三島の「ヴィラディマンジャペッシェ」やイタリアで研鑽を積んだ小佐野彰さんのリストランテがあるのは、清爽な空気に包まれた富士山麓の町。門柱にシーサーを飾った玄関をくぐり、前庭の石畳を通って玄関で靴を脱ぐと、ふわりと気持ちがゆるむ。
小佐野家の邸宅を改築したダイニングに漂うのは、豊かな〝田舎暮らし〞の空気感。料理の合間に畑仕事に出かけるという小佐野さんの笑顔は、太陽のように明るい。
食材は館山直送の魚を除き、野菜や肉は地縁のもの。小佐野さんの沖縄の実家から届く島野菜や近隣の自家畑で作られた野菜は、すくすく育った子供のように元気いっぱいだ。そんな野菜を20種類以上使った休日ランチは3種類。パスタは乾麺にしてソースを選ぶか、手打ちでソースをおまかせにするか。メインを1品とるか2品とるかが悩みどころ。だが、日本の食材で表現されたイタリアの味の本質は、どのコースでも一貫している。
ランチのあと、富士山を仰ぎながら向かったのはマダム行きつけのギャラリー&カフェ。緑の中に佇む一軒家の扉を開けると、廊下の先は現代美術の展示スペース。高低差をつけて回遊性を持たせたフロアには器のギャラリーもあり、随所にさまざまな本が置かれている。窓際の大きなテーブルでケーキセットを注文すると、素材を生かしたやさしいケーキと、いれたてのお茶が運ばれた。独特の存在感のあるカップは、ギャラリーにも置かれている作家の作品「。見る力をつけるために日々の暮らしで良い器を使ってほしい」という、オーナーの気持ちの表れだ。アートを楽しみ、窓外の緑を眺めつつティーブレイク。朗らかなオーナーとのおしゃべりも楽しい。
小旅行の最後に訪れたのは「虎屋リカー」。「ワイナリーを巡るよりもいろいろな甲州ワインを効率よく購入できる」と、首都圏から尋ねてくるワイン愛好家も多い有名店だ。甲州ワインを所望すると、県内のほぼすべてのワイナリーのワインが揃う、隣の建物のセラーへと案内される。おすすめは地元のホテルでも評判の、山梨マルスワイナリーの「穂坂収穫」。カベルネ・ソーヴィニヨンの力強さとマスカット・ベリーAのやわらかさを併せ持つ。
〝ワインといえば赤玉ポートワイン〞だった時代から造られている同店オリジナルの「デアフジ」は、酸味や渋味が少なくライト。日本ならではの季節感を生かしたワインや、産学共同で開発された新しいワインも人気だ。
text:Megumi Komatsu /photo:Kenta Yoshizawa
本記事は雑誌料理王国2011年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。