スペシャルコラボを振り返る。二つの才能が呼応し生まれた唯一無二のイタリア料理(アントニオ・ イアコヴィエッロさん ×小林寛司さん)


イタリアを代表する料理人のひとり、「オステリア・フランチェスカーナ」のオーナーシェフ、マッシモ・ボットゥーラさん。同じくイタリア生まれのファッションブランドとして世界中で愛されるグッチ。この二者のコラボレーションレストランとして、フィレンツェ、ビバリーヒルズに続き、東京・銀座に世界3店目として「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」がオープンしたのは2021年10月のこと。

オープニングから東京店のヘッドシェフを務めるのは、アントニオ・イアコヴィエッロさん。アントニオさんは南イタリアのカンパーニャ州出身で、アラン・デュカスやレネ・レゼピ、そしてマッシモ・ボットゥーラなど名だたる世界的シェフの下で研鑽を積んできました。東京店のヘッドシェフに就任してからは、伝統的なイタリア料理を軸に、日本の食材や調理法をとりいれた再構築を試みています。日本のエッセンスに加えて、ゲストが思わずくすっと笑ってしまうようなユーモアや、心をくすぐるストーリー性が込められているところも、アントニオさんの料理の魅力のひとつです。

昨年11月に発表されたミシュランガイド2023東京版では、オープンからわずか1年で、1つ星の評価を得たことでも注目を集めました。今月発表された 2024年最新版でも星を維持しています。

「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」のヘッドシェフ、アントニオ・イアコヴィエッロさん。

同店初のコラボレーションイベント開催
お相手として白羽の矢が立ったのは・・・?

そんな「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」が今秋、オープンして約2年で初めて、コラボレーションイベントを開催すると聞きつけ、体験するためレストランへうかがいました。

貴重な初コラボのお相手は、和歌山にある「villa aida」のオーナーシェフ、小林寛司さんでした。小林さんといえば、マダムの有巳(ゆみ)さんと共に、自家菜園で年間約300種の育てながら、その日に収穫した野菜を使った料理でわずかなゲストをもてなすスタイルで知られます。地産地消やファーム・トゥ・テーブルという言葉が日本で一般的に知られるようになる前から、これらを突き詰めて、農業と美食が融合した “アグリガストロノミー”に取り組むリーディングシェフ。現在もローカルレストランの可能性を広げた料理人として、世界的に注目されています。

アントニオさんも来日以来、日本の地方食材や伝統的な調理法について日々研究を重ねているということで、初コラボのお相手として、小林さんとタッグを組むのはとても自然な流れのように思えますね。

「villa aida」のオーナーシェフ、小林寛司さん。

実はこの二人、イタリア・カンパーニャ州の名店「ドン・アルフォンソ1890」で働いた経験があります(時期は異なりますが)。二人の師であるアルフォンソさんは、90年代のイタリア料理界を牽引し、南イタリアに史上初のミシュランガイド三つ星をもたらした人物。当時から自家菜園で無農薬野菜を育てて使用するなど、今やガストロノミーにおいて必須のキーワードとなった「サステナブル」をいち早く実践していたのがアルフォンソさんでした。

このコラボイベントで特別にサービスを務めた「villa aida」のマダム、小林有巳さんは、準備を重ねる二人の様子をこのように振り返ります。

「このコラボを迎える前に、アントニオがvilla aidaに来てくれました。私たちの畑を案内して、レストランで食事をしてもらって、二人は師匠との思い出話や、コラボではどんな野菜を使おうか、この野菜を使うんだったらこの調理法が良いかな、などと夜遅くまで楽しそうに話しこんでいました」。

さて、いよいよ話題は料理へと移ります。
はじめはフィンガーフード数種に舌鼓。美しい見た目とは裏腹に、イタリア郷土の料理や菓子を再構成していたり、日本人の“持ち物に名前を書く文化”に影響を受けアントニオさんの焼印を押した揚げパンがあったり、どこかホッとする味わいと、思わず笑顔になってしまうユーモアが、ゲストの心を和ませてくれます。以下は、特に印象に残った料理を解説していきます。

「Tribute to Don Alfonso 1890」
ホウキダケ オマール海老

二人の師匠である「ドン・アルフォンソ1890」のオーナーシェフ、アルフォンソさんはコースの最初に揚げ物料理を出したそうで、この日の1品目は揚げ物に。レンズマメのサラダと、モスト(ブドウ果汁)と甲殻類の出汁を煮つめた甘辛いソースの上にあるのは、揚げ衣に包まれたオマール海老とホウキダケ。油っぽさを微塵も感じさせない軽やかな衣の食感が心地良く、オマールの火入れも抜群で、ほど良く水分が抜け、凝縮されたうま味が感じられました。

「Insalata di funghi」
松茸 ジャガイモ ソバの実

香り高い松茸や、うま味を持つセンボンシメジといったキノコのソテーに、揚げたジャガイモのチップス、ソバの実などを合わせたサラダ。サラダの上に散らしてある千切り状の白いのものは、鶏の出汁を煮つめて固めたゆべし。多様な香りと味わい、食感がひと皿の中に存在していて充実したサラダになっていました。

