「やまなし美酒・美食マンス」ピッツァもパスタも等しくおいしいイタリアン、甲府のristorante koenを訪ねて。


「やまなしの美酒・美食」とは、豊かな自然や気候に恵まれた山梨県が、おいしい県産食材やワインをはじめとする県産のお酒を楽しみましょう、という取り組み。
その一環として「やまなし美酒・美食マンス」と称し、山梨の食材を使った料理と県産のお酒のペアリングを提案するレストランフェアを開催。
https://www.pref.yamanashi.jp/kankou-sk/bishoku/top_page_since_2022.html

2024年2月16日(金)~3月17日(日)の1か月にわたって行われ、山梨県内48店の飲食店が参加した。
そのうちのひとつ、「ristorante koen」を訪ねた。

店に入るとひときは目を引く大きなピッツァ釜。ピッツェリア?と思いきや、ここは〆に本格ピッツァを提供するイタリアンレストランだ。

八ヶ岳から届く有機栽培の新鮮な西洋野菜を軸に、「甲州地どり」や「やまなしジビエ」など山梨県産の食材をちりばめたコース料理が楽しめる。山梨県内に90軒以上もあるワイナリーのうち約30蔵のワインをオンリスト。美酒・美食やまなしを体感できる場所として県内外から足を運ぶ人が絶えない。

2月16日から3月17日まで山梨県内の飲食店で開催された「やまなし美酒・美食マンス」。会期中ここristorante koenで提供された「野菜のピッツァ」を頂いた。野菜は季節によって、また野菜の入荷によって変わり、この日は春を告げる野菜2種。1枚のピッツァ生地を新玉ねぎと菜の花が仲良く分け合う。
新玉ねぎはまるごとピッツァ釜でじっくり焼いて甘みを出してから、ケイパー、オリーブオイルとともにミキサーにかけてソースとし、生地に塗り拡げ、さらにその上に生の新玉ねぎのスライスを載せて焼き上げる。新玉ねぎのソースの優しい甘みと生の新玉ねぎのシャキシャキ感、そのコントラストがたまらなくおいしい。菜の花は「からし和え」のイメージでその下に白味噌と粒マスタードを合わせたペーストをソースとして敷いている。軽やかな苦みを帯びた菜の花がマスタードの辛味、香ばしい生地の香りと相まって、口の中が春の味で満たされる。

ペアリングに選ばれたのは、くらむぼんワインの「N 甲州」。造りによって様々な表情を見せる甲州でも、このワインは炊きたてのごはんを思わせるふくよかな香りで、山菜や春野菜のえぐみを包み込む懐の深さがある。

ピッツァ職人でristorante koenオーナーの石毛真由美さんは山梨県笛吹市出身だ。とにかく野菜が大好きで、名古屋の惣菜メーカーでサラダの商品開発を担当。その後お客様の笑顔を直接見たいと中食から外食へ転向。ピッツァの名店「エンボカ東京」(現在は閉店)で5年間のピッツァ修業の後、山梨へ帰郷。5歳下の弟で料理人の小池陵太さんをシェフに抜擢して7年前の1月この場所に店をオープンした。

「正直なところ、最初ピッツァはそれほど興味なかったのですが、ピッツァ釜で焼かれた野菜があまりに美味しくて気がついたら夢中になっていました。野菜のおいしさを引き出す薪のピッツァ釜のポテンシャルに圧倒され、自分の店をオープンするならピッツァ釜を導入したいと思うようになりました」。

野菜には並々ならぬ強い思い入れのある真由美さん。ピッツァのトッピングは季節に応じて入れ替えながら常時10種類の野菜を提供する他、前菜やメインの付け合せまで野菜が登場する。

店を彩るこれらの野菜たちは、真由美さんのご主人、石毛康高さんが八ヶ岳(北杜市)で育てている無農薬野菜だ。真由美さんがご主人と出会ったのは、ここに店を開いてまもなくのこと、山梨県産でおいしい野菜を探していたときだった。農園の名前は「Crazy farm」。ときにはイタリアンレストランのシェフから種を分けてもらい、手探りでチャレンジしながら西洋野菜を中心に現在80種類を栽培している。八ヶ岳の豊かな自然に抱かれ、丁寧な土作りと微生物の力から生まれる滋味深い「Crazy farm」の野菜は、県内のみならず東京のレストランからもオーダーが入る。ristorante koenで特に人気なのが「人参のピッツァ」。サワークリームと地元「五味醤油」の味噌を合わせたソースの上に4種類の人参をトッピングして焼いたもの。人参嫌いの人でも必ず好きになると言う。

