「千葉の新たなブランド 水産物体験ツアー」をレポート


冬の厳しさがまだ感じられる、2023年2月14日、「千葉の新たなブランド 水産物体験ツアー」に参加した。
よく知られているが、三方を海に囲まれた千葉県は、海の幸に恵まれたエリアである。さらなる千葉の魚介類の認知度を高め、広く県内外にアピールするため、2005年6月に「千葉ブランド水産物認定制度」を創設。千葉県の水産業の振興と消費拡大を目指す狙いもある。
現在、34品目が認定されており、良質な魚介類については、随時追加される見込みだ。
https://www.pref.chiba.lg.jp/suisan/brand/index.html

今回のツアーでは、この「千葉ブランド水産物認定制度」の注目株、「江戸前オイスター」と「おかそだち」を生産の現場、そして実際に食べて体験した。
その模様をレポートする。

「江戸前オイスター」〜海苔の名産地で牡蠣を作る〜

新富津は、全国有数の海苔の生産地。千葉県内の約5割強以上をここで生産している。
しかしながら、温暖化の影響による海水温の上昇などにより、海苔の生産量は年々減少している。新富津とて、例外ではない。

新富津漁業協同組合は1971年、富津岬南側の漁場を基盤に発足した。当時は東京湾臨海地域埋立計画より、漁業権の全面放棄に追い込まれていたが、どうしても海苔養殖を続けたいという漁業者らによりスタートした。発足当初236人いた組合員は、30数人まで減っている。

とかくマイナス面が目立つが、未来につながる明るいトピックもある。それが、「江戸前オイスター」だ。
「千葉ブランド水産物」にこそ、まだ選ばれていないもの、その品質には目を見張るものがあり、認定されるのもそう遠くないだろう。

なぜ、オイスター(牡蠣)なのか。
海苔の養殖に欠かせないのが牡蠣だからだ。新富津漁業協同組合では海苔養殖の施設を活用し、2018年より牡蠣の養殖を始めた。

牡蠣の養殖は、牡蠣筏というイメージが強いが、新富津の海は強風と潮の流れの速さのため、筏の設置が適さない。
そこで、専用の籠に牡蠣を入れて放し飼いにして育てるシングルシード養殖を採用している。

このツアーでは、船で沖の牡蠣筏を見学した。この日はどちらかというと穏やかな天気だったものの、確かに風が強い。
引き上げてもらった籠には牡蠣がざくっと。殻にゴツゴツ感がなく、上品なフォルムが印象的だ。
定期的に籠を水中から引き揚げて牡蠣を洗浄したり、大きさを見極めて籠に入れ替えたりするのだとか。

港に戻ったら、牡蠣を磨き、計量している様子を見せてもらった。一日1000〜2000の牡蠣を、24時間の浄化を経て出荷する。

養殖方法にしても牡蠣筏養殖のように大量生産できるわけではなく、また研磨する作業、と手間がかかる。
その分、見るからに上品な姿となるのが、「江戸前オイスター」の特徴といえよう。大きさはさほど大きくないが、身がぎゅっと締まっているのもポイントだ。そのため、熱が入っても縮みが少ない。
牡蠣は新鮮さが命。輸送手段などが発達したとはいえ、首都圏という大消費圏にあるのは、大きな強みである。

新富津漁業協同組合
千葉県富津市富津2430-1
Tel: 0439-87-3555
https://shinfuttsu.com

「江戸前オイスター」を食べる

「江戸前オイスター」をいただいたのは、千葉の海産物を寿司や天ぷらなどさまざまな調理法で提供してくれる、ひろ寿司で。
「江戸前オイスター」は生と蒸しで登場した。
生もいいが、蒸しの方が、「江戸前オイスター」の縮みが少なさと、火を入れることで味が少し凝縮されるので、その良さが発揮されるようだ。
味が主張しすぎず、つるんと喉を通るので、天ぷらや寿司、味噌汁など他の料理との流れの中でもスムーズに食べられる。
しっかりとコクがあって濃いというよりも、比較的あっさりした味わいは、牡蠣を強く前面に押し出すのではなく、その分、幅広く料理に使える。牡蠣があまり得意でない人にも好まれるのではないかという印象を持った。

ひろ寿司
千葉県富津市新井78-1
Tel: 0439-88-2281
http://www.hirozushi.jp

「おかそだち」〜陸地で環境にも配慮したサーモンを育成〜

木更津にある、FRDジャパンは水産ベンチャー企業である。
閉鎖循環式陸上養殖システムにより、陸上養殖サーモン「おかそだち」を養殖。
最大の特徴は、ムダが少ないこと。汚水も汚物もほとんど出ないこと。今の言葉で言うと、SDGsに即している。

魚介類は世界中で消費が増えている。中でもサーモンは人気が高い。
需要が拡大しても天然漁獲量は既に頭打ちとなっており、海面養殖が拡大している。魚のフンや残餌による環境負荷が問題になるケースが増加。自然保護のためにも、海に依存しない陸上養殖は大きな注目を集める。
FRDジャパンでは独自のろ過システムで水を循環させながら「おかそだち」を養殖。地球に優しいサステナブルな養殖である。昨今の社会のあり方の指針であるSDGsの理念にかなっている。

