食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

初心者のためのフードテック入門#1シグマクシス


田中宏隆
株式会社シグマクシス

日本のフードテックの現在地と前進のために必要な3つの力
日本でもようやく「フードテック」という言葉が聞かれるようになった。しかし実際のところ、日本のフードテックはどんな位置にあるのだろうか。前進するための条件も含め、『フードテック革命』共著者、コンサルティング会社、シグマクシスの田中宏隆さんに話を聞いた。

『フードテック革命』で目覚めた潜在ベンチャー層

ベストセラー『フードテック革命』の発売以降、 盛り上がるフードテック周辺。だがいま日本のフードテックはどんな局面にあるのだろうか。著者の一人であり、スマートキッチン・ サミット・ジャパンを立ち上げたシグマクシスの田中宏隆さんに聞いた。
「もともと企業の現場には、いま『フードテック』と言われるような領域に興味のある人は多かったんです。でもそのこと自体可視化されていなかった。2017年、スマートキッチン・サミット・ジャパン(SKS Japan)を初めて開催した時は、食に関わるベンチャー企業はどんなに探しても20社ぐらいのリスト化がやっとでした」 しかしこの3年で状況は激変した。食関連のベンチャー企業は「すでに百社規模は超え、今でも次々と出てくる」ようになり、大企業も「フードテック」と名のつくプロジェクトを自ら立ち上げ、参画するようになってきた。元来「フードテック」は”食”以外の産業から始まった動きなのだが、本流企業での取り組み加速により課題や技術、情報共有が進み、より広い領域からの人材流入が見られる。だが、それでもまだ海外との差は大きい。

百花繚乱、キッチンOS市場

「いまもっともアツいマーケットの一つは、キッチンOS市場です。アメリカには”innit(イニット)”や”Side Chef(サイドシェフ)”などのレシピアプリのベンチャー企業があります。いずれも家電をコントロールする機能を備え、いまや調理制御アプリと言ってもいい。家電メーカー側もこうしたアプリを複数搭載し始めています」 つまりベンチャー企業も大企業も、メーカー横断で複数の相手と組むのが当たり前になりつつある。しかもアメリカでは家電自体のスマート化も加速している。オーブンやコーヒーメーカーはネットにつながり、焼成や抽出の温度管理を行う家電も続々登場。価格もこなれ出し、普及期に入りつつあるという。
「2016年にリリースされたスマートオーブンのJune Ovenは当初1500ドルだった価格が第3世代では599ドルから買えるようになってきています。さらにトガった”Suvie”というスマートオーブンは、低温調理、スチーム機能、茹で機能等のほか、冷蔵機能まで付与されている。昨今の気候はリモート調理には暑すぎます。今年のアメリカは9月でも40°C超えのエリアもありましたが、これなら調理するだけという状態で仕掛けておけば、食事のタイミングに合わせて調理ができる。Kickstarterでは1199ドルで販売がスタートして、現在は899ドルまで価格が下がってきています」

日本のフードテックに期待できる萌芽

そこには”未来”がある。対して日本はどうか。レシピアプリは2018年にCookpadがキッチン家電向けにレシピを提供する”OiCy (オイシー)”というサービスの立ち上げを発表しているが、本記事執筆時点(2020年10月下旬)では、 まだOiCyは試作検証段階でありかつ家電メーカーからも目立った製品のリリースはない。「キッチンOSの領域だと、日本ではニチレイのconomeal (コノミル)というアプリが面白いですね。個人の嗜好と心理的要素を掛け合わせ、データ解析して作り置きメニュー提案してくれる。ミールキットや家電との連携などの展開も期待できます。代替肉の領域でも日本は非常に高い技術力を持っているし、GIFMO(ギフモ)のデリソフターは摂食・嚥下障害のある高齢者などに、見た目はそのままに食材をやわらかくすることができる調理器具で、『売りよし、買いよし、世間よし』 の『三方よし』を地で行くアイテムです」日本にも「フードテック」の萌芽はある。だが、現時点で海外に後れを取ってしまっているのが現実だ。「日本のフードテックのポテンシャルは非常に高い。世界を見ても、日本の食産業ほど信頼されている事業体は珍しい。そこには日本人の特質である、マジメさや質を追求する気質が間違いなく反映されていますが、他方でそれが仇となっている面もあります」

アイデアや理念を前進させるために必要な能力とは

「日本人は質を追求するがあまり、袋小路に入って出てこられなくなる側面もある。でもこれほどの食文化がある国の、善良でクオリティを大切にする人々が創造するものはもっと世界に知られるべきです」 ではそのためには何が必要か。日本のフードテックを前進させるのに求められる力をひもといてもらった。
①プロジェクトマネジメント力
「事業企画力や交渉力・調整力を備え、複数の企業やサービス、ポジションに目を配りながら、物事を前に進める推進力が必要です。フードテックは単独ではサービスが実現しない領域。ステークホルダーの利害関係を整理して、継続的にビジネスとして回す力が必要です」
②生活者へのリーチ力
「サービスやプロダクトを使ってくれる生活者となる人々に、直接訴えかけられる力が大切です。また、生き方が多様化するなか、どんなライフスタイルがあるのかを捉える力も欠かせません」
③生活者を「人」 として捉える力
「想定顧客を『消費者・ コンシューマー』とサプライヤー目線で見るのではなく、『人』としてどう受け止めるか。提供するものは、自分がユーザーだったらどう感じるのか、人の気持ちを自分のことのように捉えられるきめ細やかさも大切です」

『フードテック革命』は食産業以外の人からも熱い反応があるという。異業種に伝わるのには理由がある。「単にトレンドを追うのではなく、なぜフードテックが生まれたか。そこには領域にとらわれない自由な発想と、何より 『豊かな未来を創りたい』という熱意がある。その情熱に光を当てたかったんです。同じ思いを持つ人の背中を押しつつ、あとは上司の説得材料に使ってもらえれば(笑)」

text 松浦達也 取材協力/写真 シグマクシス

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする