注目のアニマルウェルフェア。山梨県がツアーを開催


国内で初めてアニマルウェルフェアの認証制度を導入するなど、持続可能な畜産を目指してアニマルウェルフェアに積極的に取り組んでいる山梨県。2023年3月14日には県内のアニマルウェルフェア認証農場を視察するツアーが開催され、料理王国アカデミーからは事前応募で選ばれた4名の料理研究家が参加。今回は、そのレポートとともに、「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」の具体的な取り組みをご紹介します。

アニマルウェルフェアとは?
家畜に優しい飼育方法で安心・安全な畜産を目指す取り組み

家畜が生まれてから死を迎えるまで、できるだけストレスのない環境で健康的な飼育方法を目指す「アニマルウェルフェア」が、欧州を中心に世界的な潮流となっています。日本における知名度はまだ低いものの、SDGsやエシカル消費への関心が高まる中、全国の自治体で初となる県独自の認証制度の導入に踏み切ったのが山梨県です。

山梨県の畜産業の全国シェアは41位。ところが、シェアは小規模でも薬剤に頼らない飼育、家畜の行動要求に寄り添った畜産など、「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」の導入以前から、山梨には家畜にやさしい飼育方法を実践している畜産家が存在していました。

2021年には「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」が創設され、2023年4月現在、7つの農場が三つ星認証されています。これらの認証農場が乳用牛、養豚、採卵鶏、肉用鶏の全ての畜種を網羅している点も、国内では他に例がない特徴となっています。

日本におけるアニマルウェルフェアの最先端「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」

山梨県の「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」には2段階の認証が設けられ、農場の取り組みそのものを認証する「エフォート認証」と、実績としての畜産物を認証する「アチーブメント認証」とがあります。

エフォート認証の項目には、不要なストレスやケガを負うような手荒な扱いをしないか、といった家畜の取り扱いをふくめた健康管理、栄養面、飼育環境などの項目がチェックされます。

アチーブメント認証は畜種によって基準が定められ、例えば乳用牛の場合、繋ぎ飼いと放牧飼いそれぞれの1頭あたりの飼養面積が広く取られているか、角を取り除く際は苦痛を与えない方法で行っているか、といったより細かな点がチェックされます。

これらのチェック項目のうち9割以上を満たす農場は星3つ、7割以上で星2つ、5割以上は星1つのランクが付けられ、県内のアチーブメント認証を受けている7か所全ての農場が星3つを獲得しています。

やまなしアニマルウェルフェア アチーブメント認証農場一覧
【採卵鶏】黒富士農場(甲斐市)★★★
【酪農】キープ協会(清泉寮ジャージー牧場・北杜市)★★★
【養豚・採卵鶏】ぶぅふぅうぅ農園(韮崎市)★★★
【肉養鶏】甲州地どり生産組合(笛吹市)★★★
【採卵鶏】望月農場(南部町)★★★
【養豚】株式会社ミソカワイントン(甲州市)★★★
【酪農】Mt.Fuji Craft! Farm(富士河口湖町)★★★

清泉寮ジャージー牧場(キープ協会)

今回のメディアツアーで最初に訪れたのは、山梨県北杜市にある清泉寮ジャージー牧場。清泉寮では創設者のポール・ラッシュが、1950年代に高冷地でも飼育可能なジャージー牛を初めて日本に持ち込んで飼育をスタート。現在は約120頭のジャージー牛が東京ドーム15個分に及ぶ広大な牧草地でのびのびと飼育されています。

こちらはジャージー牛乳で日本初の有機JAS認定を受けた牧場でもあるため、衛生管理上の理由から通常は一般の立ち入りを制限。今回は特別な許可のもと、防護服を身につけての視察となりました。

この日は牛たちが放牧から戻ってくる様子と牛舎内を視察。牛舎内は牛たちが自由に動き回れるフリーストール方式が採用されており、もくもくと牧草を食べる姿に見学者は熱心にカメラを向けました。

「牛たちがすぐ目の前を通り過ぎていき、人間に対する抵抗感がほとんどないよう」
「人懐っこく近づいてくる牛もいて可愛い」
「牛舎では清潔で匂いがほとんどないこと、牛たちがとても人懐っこいことに驚きました」「日頃から人との良好な関係が保たれている証拠ですね」
と参加者の声。

清泉寮ジャージー牧場の市村農場長は、
「ここでジャージー牛の飼育を始めた当初から基本的な飼育方法は変わっていません。有機JAS認証を受けていることもあり、やまなしアニマルウェルフェア認証を申請するにあたっても、すでに基準を満たしていた部分がほとんどでした」と説明。

