ミシュラン級の豪華チームによる挑戦:リバティ百貨店創業150周年の新キッチン 


創業150周年を迎えるロンドンの老舗デパートが、記念事業としてレストランを刷新。ミシュラン二つ星レストランの厨房を経験した強豪チームが、その小さなキッチンに新しい風を呼び込んでいる。

物価高が進行し、飲食店経営者にとっても、消費者にとっても非常に厳しい時代を迎えているロンドンで、「アイドル・タイムを有効活用する」戦略が業界全体で見直されている。そんななかで元祖マルチ・スペースの理想型として注目を集めているのが、デパート内のレストランだ。

ロンドンで最も愛されるデパートの一つ、リバティ百貨店が今年で創業150周年を迎えるにあたり、新たなチームを迎え入れてこの4月からレストランを刷新した。店名は「Seventy Five at Liberty / セブンティ・ファイブ・アット・リバティ」。1875年の創業にちなんで「75」を冠し、日本でもファンの多いオリジナル生地「リバティ・プリント」をふんだんに取り入れたインテリアで、シックに決めている。

全84席の店内では、ブランチ、ランチ、早めの夕食(デパートに合わせ夜8時閉店)に加えて、英国で欠かせないアフタヌーン・ティーも毎日提供。貸切イベントにも随時対応している。アイドル・タイムとはほぼ無縁のデパート内レストランが、ここリバティでどう進化中なのかをお伝えしよう。

チューダー・リバイバル様式の建物は、ロンドンのアイコン的な存在。
天井の低い、レトロ感あふれる店内インテリア。

厨房チームのクオリティという意味で、このレストランほど期待を膨らませてしまう場所はない。チームのうち3名が、ミシュラン二つ星を維持している東ロンドンの「Da Terra / ダ・テッラ」の厨房を経験しているのだ。

ダ・テッラは本コラムでも紹介させていただいたことのある、ロンドンで最も実力あるレストランの一つ。この世界最高峰の前衛キッチンを経験したチームが、ロンドン中心部でオールデー・ダイニングに挑む。ヘッド・シェフはダ・テッラの副シェフだったJoe Holness / ジョー・ホルネスさん(写真下)である。

ジョーさんはオイスターで有名な海辺の町で生まれ育ち、家庭菜園を大切にする自然豊かな環境で育った。このセブンティ・ファイブでも英国産食材にとことんこだわり、高級デパートに出入りする食にうるさい買い物客のために、一日中飽きのこないメニューを作り上げた。キーとなるのは、スピードとクオリティのバランスだ。

ヘッド・シェフのジョー・ホルネスさん。気配りのきく物腰柔らかなシェフだ。
右はイングランド南西部産のソフト・チーズ「Tunworth」のムースを載せたタルト。下にはキャラメル・オニオンが隠れている。上品で食べ応えのあるカナッペ。
レッド&ゴールデン・ビーツとチャードのサラダ。

リバティは世界中からファッショニスタが集まる歴史あるデパートだ。絶え間なく訪れる舌の肥えたゲストに納得のいく料理をコンスタントに出し続けることがジョーさんの使命だが、キッチンはこれまでとは比べ物にならないほどベーシックなものだ。以前は買い物客にケーキと紅茶、軽食を提供するだけでよかったからなのだが、現在はその制約の中でベストクラスの料理を構築し、かつ、ある程度のスピード提供を維持するファイン・ダイニングに変貌している。

前菜のビーツとチャードのサラダは新鮮なレッドとゴールデンのビーツを丁寧にベイク+キュアし、香りとコク、栄養を閉じ込めたまま固さのあるクレーム・フレッシェで包み込み、ディルとクルミでアクセントをつけた力強くもエレガントな旬菜だ。英国牛のステーキ・タルタルはお見事。口に入れるとふわりと軽くほどけていき、スモーク・エッグと一体化してとろけてしまう。エレガントな盛り付けも目を引く。

ジロール茸のパスタは、ニョッキのような舌触りの自家製カヴァテッリである。風味の良さは言わずもがな。セブンティ・ファイブのキッチンではフォカッチャもパスタも全てミシュラン・キッチンと同様に手作りされる。白身魚を旨味の際立つムール貝ソースでいただく本日の魚料理は、シンプルさと奥深さが夢のように競演している。

ふわりと軽いステーキ・タルタル。筆者的には過去最高の味だった。
ジロール茸のカヴァテッリ。独特の歯触りも楽しい。
本日の魚料理。ふっくらとした魚とムール貝、蒸したポロネギ、ソルティフィンガー、魚介ソース。その調和全てを楽しむ。
右はリッチなブラウン・シュガーのキャラメル風味を堪能するカスタード・タルト、ラズベリー添え。左は試食させてもらったアフタヌーン・ティー・メニューで登場するピスタチオ・シュー。上品さが際立つ。

ヘッド・パティシエのLizzie Ross / リジー・ロスさんも、短期間ながらダ・テッラ経験者だ。味もデザインも絶対的な信頼を寄せることができる彼女が、デザートだけでなくアフタヌーン・ティーのメニューも監修。次回そちらをいただくのがとても楽しみだ。

世界的に有名な百貨店リバティが、ようやくたどり着いた食のドリーム・チーム。歴史ある高級ファッションの館に、肩の力を抜いた極上の英国料理を提供する新時代のオールデー・ダイニングは、かつてなく釣り合っている。買い物も食事も「本物の英国」を探求したいわがままなあなたに、強くおすすめしたい。

Seventy Five at Liberty
https://www.libertylondon.com/uk/experiences/seventy-five-restaurant-at-liberty.html

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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