1970年代から放牧養豚を始めた、日本の放牧豚の先駆けともいえる「ぶぅふぅうぅ農園」。予防的な抗生物質を使わず、国産メインのエコフィードで育てる。山梨県が全国の自治体として初めてのアニマルウェルフェア基準を作る際、実践する生産者の一人として貢献した立役者でもある。
山梨県韮崎市の丘陵地、2万㎡の土地に「ぶぅふぅうぅ農園」はある。アルプスを望む丘の上に、約200頭の放牧豚がのびのびと動き回り、600羽の鶏が平飼いされているのだ。代表は中嶋千里さん。1970年代、農業に憧れた仲間が集まり、作った農場がその前身だ。肥育豚を購入し、手引き書だけを頼りに失敗を繰り返しながら放牧養豚の技術を身につけてきたという。「何よりも、動物を拘束するのが嫌だった」と中嶋さん。
豚を導入した当初から、放牧のスタイルは変わらない。
餌や乳は、輸入の配合飼料や人工乳を使っていたが、1986年のチェルノブイリ原発事故の際に汚染された脱脂粉乳が人工乳に混ざるという事故が起きた。その後、輸入飼料の高騰などを経て「人工乳なしの飼育」「国内の未利用資源の活用」へと舵をきったという。
「早期離乳をして人工乳に頼る経済効率優先の飼育ではなく、母乳を基本とした仔豚の育成が、理想とする有機農業の考え方だと思っています」と中嶋さん。自然なスピードで肥育することで、抗生物質に頼らない健康な豚が育つという。
豚の健康を保っているもう一つの要素は「放牧」だ。豚は生後10日を過ぎた頃から、自分の意志で自由に屋内外を行き来できるようになる。仔豚期に十分な時間をかけて育った内臓には、新しい食べ物を受け入れる力が備わっているという。
「餌はエコフィード(食品副産物)を80%使用した自家配合です。なるべく安定供給できるものを選んでいますが、餌の原材料を変えざるを得ない時もある。そうした時、新しい食べ物に対しても順応性があるのも放牧だからこそだと感じています」
エコフィードは、麺の材料の小麦粉や食パンの耳、酒米を研いだ後の米糠・米粉、ナチュラルチーズの切れ端など様々。有機畜産を目指すものの、エコフィードを使用する以上、全ての餌をオーガニックで揃えることは難しい。ただ、中嶋さんは「動物の幸せに配慮する」ことを優先したいと語る。
「有機畜産を目指す中で、前段階として、もう少し緩やかな基準であるアニマルウェルフェアから取り入れるということができると思います」。
アニマルウェルフェア(動物福祉)とは、経済動物であっても、死の瞬間までその動物らしい生を全うできる飼育のあり方だ。快適な環境で飼養することで、家畜のストレスや疾病が減り、結果として安全で美味しい畜産物が生産されることにも繋がる。実際、同農場の豚肉は、しなやかな食感で臭みのない豚肉だ。
欧米では法律で制定されていることが多い「アニマルウェルフェア」の考えだが、日本ではまだ法令化はされていなかった。だが2021年、山梨県が全国に先駆けて国内の自治体では初となる認証制度「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」を創設した。取組段階である農場を認証する「エフォート」と、一定基準を満たした農場を認証する「アチーブメント」の2つの認定がある。制定にあたって、中嶋さんも生産者側からの意見を交換したという。
「山梨は畜産が盛んな県とは言い難いのですが、鶏、豚、牛とも、アニマルウェルフェアや有機畜産に取り組む生産者がいるんです」と中嶋さん。「国際的な基準に見合う認証なので、ここから消費者・生産者が意識するきっかけになれば」と期待する。同農場も6月にアチーブメント認証を取得した。
ぶぅふぅうぅ農園
山梨県韮崎市藤井町2720-1
TEL 0551-23-4312
https://boohoowoofarm.jimdofree.com
「おいしい未来へ やまなし」
https://www.pref.yamanashi.jp/oishii-mirai/
「やまなしアニマルウェルフェア認証制度について」
https://www.pref.yamanashi.jp/chikusan/yamanashiaw.html
text:柿本礼子 photo:中嶋千里