食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

「コート・ドール」の本質を受け継ぐ人。「ラス」兼子大輔さん


斉須シェフの存在が今でも原動力になっている

「まだ大阪にいた20歳くらいの頃、勉強のために食べに来た『コート・ドール』で、出されたその料理のおいしさに驚きました」そう語るのは、南青山の人気フレンチ「ラス」の兼子さん。彼も、「コート・ドール」の斉須さんの元から巣立ったひとりだ。「僕がまだわからなかったフランス料理の本質を、その時に知った気がします。斉須シェフの料理は、余計なことはせず、おいしさに特化している。すごい料理人だなと思いました」

そして兼子さんは、「コート・ドール」の門を叩いた。働き始めた頃、印象に残っているのは、率先して厨房の掃除をする斉須さんの姿なのだそうだ。

「シェフが掃除をしているなんて、ほかでは見たことがなかった。でも、働いているうちに、シェフが店を大事にしているから自分で掃除をするんだということが分かったんです。1日に何回も掃除をするんですが、それでも、道具もキッチンも汚さず丁寧に使うことが前提。それは、人と丁寧に接するということにも通じていました」

毎日使っている鍋でも、乱暴に扱うことはしない。だから鍋は、何十年も同じ物を使っているのに新品同様だった。食材に対しても、人に対しても同じ。一事が万事、すべてが丁寧だったという。

シンプルで広々とした店内。キッチンはオープンで、客の目がすぐそこにあるが、スッキリときれいに磨かれていて気持ちがよい空間だ。

「斉須シェフはすごく謙虚で、嘘をつかない人。やりたいことを率直にやっていて、一緒に仕事をしていてすごく気持ちがよかった。お店同様、僕もすごく大事にしてもらったと思います。毎日、やらなければいけないことや決まり事がたくさんあって、その一つひとつのレベルが高かったので、厳しかったけれど、必要ない無駄なことはさせられなかった。だから、続けることができたし、それがすりこまれた。すりこまれたものは無駄がそぎ落とされて、多少のことでは振り回されない。あの店では、普段のことがしっかり身につけば、料理人として、人間として自然に成長できました。毎日が勉強で、入った時と出た時では、自分がずいぶん変わったと思います」

その後、兼子さんはフランスへ渡って研鑽を積み、帰国して店舗の立ち上げを経験したあと、自分の店を開いた。現代的な「ラス」の料理と、「コート・ドール」のクラシカルでさえある料理は、一見、かけ離れているように見える。しかし、兼子さんの料理の根底には、確実に斉須さんから受け取った精神があるという。「『コート・ドール』で学んだ料理の本質を、自分のフィルターを通して、より現代的に表現したのが『ラス』の料理。僕はすごく斉須シェフに大事にしてもらったから、期待に答えたいと思う。それが今も、僕の原動力になっています」

ラス
L’AS

東京都港区南青山4-16-3 南青山コトリビル1F
080-3310-4058
www.las-minamiaoyama.com

澤由香(本誌編集室)=取材、文 林輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国2016年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2016年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする