なぜ今、【木桶】で酒を醸すのか。新政酒造が追い求める日本酒の本質


「木桶文化を継承するための取組み:自社で木桶工房を作る」

新政酒造は、この現状にも「待った」をかけた。「自社で木桶工房を作り、木桶文化を継承していく」と。この計画はすでに進行中で、新政酒造が無農薬酒米の自社圃場を保有する鵜養地区に工房を建造予定だ。新政酒造は、伝統文化保護企業だと自称する。早々に全量生酛仕込みに切り替えた背景にも、この想いがあった。自社の木桶工房では、新政で使う木桶の生産だけでなく、依頼があれば他蔵からのオーダーも受け付ける予定だ。そんな壮大な木桶工房プロジェクトを任され、木桶職人としての活躍も期待されるのが前出の相馬さんだ。

「ウッドワークさんへ修業に行き、ひとりで 1 本組むところまで必死で技術を学びました。精度とスピードをあげていくために鍛錬を積むことは、料理の世界でもそうでしょうし、醸造の世界でも同じこと。習得した技術の精度をあげていき、いずれ木桶職人の域に達したいと思っています。

新政はトレーサビリティの徹底と地域貢献を目的に 2010 年に全量秋田県産米での酒造りをはじめています。さらに今年は新政の酒米を生産する鵜養地区の無肥料無農薬栽培の酒米圃場が、全域 23ha までに拡大しました。新政酒造が取り組む「オール秋田」の最後のピースが、地元の秋田杉を使った木桶だと思っています。そこを埋めるのが僕の役割。第二の人生は、ここ秋田で頑張ろうと思っています。なんとしてでも実現させます」(相馬さん)

新政が導入済みの 38 本の木桶はウッドワーク製で、原材料に吉野杉を使っている。しかし、自社工房が稼働してからは、寸法安定性に優れると言われる秋田杉を使って木桶を作っていく予定だ。秋田県には、銘木、建具、桶樽、曲げわっぱなど良質な杉を無駄なく使う産業ネットワークが昔から形成されていて、特殊な製材や加工に対応できる技術も根付いている。
また、高樹齢の杉が随時伐期を迎えるため、資源としての供給持続性にも優れている。酒蔵が地元の杉を使った木桶で酒造りをすることは、SDGs の観点でも説得力を持つ。

「吉野杉と秋田杉、どちらの長所短所も知って、それらを個性と捉えて酒を醸していきたいと思っています。新政は、なぜ秋田杉の木桶なのか。それは、例えば秋田県産の美郷錦で醸した酒が、酒米の最高峰と言われる兵庫県産特 A 山田錦で醸した酒を超えることができる、という考え方と同じ。木桶でも吉野杉に負けない秋田杉の個性を醸造に反映し、唯一無二の味に到達できればと思っています」(相馬さん)

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