「Mare e Monti」
つぶ貝 アニメッラ 香草

こちらは素朴な見た目とは裏腹に、ゲストに驚きを与えてくれたひと皿です。「Mare e Monti」=「海と山」というタイトルの通り、ひと皿の中に海と山の食材が登場します。使ったのは、磯の香りをまとうつぶ貝、リンゴエキスで照り焼きにしたリードヴォー(仔牛の胸腺)、心地よい青味や苦味を持つvilla aida産のカツオ菜や水菜、柚子、アーモンドソース。それらが全て合わさると、きれいな円を描くように、調和の取れた味わいとなりました。

「Il Pane è Oro」
トマト 鴨出汁 パプリカ

「Il Pane è Oro」はイタリア語で「パンは金なり」を意味します。これはマッシモ・ボットゥーラさんが2017年に刊行した本のタイトルで、恵まれない人々へ、マッシモさんがフレンズ(世界のトップシェフたち)と協力して料理をふるまうというプロジェクトのレシピ集。高級食材ではなくありふれた食材や、固くなったパンやチーズを使い、ガストロノミックに昇華させ、恵まれない人々に特別な体験を届けてきました。

話を料理に戻すと、金箔の下にはラビオリが潜んでいて、鴨出汁を注いでいただきます。そのラビオリの中身は「パッパ・アル・ポモドーロ」、つまり固くなったパンをトマトソースでやわらかくしたパン粥が包まれているのです。鴨出汁はこの日のメイン料理の端材を活用しています。はじめは金箔に覆われた豪華な見た目に気をとられ、口に入れると、イタリアの家庭の味の素朴さに心が和む…! そしてタイトルを思い返してみると、マッシモさんの想いを汲んだになっていることに気がつき、心を打たれます。

「Fico e Fichi」
黒いちぢく いちぢくの葉

こちらはコースを締めくくるデザート。アイスクリームの下に敷かれているのは、villa aida産のフレッシュな黒イチヂク。添えられている黒いゼリーは、イチヂクの葉も無駄にせず、その抽出液を使ってゼリーに仕立てたものです。これが非常に滋味深く、複雑で、力強い味わいにおどろきました。

Pasta e Fagioli
あずき 白いんげん

「パスタ ファジョーリ」とは、白いんげん豆や野菜をローズマリーやパスタといっしょに煮込んだイタリアの郷土料理。「これをデザートにしよう!」というアントニオさんの遊び心が光るデザートです。ローズマリーをきかせたミルク、あずきの2種のアイスクリームに、甘く煮た白インゲン豆のソースがかけられていて、カリカリに揚げたパスタやあずき豆の食感が良い。最後まで食べ飽きることなく完食しました。

全体を振り返ってみると、villa aidaの農園で収穫したばかりの野菜がふんだんに使われており、その力強い味わいが今でも脳裏に焼きついています。その野菜たちと、アントニオさん、小林さんの料理が、パズルのピースがピタッとはまるように、絶妙の掛け合いを見せていました。

働いた時期は異なるものの、同じ師匠を持つ二人。そんな彼らがこの日、互いに楽しみながらコラボに臨んだことがしっかりと料理から感じ取れたことに、心を打たれたのは私だけではないはずです。

ゲストに驚きを与えた、才能ある二人のコラボレーション。料理の見た目の美しさはさることながら、味わいは突飛過ぎず、背景にイタリアの家庭料理や郷土料理の存在が感じられたことで、お腹も心も満たされました。villa aidaの小林さんは今やジャンルに捉われない独自の料理で人気を博していますが、「バックボーンにはイタリア料理の存在が確かにあり、今回は久しぶりにイタリア料理へ立ち戻る機会だった」と小林さんが振り返るように、貴重な機会に立ち会うことができた感動を胸に、レストランをあとにしました。

グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ
東京都中央区銀座6-6-12 4F
TEL 03-6264-6606
https://www.gucciosteria.com/ja/tokyo

villa aida
和歌山県岩出市川尻71‐5
https://villa-aida.jp/

【Infomation】
12月19日(火)~26日(火)、年末限定特別メニューが楽しめる。ビーツのバーチ ダ ダーマに、のマカロンにカプリーノ チーズ(山羊のチーズ)と日本の山わさびを合わせた軽やかな食感の前菜から、リードヴォーを用いた南イタリアの伝統的な料理「アニメッラ」にイタリア語で「メーラ」と言うーラ」にアップルの爽やかなソースを合わせた一皿「アニメーラ」、そして豊穣なエミリア・ロマーニャ州で生まれ、ホリデーの定番として愛されてきたパスタ料理「トルッテリーニ イン ブロード」など、サプライズに満ちたコース料理で祝祭の季節を祝う。詳細は公式HPをチェック。

text:ナナコ(料理王国編集部)
photo:グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ提供

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