師ベルナール・ロワゾ―から受け継いだゲストを楽しませるということ


神戸北野ホテル 山口 浩さん

20 年来の盟友が日本でコラボレーション

ロワゾーのエスプリと教えを胸に秘めて日本とフランスで追求するガストロノミー

「栗のスープ 南瓜の種オイルとお茶とトリュフの泡」は、旬を感じさせてくれる味わい。

フランスで誕生し、今では「上質」の代名詞となったホテル&レストランの会員組織「ルレ・エ・シャトー」。創設60周年を記念した「ルレ・エ・シャトー グランシェフ 美食の協演」が、神戸北野ホテルで開催された。腕をふるったのは、フランス・ブルゴーニュ地方にある「ルレ・ベルナール・ロワゾー」のシェフ、パトリック・ベルトロンさんと神戸北野ホテルの総料理長、山口浩さん。二人はなぜ今、神戸で晩餐会を開いたのだろうか。

挨拶をする山口さん(左)とパトリックさん。
盛り付け前の料理。これからひと皿に仕上げられていく。
音楽を楽しみながら、ゲストたちは2人のコラボレーションに舌鼓を打つ。

私は〝ロワゾーの日本大使〟としてこれからもいろいろなことを発信していきたい 山口 浩さん

21世紀のフランス料理の扉を開けたといわれる料理人ベルナール・ロワゾー。パトリック・ベルトロンさんも山口浩さんも、ロワゾーの牙城「ラ・コート・ドール」でその薫陶を受けた。2003年2月4日、師が衝撃的に逝って12年。2人はその遺志を胸に、進化するフランス料理の今を生きてきた。

2人はフランスと日本で"同根の花"を咲かせた

パトリックさんは、「ラ・コート・ドール」のセコンドとして、20年近くロワゾーさんを支えた料理人だ。店が「ルレ・ベルナール・ロワゾー」と名を変えてからは、総料理長としてロワゾーのエスプリを受け継ぎながらも、自身のスタイルを追求し続けてきた。

山口さんもまた、師の教えを深く心に刻みながら、その精神と哲学、技を一人でも多くの後輩たちに伝えていきたいと奔走する。

そんな二人が、ルレ・エ・シャトーの60周年記念イベントの最後を飾るために、手を結んだ。

一緒に働いていたのは、2年ほどだが、その後も毎年今回のようなイベントを行っているので、つきあいは20年以上になるという山口さん(左)とパトリックさん(右)。

「メニューはふたりで決めましたが、私にすれば、今回は来日してくれたパトリックがメイン。彼の感性を通して、お客様に感動していただける料理をお出ししたいと思っています」(山口さん)
もちろん、日本の食材を熟知する山口さんの知識を加えて。

色合いが美しい「旬魚のセジール新玉葱とポテト タジャスカ種の黒オリーブを合わせて ガランガを感じる濃厚な魚介のソース」

「例えば、パトリックが選んだプラネサンジャックという料理は、帆立貝柱がメイン。ですが、日本には季節柄、ホッキ貝やツブ貝などのおいしい貝がある。私が仕入れておくので、来たときに食べて判断してくれと提案しました」
出来上がった皿には、ホッキ貝やツブ貝が乗っていた。

「フランスにはミル貝やホッキ貝のような大きい貝がないんです。今回私たちは、貝を剥いて薄切りにしたのですが、こういうことはフランスではしたことがありません。とても新鮮でしたし、面白かったです」(パトリックさん)

ロワゾーのエスプリを通じて師の定番料理と私の新しい料理を共存させていきたい パトリック・ベルトロンさん

「仔牛フィレ肉と胸腺肉のポアレ」は目にも楽しいひと皿。
料理は、舌だけで味わうものではないことを教えてくれる。

"ロワゾーの弟子"として生きていくということ

パトリックさんは言う。「偉大な先人の後を継ぐのは難しかった。けれど、違う場所で何かをするほうがもっと難しい。私は、セコンドとしてロワゾーのそばで仕事をしてきたからなおさらです。ロワゾーがいた頃のレベルを維持するのは大変だと思いました。正直、怖かった。でも、挑戦するしかないと思ったんです」

