軽やかで爽快で、フルーティ。時も場所も選ばず、いつどんな時でも楽しめるマルチなワイン。それがロゼだ。ロゼワインは過去15年余りにわたって消費量を継続的に伸ばしており、ワイン・ラヴァーの間で注目されているアイテム。特にフランス・プロヴァンス地方のロゼワインは、フレッシュな辛口で多彩なアロマを持ち、バリエーションが豊かなので、料理はもとより、フルーツやスイーツと合わせて楽しむこともできる。
地中海に面したプロヴァンスは、フランスで最も古いワイン産地とされており、紀元前6世紀、古代ギリシアの都市国家ポカイアからの入植者がマッサリア(現マルセイユ)にぶどうの木を植えたことがワインの起源だと考えられている。その後、紀元前2世紀にローマによる征服があり、それによってぶどうはヨーロッパ中に広まった。プロヴァンスはまさにワイン誕生の地、そして今や世界のロゼワインブームを牽引する産地となっている。
プロヴァンス地方は、フランス南東部、ローヌ河より南東の地中海沿岸部に位置する。コート・ド・プロヴァンス、コトー・デクス・アン・プロヴァンス、コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンスの3つのA.O.P.(Appellation d’Origine Protégée=原産地名称保護)から産出されるワインの総量はプロヴァンス全体の96 %に上る。A.O.P.コート・ド・プロヴァンスは面積も広く多様なテロワールが存在するため、5つの呼称にさらに細分化され、それぞれのテロワールが生み出すワインの個性が認められている。生産者や畑によってさまざまな特徴があり、味わいのバリエーションが広い。A.O.P.コトー・デクス・アン・プロヴァンスは冷涼で乾燥した典型的な地中海性気候で、山から吹きおろしてくる冷たい風「ミストラル」の影響を特に大きく受ける。A.O.P.コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンスはどちらかというと大陸的な気候で、年によっては猛暑や厳冬などに見舞われることもある地域だ。いずれのアペラシオンでも、フルーティでクリアな辛口のロゼを産出している。
プロヴァンス原産。淡い色、爽やかさ、滑らかさ、フィネス、果実感をもたらす。より中心的な品種とともに、パランスを加える。
小粒で濃い赤い色のぷどうで、濃い色のワインを生み出す。タンニンが多く、熟成に向く。
複雑、繊細なアロマで、赤いベリーや黒い果実のニュアンスがある。
スペイン 原産。
ワインに、偉大なボディ、充実感と強さを与える。 若いうちは、赤い果実のニュアンス、熟成すると、よりスパイシーで、肉のようなニュアンスがある。
石灰岩の土壌で、暑く海風が吹くところでよく育つ。特徴あるフルポディのワインで、滑らかなタンニンがある。若いうちは、スミレやブラックベリーのアロ マ。熟成すると、スパイス、ペッパー、シナモンのニュアンス。
繊細でエレガントなぶどう。プロヴァンス原産で、特にロゼに使用される。 繊細なアロマと、芳香性の高い充実したブーケを示す。黄色い果実とハチミツのニュアンス。この地方原産の他のぷどうと ブレンドする第一候補となることが多い。
その他
カリニャン、カベルネ・ソーヴィニヨン、クノワーズ
白ぶどう
ロール(ヴェルメンチノ)、ユニ・ブラン、クレレット、セミヨン、ブールブラン、グルナッシュ・ブラン、ソーヴィニヨン・ブラン
ロゼといえば一様に「軽くて甘いワイン」と思われがちだが、生産者のノウハウやテロワール、品種の違いなどによりさまざまな味わいが生まれる。特にプロヴァンスの生産者は、辛口で香り高いロゼを生産するためのノウハウを持ち、気候やテロワールの違いを研究して品質の高いワインを送り出している。また、ロゼは「早飲み」ワインと言われるが、ごく少数ながら、熟成によって複雑で深みを増すタイプも造られている。奥深いロゼの世界を、ぜひ楽しんでいただきたい。
