【プロが認めた日本の食材(9)】「雅園芸」各務さんの野菜


自然菌農法で育てた力強いイタリア野菜の味に寄り添う

山口幸男さん トラットリアイル・フィオレット

 

 シェフの山口幸男さんは、自他ともに認める料理オタク。暇さえあれば書物を読み、食材や調理法について熱心に調べ、研究する。追求するにつれ、今度は自分の手で作ってみたくなる。ゆえにチーズも生ハムもサラミもピクルスも自家製。店の営業を終えると、仕込み中の食材の具合をひとつひとつ確認する。

 その探究心が、山口さんの足を食材の産地へと誘い、試行錯誤の末に自家肥料でハーブや野菜を栽培する各務さんとも出会うことになった。

 農家を訪ねる際は、できる限り泊まりで出かけ、早朝から畑を手伝う。「会話をしながら畑仕事を共にするうちに、そこで育つ野菜にとって最適な調理法が見つかります」

土作りから始めた生産者その想いと食材を調理する

岐阜県恵那市の「雅園芸」各務栄真さんは契約農家の1軒。10年ほど前、山口さんは各務さんの作る珍しいイタリア野菜を手にした。

「その野菜は、暴れん坊のような強烈な味。個性を強く主張する野菜をどう扱っていいかわからなかった」

 それで産地を訪ねた。各務さんは元は花の農家だった。切り花を美しく長持ちするよう育てて出荷するためには、大量の農薬を使わなければならない。ある日、農作業中にその農薬を吸い込み、意識を失い倒れてしまったという。それ以来、農薬や化学肥料を使わない花の栽培法はないか研究し始めた。自然の菌が生きた土と、蟹殻や糠、油粕、畜糞などの有機物を発酵させて自家肥料を作った。しかし、生花は自然の菌だけではうまく育たなかった。それなら、この土で野菜を育ててみては?と試したのがはじまり。

 作り手の努力に触れた山口さんは力強い味に納得。葉もの野菜が届くと、バケツに水を張り、野菜を生ける。花屋の店頭のように野菜が並ぶ。しばらく充分に水を吸わせる。

「生き物ですから。こうしてあげると息を吹き返して元気になります」

 調理の際も、土臭さや青っぽい「香り」、苦みや甘みなどの「味」、ほくほくしたりシャリシャリした「食感」など、それぞれの野菜の特徴を生かして使う。味付けは最小限。「暴れん坊だ」と思った野菜の味に寄り添うだけで、充分に旨い皿になる。

契約農家の冬野菜と自家製プロシュート・クルード 48カ月熟成のインサラータ 自家製白カビチーズのコンディメント
野を描いたキャンパスのような美しい皿。野菜はほとんど生で。根菜類はスライスして水にさらしておく。黄蕪のピューレ、ワサビナのペースト、自家製の白カビチーズのコンディメントがドレッシングの役目。


三好彩子=取材、文 山田絵理=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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