2018年に稼働が開始したFRDジャパンの施設では、水温を15℃に保った冷たい水を循環させ、一年中サーモンに適した環境を維持。
外界の影響を全く受けないので、水温のみならず、水質や餌などすべての飼育条件を緻密に管理することが可能だ。
特に、近年厳しい夏の暑さでも一定の環境を維持でき、台風や津波、病原菌の影響も受けない環境は、サーモンの生育においても安定生産においても、大きな意味がある。

水は海水や地下水を使わず、水道水で養殖する。独自の循環技術で、水替えの必要がほとんどない。通常30%程度の換水率ところ、ここでは1%ほどに抑えられる。
一般的なろ過装置に加え、脱窒槽も導入。えさや糞に由来する水の汚れを除去し、窒素に変えて空気中に排出する仕組みをとっている。

ところで、FRDジャパンの本社は埼玉。ここにもファームがあり、ふ化から6か月間は本社ふ化場で、その後の6か月間は約3kgの大きさになるまで、ここ木更津で育てて出荷する。埼玉と木更津それぞれに大中小、3つのサイズの水槽が4つずつ、全体で24つあり、埼玉の小サイズから木更津の大サイズまで計6サイズをサーモンの大きさによって使い分ける。

流通システムの発達などにより、海外からも良質なサーモンは輸入されている。では、FRDジャパンの「おかそだち」は何が優れているか、というと、冷凍されない生ならではの圧倒的な鮮度のよさ。脂が過度にならず、すっきりした味わいなのも持ち味だ。
サーモンを生で、いい状態で食べられるとあって、今後が大いに期待できる。千葉・木更津は首都圏から1時間という地の利のよさも後押しするだろう。

FRDジャパン
千葉県木更津市かずさ鎌足3-9-13
Tel: 0438-53-7858
https://frd-j.com

「おかそだち」を食べる

「おかそだち」を実食したのは、1950年創業の亀山温泉ホテル。
現在の社長は3代目、料理に注力するようになり、現在の料理長が2019年に入社して以降、その姿勢は顕著となり、料理を目当てに訪問するリピーターも増えた。

千葉県産生サーモン「おかそだち」は2つの料理、刺身とクリームシチュー風で。
刺身は身と卵とを。脂があっさりしているので、きれいな味わいがダイレクトに味わえる。

クリームシチューにはごろんとした切り身が入る。
しっかりした肉質で身崩れがなく、食べ応えがある。ここでも脂のきれいさが際立ち、量があってもしっかり食べられる。

先付けから始まる7品のコースでいただいた亀山温泉ホテルの料理は、基礎を踏まえた上での創意工夫が見られるが、奇を衒ったものでは決してない。合わせる素材や調味料、盛り付けにちょっとだけひねりを加え、新鮮さを演出し、食べる楽しさがある。それが幅広い人に喜ばれる理由と納得した。

亀山温泉ホテル
千葉県君津市豊田65
Tel: 0439-39-2121
https://www.kameyamaonsen.jp

千葉の良質な水産物を育みより楽しめる環境

ツアーでは他に、道の駅木更津 うまくたの里、酒ミュージアム、久留里城址資料館を見学。
道の駅木更津 うまくたの里は、大きなピーナッツのモチーフが目印。千葉の味覚が揃い、海産物も然り。千葉は醤油の一大産地でもあるので、醤油を筆頭に調味料類も揃う。刺身にしろ、調理したものにしろ、海産物の立役者として調味料は欠かせない。地元の野菜なども揃い、魚介類レシピのヒントが詰まった場所でもある。

もともと持つ千葉の水のよさが端的にわかるのが、久留里にある酒ミュージアム。
久留里は千葉県で唯一「平成の名水100選」に選ばれた場所。日本酒は水が命。優良な酒蔵も点在する。酒ミュージアムでは、8つの酒蔵の酒瓶や酒樽の展示・紹介、有料試飲ができる。魚と肴に合わせたい日本酒探しにもいいだろう。

水質のみならず、井戸の掘削技術に優れているのが千葉である。
久留里城址資料館で見学したのは、明治時代中頃に、この地方で考案された掘抜(ほりぬき)井戸の掘削技術、上総掘り。
日本のみならず世界でその技術は現在も継承されている。

道の駅木更津 うまくたの里
千葉県木更津市下郡1369-1
Tel: 0438-53-7879
http://chiba-kisarazu.com

酒ミュージアム
千葉県君津市久留里市場195−4
Tel: 0439-27-2875(君津市久留里観光交流センター)

久留里城址資料館
千葉県君津市久留里字内山
Tel: 0439-27-3478
https://www.city.kimitsu.lg.jp/soshiki/54/

千葉県総合企画部地域づくり課
https://www.pref.chiba.lg.jp/chiiki/

text:羽根 則子

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