「香りを浸透させたカゼットのクリームとビオヨーグルト“タイノリ”ショコラの
キューブとサフランの共演」もフォルムが面白い。

客は、ロワゾーの料理を求めてレストランを訪れる。ましてやそのレストランが三ツ星となれば、いやが上にも期待は高まる。

「だからこそ、ロワゾーの料理をそのまま引き継ぐのではなく、ロワゾーの教えの核心を守りつつ、その延長線上で自分の料理をつくることに徹しました。それが、プレッシャーに対する解決法だと思ったんです」(パトリックさん)

ロワゾーと一緒に料理を追求してきたからこそ、自分のルセットをつくる段階では、ロワゾーならどう考えるかとは発想しなかった、とパトリックさんは言う。

「それは、パトリックがロワゾーさんと常に一緒に"ロワゾースタイル"を築き上げてきたからなんでしょうね。私はむしろ、『ロワゾーさんがいたらどう言うだろう』と考えるんです」(山口さん)

師の料理をベースに自分自身の新たな料理を完成させ、三ツ星を維持し続けているパトリックさん。「寡黙で多くは語らず、真面目な性格だけれど、ロワゾーさんの料理を今の時代に合った料理に進化させたところがすごい」と山口さん。

イベントで活躍したスタッフたちが大集合。

ロワゾーという偉大な料理人を師に持ち、
協力し合う山口さん(左)とパトリックさん(右)。

ベルナール・ロワゾーの料理はとてもシンプルで、響き合うもの以外はすべて排除する。「パトリックはそこに、リズムやアクセントを入れる。音楽みたいな料理なんです」(山口さん)

それは決してロワゾーの料理を否定するものではない。「ベルナール・ロワゾーは、時代に応じた料理をつくろうとしてきた。それが、まずは生クリームやバターを排除することだった。現代はあの頃に比べて刺激が多い。だから、今の料理には、皿のなかにアクセントがなければ飽きられてしまう。つまり、パトリックの料理はロワゾーさんの求めるものだったんだと思います。そこがすごいな、と感じます」(山口さん)

ベルナール・ロワゾーが蒔いた種は、日仏だけでなく、今では世界中で育ち、花開いています 山口浩さん


ベルナール・ロワゾーの肖像画の前で。パトリックさん(左)と山口さんは信頼する者同士の笑顔で。

ロワゾーという師に教わった最大のものは何なのか? 
パトリックさんは「お客様を感動させるために何をすべきかと考える姿勢」。山口さんは「お客様や料理に向き合う姿勢」だと言う。

いずれも技術やノウハウではなく、その精神だ。だからこそ、「ロワゾー」は少しずつ形を変えながらも、フランスと日本で、しっかりと根付き、生き続けているのだ。

Patrick Bertoron

1982年にベルナール・ロワゾーがオーナーを務める「ラ・コート・ドール」に入店。2年後にセコンドに。1991年にはロワゾーとともにミシュラン三ツ星の栄冠を得る。2003年に「ルレ・ベルナール・ロワゾー」と名を変え、総料理長に就任。

Hiroshi Yamaguchi

大阪のホテルで修業後、渡仏。数店を経て、三ツ星レストラ「ラ・コート・ドール」へ。その後、「ラ・コート・ドール神戸」開業にあたり帰国、日本人シェフを務める。2000年より神戸北野ホテル運営会社代表取締役であり、総支配人・総料理長。

神戸北野ホテル(アッシュ)
Kobe Kitano Hotel [aʃ]

兵庫県神戸市山本通3-3-20
☎078-271-4007(直通)
● 11:00~14:00 18:00~21:00
●無休
●コース 昼3500円~ 夜10000円~
●40席 www.kobe-kitanohotel.co.jp

料理王国=取材 山内章子=文 村川荘兵衛=撮影

本記事は雑誌料理王国249号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は249号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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