Château Coussin 2020 /Famille Sumeire
シャトー・クーサン 2020/ファミーユ・スメール
A.O.C.:コート・ド・プロヴァンスサント・ヴィクトワール
使用品種:グルナッシュ・ノワール、サンソー、シラー
柑橘などのフルーツのアロマや、余韻にわずかな苦味のニュアンスを持つ「シャトー・クーサン」と、同調する香りをまとった料理。「フロヴァンスらしいフレーバーの競演。伴走するパートナーというイメージですね。ワインの中に微かにミネラルの風味を感じたので、海の魚を合わせ、グリーンな風味のあるワインにオリーブオイルの青さをぶつけました。淡白な河豚をベニエにすることで油脂分と食感が加わり、ボリュームが生まれます。付け合わせには、ズッキーニとフェンネルをトマトで煮込み、レモンの皮やタイムで香りを付けたものを」。料理をテーブルに置いた瞬間にハーブが香り、口に入れる前からマリアージュが楽しめる、そんな組み合わせだ。
【ミニコラム】プロヴァンスのロゼはすべての食事のためにある
プロヴァンスのロゼワインは、食前酒としても、食中酒としてもぴったり。
様々なタイプの料理に合うので、それぞれ違うものを食べる時に理想的な選択肢となります。
Château de Calavon 2020
シャトー・ド・カラヴォン2020
A.O.C.:コトー・デクス・アン・プロヴァンス
使用品種:グルナッシュ、シラー、ロール(ヴェルメンチノ)
複雑なアロマを持つ「シャトー・ド・カラヴォン」に合わせたのは、黒豚のロースト。「ワインを口に含むと、夏の青果店に入った時のようにいろいろな果物の香りを感じました。華やかで、単独で飲んでも充分に楽しめるワイン。料理は、肩ロースをローズマリーと一緒に低温ローストして薄く切ったものを舞茸と合わせ、仕上げに柚餅子を散らしています。南国フルーツのような香りのしっかりした骨格のワインに、豚の脂という全く違う要素を合わせることで、相棒のようなペアリングが完成します。生ではなく柚餅子を使うことで控えめな柑橘の香りを、そして舞茸で旨みをぐっと後押ししました」。一杯のワインと一皿の料理で、異国へ旅に出たような気分を味わえる。
【コラム】プロヴァンスのロゼは一年中楽しめる
季節にかかわらず、太陽が顔を出したら、ロゼワインの出番。プロヴァンスのロゼは天気に敏感なワインと呼ばれています。
Estandon Lumière 2020/Estandon Vignrons
エスタンドン・リュミエール2020/エスタンドン・ヴィニュロン
A.O.C.:コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンス
使用品種:サンソー、グルナッシュ、シラー
さっぱりした飲み口の「エスタンドン・リュミエール」と無花果のペアリングは、奥ゆかしく上品な余韻を残す。「フルーティでドライなワインで、最後の余韻に苦味を感じます。無花果をワインだけでコンポートにしてその風味を纏わせ、酸やほろ苦さを入れて膨らみのある味に仕上げました。さらに皿全体にフローラルな香りを添えたくて、クリームとアイスにはカモミールを使い、エディブルフラワーを散らしています。花のやわらかな食感と食べた時に感じる微かな甘い香りには、日本的とも言える控えめな美しさがある。無花果には豆のようなニュアンスがあるので煮豆を加えて味に広がりを持たせました」。ワインとデザートが互いを高め合うような、そんな一皿だ。
中村和成(なかむら かずなり)
1980年、千葉県生まれ。大学卒業後、調理師専門学校に入学し、フランス料理を学ぶ。卒業後は都内の有名店で研鑽を積み、「レフェルヴェソンス」のスーシェフを経て、2014年の「ラ・ボンヌターブル」のオープン時よりシェフを務める。