) メルロ100/2010

メルロの開花時期は雨が降り、ワインは拡散型。メルロの収量は低く、味わいは凝縮し、酸は強く風味はスパイシー。広がりはやや大きく、余韻は中程度。重心はやや上。芯は堅く、その周囲を肉厚でやや固い果実味が覆うが、その外側にさらに硬い外皮があり、明確な形を作る。

シャトー・ピュイ・カステラ・クリュ・ブルジョワ_2008

(A) シャトー・ピュイ・カステラ・クリュ・ブルジョワ 2008
(B) シャトー・ピュイ・カステラ
(C) オーメドック(シサック)
(D) カベルネ・ソーヴィニヨン57、メルロ30、カベルネ・フラン10、マルベック2、プティ・ヴェルド1/2008

メルロの開花期は多雨でカベルネ・ソーヴィニヨンは好天。ゆえに密度分布は連続的だが、カベルネ系品種の比率が高いため、やや集中型。広がりは大きく、重心は中央で、形は四角く垂直的。芯は堅く中身はやや薄くて固く、表面は軟らかい。カベルネの周囲にメルロが広がる味。

ベンジャマン・ドゥ・マルガレーヌ_2007

(A) ベンジャマン・ドゥ・マルガレーヌ 2007
(B) シャトー・マロジャリアオー・メドックAC
(C) オーメドック
(D) カベルネ・ソーヴィニヨン50、メルロ50/2007

メルロの開花時期は雨が降り、カベルネ・ソーヴィニヨンは好天。等分のブレンドなので、集中型か拡散型か判別しづらい。広がりは小さく、丸く、重心は中央。生育時期に低温で日照量が少なかったため、味わいは軽やかで、タニックではなく酸も低く、調和がとれている。

カリテラ トリビュート  カベルネ・ソーヴィニヨン

(A) ラ・コクシネル・ド・ラ・グロレ 2009
(B) シャトー・ラ・グロレ
(C) コート・ド・ブール
(D) メルロ100/2009

メルロの開花時期は雨が降り、ワインは拡散型。メルロの収量は低く、味わいは凝縮し、酸は強く風味はスパイシー。広がりはやや大きく、余韻は中程度。重心はやや上。芯は堅く、その周囲を肉厚でやや固い果実味が覆うが、その外側にさらに硬い外皮があり、明確な形を作る。


伊藤由佳子=構成、文   text by Yukako Ito


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