コースのメインとなる肉のひと皿、この日は「丹波山村産鹿のフィレ肉のコトレッタ」をチョイス。予約時に選べる和牛、ラム肉、豚、甲州地どり、鹿肉の中でも最も人気のある料理だと言う。「ホンシュウジカはエゾジカに比べてややクセがあるので、繊細な味わいのフィレ肉を使っています。脂肪分が少ない部位なのでシンプルに衣をまとわせしっとりと火を入れました」とシェフの陵太さん。合わせたワインはダイヤモンド酒造のマスカットベリーA、「シャンテY.A プティdiX」。重すぎず軽すぎず、品種特有のベリー感はむしろ控えめで、スパイシーさを感じる香ばしいワインが、上品な身質のフィレ肉に静かに寄り添う。

鹿肉を提供する山梨県丹波山村のTABAGIBIERとは店の顧客を介して知り合った。まず現場を訪問して驚いたのが施設の清潔さ。そして仕事がきれいなこと。TABAGIBIERは山梨県内に5箇所ある「やまなしジビエ」認定のジビエ処理施設だ。仕留めてから2時間以内に処理をするなど県独自の厳格なルールに従い安心安全、おいしい鹿肉を提供している。

「山梨で料理をする一番のメリットは生産者との距離が近く、直接対話が出来ること」と語る陵太さんは早くから料理人の道を選び、大学卒業に必要な単位を在学3年で取得すると、4年生から東京のレストランで働き始めた。REGALOの小倉知巳シェフの下でイタリアンを学び、AMOUR TOKYOでフレンチのエッセンスに触れ、ジャン=ポール・エヴァンでショコラとパティスリーの製造現場も経験。現在店のキッチンに立つのは姉の真由美さんとシェフの陵太さんのふたり。ピッツァ以外の料理はすべて陵太さんが一から組み立てる。仕事で大切にしているのは「最短距離でやれ!」という小倉シェフからの教え。何より熱々、出来立てを最短距離でお客様に届けたい。だからこそ素材を見極め、シンプルな料理でも全体のバランスを大切にしている。

そんな陵太さんの考えがよく表れているのが、「マッシュルームのフェデリーニ」だ。バターをさっと和えただけの熱々のフェデリーニに、薄くスライスした新鮮なブラウンマッシュルームがあしらわれ、花穂紫蘇がさわやかな味のアクセントになっている。コース料理のちょうど真ん中で供されるプリモとして、〆のピッツァの邪魔にならない、まるでお口直しのような軽やかさと美しいプレゼンテーションが印象に残るパスタだ。選ばれたワインは丸藤葡萄酒工業の「ルバイヤート甲州樽貯蔵」。なめらかな果実味とほのかな樽のニュアンスがバターとマッシュルームに溶け合う。

「東京か山梨か?」自分の店を開くに当たり悩んでいた真由美さんは、廃れていくように感じていた地元甲府の街をもり立てようとがんばっている若い人たちと出会い、甲府に自分の力を還元したいと思うに至った。いずれは地元で飲食店をやりたいと修業していた弟の陵太さんをくどいて店に巻き込み、ピッツァだけなく、料理もパスタもおいしい強い店を目指した。

あれから7年、ふたりは今、山梨だからできたこと、働きやすさを実感している。まず東京の店と違ってお客様に“一見さん”がいない。東京だったらインバウンド含め”一見さん”で店を回せるかもしれないが、甲府は小さな街のため、地元のリピーター客が多くなる。お客様を楽しませるために料理も日々進化が求められる。食のガイドブックや口コミサイトの評価のためではなく、目の前のお客様を楽しませるために腕を磨き続ける緊張感を心地よく感じている。

さらに店舗の家賃も東京に比べて安価なため、従業員に長時間労働を強いる必要がない。ristorante koenは飲食店として甲府でいち早く週休二日制を導入した。従業員の働きやすさのためにメニュー構成や効率のよいオペレーションを心がけた結果、料理は自ずと「引き算の料理」になって素材が前面に出るようになり、労働時間の削減によりスタッフが生き生きしているせいか、店のサービスの評判も上がった。まさに良いことづくし。

店名のkoenとは小さな縁のこと。日々のご縁を大切に紡いでゆきたいとの真由美さんの思いから名付けた。飲みに出ればワイン生産者やソムリエにもばったり会える街、甲府。生産者、スタッフ、お客様との関係を大切にもっとこの街を盛り上げてゆきたいと2人は目を輝かせている。

右から今回の料理(ピッツァ、パスタ、鹿肉)に合わせて選ばれた山梨ワイン。一番左は今Ristorante Koenが注目しているシャトージュンの「ソーヴィニヨン・ブラン」。あえて海外ぶどう品種にこだわっているところが興味深い。
甲府駅南口から徒歩10分、繁華街を抜けた大通り沿いにある。入り口に積み上げられた薪が目印。

ristorante koen

山梨県甲府市中央2丁目12-9高善ビル1F
tel : 055-244-5511
水・木定休 (土・日はランチ営業あり)
https://ristorante-koen.com

text:勅使河原 加奈子 photo:川上 尚見

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