岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

編集長の野々山が、料理王国8月号(7月6日発売)の見どころを、編集こぼれ話として紹介。今回もオーベルジュ特集の中から、岩手県の「とおの屋 要」の取材秘話。醸造家としての佐々木さんの大人気のどぶろく造りのお話。

前回ご紹介した奈良県の滋賀県の「SOWER(ソウアー)/ロテル・デュ・ラク」に続いて、今回は、岩手県の「とおの屋 要」のお話。いつもなら、自分で撮影した写真と文章が続きますが、残念ながら今回も伺っていないので、前回同様、岩手県の取材をお願いした、上村さんの文章と、カメラマンの竹田さんの写真でお届けします。今回で特集のオーベルジュ7店全ての編集こぼれ話がwebでご覧いただけることになります。本誌と併せて是非お楽しみください。

農業人、醸造家、料理人と3役をこなす「とおの屋 要」のオーナー・佐々木要太郎さん

遠野の米の品種「遠野1号」と
とぶろく文化を現代へと蘇らせた


独創的な料理と築200年の米蔵の風情ある建物で、1日1組のゲストをもてなす「とおの屋 要」。オーナーの佐々木要太郎さんは料理人であると同時に、農業家、そして醸造家としてもこだわりある仕事を続けています。
料理人としての取り組みは本誌で紹介したので、ここでは主に農業家、醸造家としての佐々木さんをご紹介します。

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

農業家の佐々木さんが20年ほど前からこだわり、実践しているのは、完全無農薬無肥料で米を育てることです。信頼できる2人のスタッフとともに約3haの田んぼを借り受けて耕している佐々木さんは、「農薬を使わないと米作りはできないと思っている農家さんがほとんどで、最初は近くの農家から『お宅が農薬を使わないことで、うちの田んぼに悪影響が出るのではないか……』とのクレームもありました」と振り返ります。「でも、自然の力を借りれば可能なんですよ」。

では、どのようなところから始めて無農薬無肥料を実践していったのでしょうか——。
「まず、田んぼの畔に落葉系の背の低い植物が育つようにすることから変えていきました。そうすると葉の裏側にクモが集まってきて繁殖していく。クモが増えるメリットは、病原菌を運んでくるカメムシなどを捕食してくれる点です。農薬をやめるとほかの虫も集まってきますが、今度はそれを餌とする大型の野鳥が飛んできて虫を食べてくれる。大型の野鳥がくると、稲を荒らすスズメなとが近寄らなくなるので、スズメ除けにトンビの模型を飛ばしたりする手間も省けるんです」(佐々木さん・以下同)

このように虫や鳥の力を借りながら、土を耕し、田植えをし、草を刈り、「とおの屋 要」でゲストを迎える以外は、ほとんどの時間を田んぼで過ごす佐々木さん。20年経って、ようやく畔がフカフカとやわらかくなり、理想とする土づくり、米づくりが展開できるようになってきました。今では、農業家として信頼を集め、近くの農家の人々のさまざまな相談にのることもあるそうです。

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話
岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

「僕たちが耕している田んぼは比較的町の近くにあって、しかも林と隣接している。こういう環境は非常に希少なので、なんとか守っていきたいという気持ちが強いんです」
林の中にはホオ、クワ、クルミの木などがあり、めずらしいキノコも採れます。周辺に自生して強い香りを放つミントやミツバの葉なども、佐々木さんに多彩なインスピレーションを与えてくれる大切な存在だそうです。

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

佐々木さんたちが育てているお米の品種は「遠野1号」で、これを食用だけでなく、どぶろく造りにも使っています。
「僕がどぶろく造りに興味をもったのは2002年、21歳の時です。遠野にはかつては各家庭でどぶろくが造られていた歴史があり、それで遠野市はどぶろく特区の申請をしていました。その発起人が民宿をしていた僕の父親だったことから、申請の条件とされていた岩手県工業技術センターでの講習を僕が受けることになったのです(2003年、遠野市はどぶろく特区の第1号に)」
この時、出会ったのが、遠野1号でした。
「遠野1号は、現在多くの人に好まれているようなふっくらとして甘味のある品種とは違うため、育種をやめる寸前だったのです。ところがどぶろくに用いてみたら、非常にエレガントな風味に仕上がりました。それにこのお米は、熟成させると食用としても非常においしくなるんですよ」

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

佐々木さんの造るどぶろくは、「従来のイメージを覆すエレガントで洗練された味わい」とスペインの星付き店で評価されたのをきっかけに、国内外に浸透。造るそばから売れていく状況です。佐々木さんが手掛けるどぶろくですから、ありとあらゆる手間とこだわりが詰まっていることはいうまでもありません。
「とおの屋 要」を訪れるゲストの中には、「朝シャン(シャンパン)」ならぬ「朝どぶ(どぶろく)」を楽しみにされている人も多いそうです。

以上、上村さんの編集こぼれ話でした。朝どぶ、いい響きですねぇ。実は、この取材の1ヶ月後、遠野に出かけることがあったのですが、残念ながら、とおの屋には泊まらず、朝どぶを経験しないで帰ってきてしまいました。次回はぜひ、大人気のこだわりのどぶろくをいただいてみたいと思います。ということで、特集のオーベルジュ7店、それぞれのこだわり、楽しんでいただけましたか。8月号は書店で好評発売中です。本紙も是非ご覧ください。

岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話
岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話
岩手県遠野市「とおの屋 要」取材チームから届いた、編集こぼれ話

original text:上村久留美 photo:竹田博之

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