日清食品と東京大学がつくる「培養肉」。その技術とは?


実用化はすぐそこまで来ている!?
実験室から生まれる培養ステーキ肉の現在地

代替タンパク質として研究が進んでいるのは植物肉だけではない。牛や豚、 鶏、魚などの細胞を培養して作る「培養肉」も、近年存在感を強めている。

日清食品HD×東京大学「培養肉」

日清食品と東大がトップランナー培養肉に厚みを持たせる技術とは

現在、世界各国で研究が進む培養肉。その技術はまだ発展途中で、生産性コストの高さなどの課題もあり、まだ商用には達していない。しかしながら、あと1~2年後には、ミンチ状の培養肉を使ったハンバーガーが普通に買えるようになると予想する専門家もいる。培養肉はもはやSFの世界の話ではないのだ。 日本国内では、日清食品ホールディングスと東京大学大学院情報理工学系研究科および生産技術研究所の竹内昌治教授が共同で進める、培養ステーキ肉の研究が注目を集めている。この丸いシャーレに入った、厚さ8mm、縦横約1㎝の小さな肉塊がそれだ。培養肉に厚みを出す技術は世界を見渡しても異例で、日清と東大はそのトップランナーである。ミンチ肉を培養するのは単に細胞を増やせば良いので比較的簡単と言われるが、ステーキ肉のような肉塊は、細胞同士を融合させて、筋肉に近い立体構造を作る必要がある。この肉塊はどのように培養したのか、竹内教授に教えてもらった。

「まず細胞を入れた細長いコラーゲンゲルを、スリットを設けながら横に並べて培養すると、線維の向きが揃った細胞のシートができます。さらにこのシートを重ねていくと、立体的で厚みのある培養肉になります」竹内教授の専門分野は「バイオハイブリッド」。生体と機械のいいところをミックスさせて新しいシステムを作るという分野だ。培養肉もその一環として10年前から目を付けていたそうだ。「当時僕は色々な場所で培養肉を作りたいとアピールしていたんです。それに唯一賛同してくれたのが日清食品さん。2017年から共同研究がスタートしました」。両者が目指すのはリアルミートの再現。2025年までに、厚さ2㎝、縦横7㎝、およそ100gの肉塊を作る技術を確立することが目標だ。培養肉に大きさと厚みを持たせることができたら、脂肪組織を加えることも課題となってくる。

培養肉は新しい食肉として世の中に受け入れられるのか

実験室で誕生した培養肉を食べるには大学の倫理委員会にかける必要があり、現在はそのための資料を準備中で、竹内教授自身はまだ培養肉を食べたことがないそうだ。食感や味については 「本物ほど強くはないが、肉の風味は感じられるのではないか」と予想する。また培養肉が世の中へ浸透するには、技術向上や規制問題の他に、消費者にストーリーを伝えることが重要と考えている。「例えば大豆ミートは肉らしい味に近づけるために大豆の遺伝子操作をする場合がありますが、培養肉はその必要がありません。地球環境にも優しく、食品ロス問題にも有用です。こういったストーリーを消費者に伝えられれば、手に取ってもらえると思います」。

text 笹木菜々子

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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