その後、一行は清泉寮レストランへ移動。この日のために特別に用意された、アニマルウェルフェア認証農場の畜産物を素材に使用したスペシャルコースを試食しました。

【アミューズ】ジャージーのむヨーグルト

参加者のみなさんは、「ジャージーのむヨーグルト」をグラスに注いだ時のトロリとしたテクスチャーにまず驚き、口に含んで「美味しい!」と絶賛。濃厚でまろやか、ほんのり甘みがあって、それでいて穏やかな酸味のある味わいに大満足の様子。

【オードブル】黒富士農場の放牧卵のポーチドエッグサラダと甲州地どり生産組合 鶏のバロティーヌ エストラゴンマスタード添え

しっとり柔らかく調理された甲州地どりのバロティーヌは、噛むごとに肉本来のうま味が感じられました。黒富士農場の放牧卵のポーチドエッグは野菜の下に。

【スープ】季節野菜と清泉寮有機ジャージー牛乳のポタージュ カプチーノ仕立て

【メイン】ミカソワイントン ワイン豚フィレ肉のロティ 県産ワインのソースで

やまなしアニマルウェルフェア認証を受けている「ミカソワイントン」。県産の白ワインを飲ませて育てられたワイン豚のフィレ肉は、しっとりしていてジューシー。試食した感想として「今まで味わったことのない食感の豚肉」という声も。山梨県産のマスカットベーリーAを使用したソースは、軽やかでほどよい酸味がフィレ肉のフレッシュな味わいとマッチ。

【メイン】ぶぅふぅうぅ農園 豚 肩ロース肉とROCKの地ビール煮込み

日本で初めて放牧での養豚を始めた「ぶぅふぅうぅ農園」の豚肉を使用。調理を担当したシェフが「まるで猪の肉のように赤身が多く、しっかりした肉質」と評価した肩ロースを、地元山梨県産のクラフトビールでじっくり煮込んだ一品。

【デザート】県産ワインのジュレ 黒富士農場の放牧卵と清泉寮有機ジャージー牛乳のバニラアイスクリーム添え

この日のために集められた食材はどれも生産者の想いが詰まったものばかり。ジャージー牛、放牧豚、放牧鶏、放牧卵をくまなく使いつつ、地元産の野菜やワイン、ビールとのコラボレーションによるフルコースの試食は、それぞれの特徴を知り、味わうことのできる貴重な機会となりました。

午後は清泉寮内のセミナールームへ移動し、今回のツアーを主催した山梨県畜産課による「やまなしアニマルウェルフェア認証制度」概要の説明と、認証農場の代表者による具体的な取り組みの紹介がありました。

山梨県畜産課の渡邉聡尚課長は、
「ツアー参加者による情報発信をきっかけに県の取り組みを広く知ってもらい、山梨でアニマルウェルフェアな畜産をやってみたいという畜産家が山梨へ来てくれたら、という狙いもあります」とコメント。

認証農場は他県からの視察の受け入れや指導も行うなど、国内におけるアニマルウェルフェアの第一人者が揃っている点にも注目。「この取り組みが認知され、アニマルウェルフェアの畜産物が適正な価格で買ってもらえるようになることが持続可能な畜産につながるはずです」と力を込めました。

黒富士農場直営店「たまご村 甲府店」

次に訪れたのは、やまなしアニマルウェルフェア認証農場のひとつ、「黒富士農場」の直営店「たまご村 甲府店」。店内には黒富士農場の原点とも言える「放牧卵」をはじめ、有機JAS認証を取得している日本初の「リアルオーガニック卵」など採れたての卵と、それらを贅沢に使用したバウムクーヘン、シフォンケーキなどの製品が販売されています。

見学者の皆さんはもともと食に関心が高いこともあり、次々と興味のある商品に手を伸ばして購入列へ。料理王国アカデミーから参加した4名の料理研究家のうち3名がオリジナルのマヨネーズを選んでいたのも印象的でした。

黄身につまようじを2本刺しても崩れない新鮮な卵。

参加された方の中には、今回のツアーがきっかけで初めてアニマルウェルフェアを知ったという方も。
「ストレスのない環境で育てられた家畜は、素材としての味にも差が出ると思う」
「のびのびと育てられた牛たちを見て、アニマルウェルフェアはとても良い取り組みだと実感しました」
「今後入手できる機会があれば、積極的に料理教室の生徒さんにも紹介したい」
「日帰りで産地を訪れることができる今回のようなツアーはとてもありがたいですね」
など、それぞれ充実したツアー体験となった様子。

畜産業界が飼料価格の高騰、担い手不足などさまざまな課題を抱える中、畜産物に新たな付加価値を生むことが期待されるアニマルウェルフェア。持続可能な畜産の実現に向けての取り組みはさらに広まっていくことでしょう。

【今回のツアーに参加した料理家の皆さん】

小松友子
@bonheurpan

児玉ゆきこ
@pastis00906

酒匂ひろ子
@hirokoskitchen

緒方美智子
@michiko_frua_ogata

text, photo:田中はなよ

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