「美酒美⾷王国やまなし 料理講習会」が堀内浩平シェフを講師に招いて開催


2023年11月、山梨県産の食材を使った料理講習会が東京・渋谷の山手調理製菓専門学校にて開催された。降水量が少なく日照時間が長い山梨県は、出荷量日本一を誇るブドウや桃などフルーツの栽培で知られるが、同じ気象条件の恩恵を受けた野菜や米などフルーツ以外の農産物も品質が高い。また、国内で初めてアニマルウェルフェアの認証制度を導入するなど持続可能な畜産を目指して様々な取組が行われ、富士山をはじめとする山々からの豊富な水源を活用した淡水魚の養殖も盛んだ。そんな山梨県の様々な食材を、2018年よりシェフとして勤務していた「Ichii」や2021年にグランプリに輝いた「RED U-35」で「山梨ガストロノミー」を掲げ、現在は地元・郡内地域に戻って自店のオープンに向けて準備中の堀内浩平シェフが25名の料理家たちに紹介。さらに調理デモンストレーションを行った。

まず披露されたのが、富士吉田市にあるふじさん牧場の「ふじさんワインラム」を使った一皿。乾燥牧草と穀物をメインに、そこにワインを絞った後に残る果皮や種をなどの絞りかす(パミス)を加えた餌で育てられる、いわゆるグレインフェッドで、くさみがなくきめ細かな肉質が特徴だ。商品名としては「ラム」と付けられているが、肉が最もおいしくなる月齢12~18カ月での出荷を基本としており、実質的にはホゲットなのも他産地との大きな違いだ。

堀内シェフは「最初食べた時、牛肉かな?というくらいクセがなかった。でも、料理人としてはもう少し羊っぽさがほしい、と伝えたら、餌の配合を変えてくれて、今バランスがとてもいい」と話してくれた。

今回はそんな「ふじさんワインラム」を一頭丸ごととは言わないまでも、肩ロースなど正肉はもちろんその周りのスジ、レバーやタン、ハラミのような内臓に分類される部位まで余すところなく使った一品だ。肉はミンチに、タンやハラミのような食感のアクセントになる部位は下処理して刻んで一まとめにし、網脂で包んで炭火で焼く。今回は甘みや柔らかさの補助として玉ねぎだけを加え、つなぎのパン粉や卵は入れず肉々しさを前面に出したが、「純粋にお肉だけで十分おいしく仕上がります」と堀内シェフ。

そして羊肉といえば、クミンなどスパイスとの相性の良さで知られるが、堀内シェフが合わせたのは「クロモジ」。もちろん山梨県産だ。今回は冬になると出て来る芽を細かく刻んでミンチに加え、枝は羊の端肉で作るソースに香りを移して使ったが、堀内シェフは実を乾燥させたものや塩漬けにしたものも持参。料理家たちはそれぞれの香りを順に確認するという貴重な機会となった。

また、付け合わせの発酵ジャガイモのピュレを作る際にも、目から鱗のような裏ワザが披露され、料理家たちにとってはこれも大きな学びだったことだろう。

⿊⽂字に刺したワインラムのクレピット ⿊⽂字とジュのソース

ここで講師は堀内浩平シェフから、実兄で現在は東京・西国立の「オーベルジュ ときと」でソムリエを務めながらシェフと新店の準備に携わり、オープンに際しては一緒に独立開業予定の堀内茂一郎さんにバトンタッチ。山梨といえば日本のワイン醸造の発祥の地であり、国内随一のワイナリー数と日本ワイン(輸入原料を使ったいわゆる国内製造ワインではなく、国産ブドウのみから日本で作られたワイン)の生産量を誇る、農林水産省による地理的表示保護制度(GI)がスタートするより前の2013年に「山梨」が日本初のワインの地理的表示として指定されたように、日本ワインの歴史を常にリードしてきた産地だ。

茂一郎さんは今回、そんな山梨の王道ど真ん中ではなく最先端のエッジの部分、自然に敬意を払い出来るだけ人為的な介入をせず、山梨という産地の風土、空気をありのままに表現する生産者による3本を紹介してくれた。

