食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

初心者のためのフードテック入門#2 スクラムベンチャーズ


外村仁
スクラムベンチャーズ パートナー

食品大手と世界のベンチャーをつなぐ、
仕掛け人が抱く日本の食産業への危機感

今年9月末、日本の食関連企業と世界のスタートアップをつなげる”Food Tech Studio- Bites! “を立ち上げたスクラムベンチャーズ。そのパートナーでアメリカ西海岸に拠点を置く外村仁さんに日本の食産業はどう見えているのか。危機感と愛情にあふれる直言を聞いた。

代替肉のシェアが急拡大するアメリカの”食肉”マーケット

「お肉大好き」のはずのアメリカに大転換点が訪れている。その変節が可視化されたのは、2019年のCESで代替肉のImpossible FoodsがCESで”Best of the Best”と評されたことにあったという。「もともとCESは”Consumer Electronics Show”という名前からもわかるように、家電やデジタル技術のハイテク展示会という趣が強かったんです。ところが、2019年1月のCESでImpossibleが話題をさらい、さらにその数か月後にバーガーキングがImpossible Whopper(インポッシブル・ワッパー)を米国全店で発売した。前者にも驚きましたが、私はむしろ後者に衝撃を受けました。都市部の店舗ならわかります。でも全店となるとアイダホやオハイオといった肉が大好きな田舎町も含めて勝算があると考えていることになる。植物性由来の”肉”はそこまで来ているのか、と」 実際、外村さんが店頭で購買層を見たとき「ビーフパティのバーガーよりも約1ドル高いのに若い人が普通にImpossibleを買っていく」光景が印象的だったという。

「エネルギー大国で電気使いまくり、牛肉食べまくり、ゴミ捨てまくりというアメリカが変わろうとしている。サンフランシスコのスーパーでも広大な棚を占拠していた牛肉や豚肉のスペースは半減となり、空いた棚に”Plant Based”と鳥肉がとって代わりました。それもImpossibleやBeyondといった代表的なメーカーだけでなく、スーパーのプライベートブランド(PB)も含めて10種類以上が棚に並んでいるのです」 その光景を外村さんは「20年住んで、まさか棚がこうなるとは思いもしなかった」と振り返った。ちなみに、現在Beyond Meatの時価総額は日本円換算で約1.1兆円。これは国内だと味の素や日清食品など錚々たる老舗に匹敵する額である。

危機感までもガラパゴスな日本企業の体質

翻って日本の状況はどうか。この秋、日本に一時帰国した外村さんが危惧していたのは、畜肉を忌避するトレンドが日本に上陸した気配がないことだった。「2007年、iPhoneにガラケーが駆逐されたときの弛緩した雰囲気に似ています。もともと日本の携帯電話はインフラも含めて、当時の最高峰の技術が凝縮されていました。ところが、iPhoneの端末に込められた『体験』が何なのか、国内メーカーが理解しようとしないうちに、あっという間に抜き去られてしまった。日本の食はクオリティとしても文化としても先行者足りうるはずなのに、同じことが起きないか心配しています」

9月30日、外村さんがパートナーをつとめるスクラムベンチャーズが立ち上げたのが、”Food Tech Studio-Bites! ” だ。同社では、3年前から日本の大企業とスタートアップのオープンイノベーションを 加速させる”Studio”事業に取り組んできた。これまでの”食”にまつわる事業は、外村さんの個人的な活動の延長とも言えたが、今回の”Bites!”は満を持して食にまつわる国内6社をパートナー企業とし、世界のスタートアップと連携するプログラムとしてスタートさせた。

“Food Tech Studio-Bites! “が国内企業の変革を促す

募集は9月30日のリリースとともにスタートしていて11月末までの間、世界のスタートアップから、新技術やアイデアを広く公募。12月の選考後は、年明けから3月までの間の事業開発(事業実装やメンタリング)期間を経て、社会的な事業実装を狙う。主な事業領域は以下の5つ。(ただしこれに限らない)

①Wellness&Health
②Next-gen Foods & Functional Foods
③Supply Chain and Logistics
④At-Home & Consumer-focused Technologies
⑤Sustainability

「現時点では提案のステージは問いません。少しでもかすってると思ったら、ご応募をお願いしたい。パートナー企業は6社からのスタートですが、今季中に数社が追加でプログラムに参加する予定です。とにかく日本の食にアドバンテージが残っているうちに、世界をキャッチアップしなければならない。意思決定の構造やスピードに課題が山積する日本企業は、新しい”ルール”に向き合う必要があるんです」今年、日本でもじわじわとプラントベースフードの潮流は来つつある。コンビニ大手三社が大豆ミートを使った弁当や惣菜を発売し、コメダ珈琲はプラントベース専門店のKOMEADA is という新業態をオープンさせ、ドトールやモスバーガーも大豆ミートを使ったサンドイッチやハンバーガーを発売し始めた。

だが「フードテック=プラントベース」ではない。食の課題は膨大な領域に渡る。成熟しきった日本の食産業にとっては諸外国の事例を研究し、発想を転換し、新たな領域の事業開拓が必要だ。「例えば喫緊の課題としては、国や都道府県が関わるレベルでの研究機関を早急に立ち上げる必要があります。スペインではあのサン・セバスチャンを擁するバスク地方に2009年、”Basque Culinary Center(バスクカリナリーセンター)”という巨大な研究機関が立ち上げられています。世界のシェフが協力する機関で、美食はもちろん、経営学や調理科学なども実践的な形で教えている。そのほかにも欧米では企業のオープンラボという形で、スタートアップやシェフ、農学者や栄養学者と連携して研究を進めているケースが多くあります。学術・研究分野では日本は5年10年遅れている分野もあると思います」

残念ながら「フードテック」において、日本は圧倒的に出遅れている。だがこと “食”となれば日本には莫大な蓄積に基づいたポテンシャルがある。新しい”ルール”に適応し、知らない世界を捕まえ、その先へと突き抜ける。私たちが世界をけん引する未来を引き寄せることができるかは、この国で食に携わる一人ひとりの肩にかかっている。

text 松浦達也

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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