これからの山梨の飲食シーンを担う若き料理人 堀内浩平シェフの開店準備レポート


飲食シーンに興味のある人なら、「RED U-35」をご存知でしょう。
名前のとおり、35歳以下の料理人を対象にしたコンクールで、若手料理人の登竜門として年々認知度は高まっています。
今年で10回目を迎えた、この「RED U-35」で2021年、500人ものエントリーの中から、見事グランプリに輝いたのが、堀内浩平さん。
審査では、「山梨ガストロミー」を大きく打ち出した料理が話題を呼びました。
現在、地元・山梨県で、自身の店舗の開店準備を進めているという近況が飛び込んできました。
早速、堀内浩平さんを訪ねました。

山梨で開店準備中の堀内さん、そしてお兄さまの茂一郎さんを訪ねたのは、8月中旬のこと。
シェフとサービス/ソムリエ、仕事内容は違えど、ともに国内外の料理界で活躍してきた2人がタグを組むとは、なんとも強力な布陣です。
おふたりが自分たちの店舗を開業するにあたって掲げたテーマは「富士北麓ガストロノミー」。
一体、どんなお店になるのでしょう。
お店の模型も見せてくださるとのことで、「S PLUS ONE 建築設計事務所」(以下、「S PLUS ONE」)にうかがいました。

「『RED U-35』や、2018年よりシェフとして勤務していた『Ichii』では『山梨ガストロノミー』として、山梨県全域をテーマに掲げていましたが、いよいよ里帰りしての店舗をオープンは、自分のルーツを再確認することでもありました。
生まれ育った場所にリスペクトを払い、より自分たちらしさを出したい、そう考えたときに、『富士北麓ガストロノミー』としてやっていこうとなりました。
実は山梨県は、大きく2つのエリア、東側の富士山北麓を含む「郡内(ぐんない)」と、中西部の甲府盆地を中心とする「国中(くになか)」に分かれます。2つのエリアの間には連なる山々があり、今でこそトンネルができましたが、物理的には近いものの行き来に時間がかかり、歴史や文化、食べ物なんかも違うんですよ」

堀内さんご兄弟は、というと、富士吉田市のご出身。富士山や富士五湖のある「郡内」エリアです。
ルーツを確認した、ということは、お店の場所もご実家のある「郡内」になるのでしょうか。

「そうなんです。どうも富士山を近くに眺められないと落ち着かないんです(笑)。
自身の店舗を持つにあたって、まずは場所を探すところから始まり、建築設計をお願いした『S PLUS ONE』の坂野由美子さんにも相談しました。甲府市にある『S PLUS ONE』の事務所の近くにも魅力的な場所があったのですが、なんだかピンとこない。そうして、親戚の縁で今の場所に落ち着きました。
車の場合、河口湖ICを降りて、山中湖に向かう道をまっすぐ進む途中で、ちょっと林の中に進んだところになります。
まるで森の中にいるような、ここがお店のロケーションです。陽の光を感じられる開放感もあり、川のせせらぎも聞こえる。探し求めていた理想的な場所です」

堀内さんが満足そうに語る、その場所は富士吉田、山中湖、忍野のちょうど境にあたり、住所でいうと、忍野村忍草。いかにも富士山の麓を清涼なロケーションを想起させます。

新しいお店は、堀内兄弟のタッグ、おふたりの間で、どういうお店にしたいか、その共有はスムーズだったのでしょうか。また、具体的に設計に関わる坂野さんにはどのように想いを伝えたのでしょうか。

「わたしも兄も、ずっと地元にいたのではなく、いったん離れて、兄はニュージーランドで10年、わたしはフランスで働いた経験があります。地元と距離をおいたことで、客観視でき、ずっといたのでは気づかなかった点、山梨の食材や文化の豊かさを再確認しました。こういう点は生まれ育った環境が同じなので、説明がなくても分かり合える部分が大きいですね。
そして、歳が近いと、近いがゆえにぶつかることもあるのでしょうが、9歳違いなので、子供の頃も一緒に遊ぶ、ということはありませんでした。少し距離があるのが、お互いのリスペクトにもつながっているように思えます。
2023年2月竣工、24年5月のオープンに向けて、現在、建物や店舗デザインの細かい部分を詰めていく、まさに今、その状態ですが、その過程でも意見が一致しています。
建築設計を担当してくださる『S PLUS ONE』の坂野由美子さんには、こうしたいああしたいという意見を出し合う場に同席してもらい、こちらの想いを汲み取った上で、見事に具現化してくださっています」

お店は「富士北麓ガストロノミー」を味わえると同時に、感じられる場所でもあるんですね。

「その通りです。建物は、レストラン棟と宿泊棟の2つから構成します。旅の目的として“食べる”だけでなく、“丸ごと体験”して欲しい。なので、オーベルジュにすることは必須でした。その分、予算の関係もあって、当初希望した規模よりも1/3にはなったのですが、でも、宿泊施設を併設することは譲れませんでした。
というのも、より長い時間を過ごしてもらえるこの建物も、『富士北麓ガストロノミー』を採り入れているからなんです」

建物も「富士北麓ガストロノミー」。具体的にはどういうことですか。

「ベースとなる考え方は、富士講をもてなしてきた『御師の家』。富士山にやって来る人を温かくもてなす、この地方ならではの歴史文化です。実際に、富士山麓のテロワールを建築素材にも使います。一見クールでスタイリッシュな印象を与える建物になりますが、溶岩や赤土などのちょっとざらっとした素材、これらの素材を生かしたデザインで、このエリアならではの特徴と温かみを与えてくれるものになりそうです。
店内装飾には、郡内エリアが誇る伝統工芸の織物をテキスタイルとして採用します。
素材だけでなく、人もそうです。建築設計の『S PLUS ONE』をはじめ、食器などの作家さんも山梨県の方にお願いします」

食事だけでなく、すべてをひっくるめて「富士北麓ガストロノミー」なんですね。
どんなお料理が登場するのか、ますます楽しみです。

「当初の希望より規模が小さくなって、レストランはカウンター9席。いわばすべてがシェフズ・テーブル。緊張感もありますが、まずは自分自身も含めて、せっかく富士山近くの森の中、自然を深呼吸できる清涼な環境にいるので、リラックスして楽しんで欲しいですね。
具体的なメニューはこれから、まずは店舗づくりに注力している状況ですが、コースで、その流れの中で、そのときならではの季節を味わってもらおうと考えています。ドリンクはいわばハーモニー。料理に沿わせる形で、ペアリングとして合わせていきます。料理はドリンクと一緒に味わって、相乗効果が生まれますから」

ご兄弟のハーモニーも味わえるわけですね。

「はい。フランス料理のドリンクといえばワインが主軸になりますが、オーベルジュで宿泊できるのは1組、食後、お車を運転なさる方のために、ノンアルコールドリンクも充実させます。フランスでもニュージーランドでも、あえてノンアルコールを選択する、世界的な流れもありますしね。
開店準備一辺倒ではなく、ポップアップやイベントにも参加していますし、お店のメニュー作りに向けて、時間を見つけては生産さんを訪ねているんですよ。今日もこれから2か所、「HERBSTAND」と「ふじさん牧場」を回ります。ご一緒にどうですか」

協力:S PLUS ONE 建築設計事務所

山梨県甲州市勝沼町勝沼2950
https://splusone.jp/

そんなわけで、富士山の山麓のハーブ農園「HERBSTAND」と、貴重な国産羊を生育する「ふじさん牧場」を、堀内さんご兄弟にご案内いただきました。

ここにしかない和のハーブも栽培「HERBSTAND」

堀内さんと知り合ったのは、6〜7年前。もともとはモヒート店をするつもりが、進めていくうちに、そのためにはハーブの栽培から、と自身で農園を営むことに。富士吉田の標高700〜800mの寒冷地で露地栽培するハーブと、富士山の北麓に自生する草木、この2本柱で行っています。
この日訪問したのは、ハーブ農園。農園ときくと、すくっとていねいに手入れがされた畑を想像してしまいがちですが、一見、雑多に育っている印象。当然ではありますが、そもそもハーブは自然の中で自生しているもの。できるだけ自然の状態で育てているからです。
この日だけでも20ものハーブを紹介してもらいました。例えば、一口にミントといっても種類も多く、それぞれ味わいが違う、頭ではわかっていても、実際に、匂いを嗅ぎ、味わってみると、何より大地を感じさせる力強さに驚かされます。料理でははっきりとしたアクセントとして、お茶にすると爽快感ある凛とした味わいになりそう、など、話は尽きません。

HERBSTAND

https://www.instagram.com/herbstand/
※現在、新規の取引きは受け付けておりません。
※畑や山の一般公開はありません。

ブドウの餌で育てたラムが名物「ふじさん牧場」

海のない山梨県。この地ならではのガストロノミーで、どんな肉をメインに据えようか考えたときに、堀内さんが出合ったのが「ふじさん牧場」の「ふじさんワインラム」。山梨県産赤ワインのパミスを混ぜた餌を与えた羊で、飼料には他に上質な乾燥牧草と穀物、有用菌を用いたプロバイオティクス、木酢液・木炭粉を用いたプレバイオティクスによる腸内環境の改善により、くさみのないジューシーな羊肉を作り出しています。品種は、羊肉の最高峰とされるサフォーク種。12〜18か月のラムを出荷しています。近年、ラムは随分と流通し食べられているように思えますが、実は国産羊肉は、国内流通量の1%にも満たないのだとか。
そんな貴重な「ふじさんワインラム」はポリフェノールをたくさん含んでいて、ワインとの相性は間違いなのは明白です。堀内さんのお店でどんな料理になり、どんなワインとのペアリングが登場するのか、おおいに期待できそうです。

ふじさん牧場

山梨県富士吉田市大明見1-57-11
https://fujiboku.com

堀内浩平さん(シェフ)

調理師専門学校卒業後、都内のホテルやフレンチレストランを経て、渡仏。北フランス2つ星レストラン「La Grenouillere」で腕を磨く 2018年に帰国し、六本木「Ichii」のシェフに就任。2021年、35歳以下の料理コンテスト、RED U-35のグランプリに輝く。 現在は、フリーランスのシェフとして、イベントでの出張料理、料理講演や料理監修を行う。

堀内茂一郎さん(サービス/ソムリエ)

東京都内のフランス料理店勤務後、北海道「Michel Bras Toya Japon」でソムリエとして勤務。 2007年ニュージーランドに渡り、現地の有名レストランやワイナリーで働く。2016年帰国後、「マンダリンオリエンタル東京」「SORANO HOTEL」にてマネージメント業務に携わり、2022年、東京・西国立「オーベルジュときと」の立ち上げに参画。

Text:羽根則子 photo:北川鉄雄

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