国内では降水量の少ない山梨であっても、世界のワイン産地と比べればやはり雨が多い。その分ワインは水っぽくなりがちで、病害虫も発生しやすく農薬にも頼らざるを得なくなってくる。最初の2本は甲州で作られたワインだが、甲州はヨーロッパ系の品種と比べて糖度が上がりにくい。これを補糖せずに十分なアルコール度数まで引き上げるにはブドウを完熟させるしかない(ちなみに補糖自体は技術の一つであり悪いものではない、と茂一郎さんも補足している)が、それが山梨といえども日本の自然環境でどれほど難しいか。

1本目はそうした甲州をしっかりと完熟させ、さらに醸造の過程でオリ引きをせず、そのうま味成分を液中に移し込んだ、厚みのあるワインだ。

そして2本目は赤ワインと同じように皮をブドウ液と一緒に発酵させた、いわゆるオレンジワイン。「ブドウを食べる時に皮の部分がすごくおいしいじゃないですか。ちょっとした渋みとうま味とがすごく出ている。オレンジワインは世界でも色々なところで認められるようになってきたけれど、やはり日本人の舌には特に合っていて、それは発酵食品ですごく感じるのではないかなと思います」と、茂一郎さんは食中酒としての良さを話してくれた。

3本目はマスカット・ベーリーAの赤ワイン。甲州と並んで山梨の二大巨頭のようなブドウ品種だ。「色はちょっと薄めの赤ワインだけれども、無理に抽出するのではなく自然に出て来ている色やうま味、香りをお楽しみいただけるワインで、日本のワインはどうしても量が作れなかったり手間がかかったりで価格が高くなりがちだけれど、このワインは価格を上げ過ぎずに日常の中でワインを飲んでいただきたいと考えて作られています」と、山梨のワインの、飾らないありのままの良さを伝えてくれた。

再び浩平シェフに戻って、後半はデセール。桃やブドウが終わる頃に出て来る洋梨「ラ・フランス」を使い、コンポートとジュレに。山形や岩手、新潟といったより北の地域が主産地の洋梨だが、この「ラ・フランス」は山梨産だ。そして少量加えたレモンも山梨産。桃やブドウ、スモモなどたくさんのフルーツが作られている山梨だが、例外があるとすればそれは柑橘だ。
「山梨ってないフルーツはないんじゃないか、というくらい何でもフルーツがあるけれど、柑橘だけはなかなか見つからなくて、でもつい先日ご紹介いただいたので、今日は早速一かけだけだけど使っています」と堀内シェフ。レモンは何にでも使えるということで2、3年ずっと探していたそうだがようやく出合えたということで、最近はオイルを作ったり塩漬けにしたり、色々試していると嬉しそうに語ってくれた。

洋梨のフレッシュとコンポート、コンポートから作ったピュレ、ジュレ、そしてブランマンジェを層にして重ねるが、一番下には自家製のプラリネペーストを少しだけ入れた。これは富士山のふもとにあるハシバミの樹からこの秋に自身で収穫したヘーゼルナッツから作ったものだが、5、6時間かけて何百個も割って今回のデモンストレーション用と試食分を作ったそうだ。「西洋のハシバミではなく日本のハシバミなので、みなさんが食べているプラリネと少し香りのイメージが違うかなと思います。」

そんな山梨食材で作られた様々なパーツを、堀内シェフの実家にある池の冬の景色に見立てて仕上げた。冬になると凍るその池の氷の下には鯉なんかがいて……そんな風景をイメージしながらその水をゼリーで表現し、ジュレに加えたアブラチャンの香りや上に添えたハーブスタンドのハーブで色々な森の香りを楽しんでいただく。最後に池に張る氷のような飴で蓋をすれば完成だ。

アブラチャンの⾹りを含ませたラフランスとジュレ ローズゼラニウムのブランマンジェ

堀内シェフは、今回の講習会でデモンストレーションに使った食材以外にも、富士の介やサフラン、そしてお酒もワイン以外にも日本酒や今回使ったクロモジの香りを移したクラフトビールなど、様々な食材を紹介してくれた。

3月にはそんな山梨県の食材を使ったフェアも開催予定だ。今回の講習会では地元の堀内シェフにフォーカスして深く掘り下げていったが、今度は様々な料理人がそれぞれのバックグラウンド、フィルターを通して山梨県の食材を表現し、それをフェアという横串でつなぐことになる。今回受講した料理家たちにとっても、重ねて体験することで貴重な学びの機会になるだろう。

text:小林乙彦(料理王国編集部), photo:秋葉雅士

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