素材にこだわるイタリア料理店Part4 中目黒「ピッツェリア エ トラットリア ダ イーサ」


師匠の言葉で気づいた〝作りたい店〟できたてピッツァの感動を日本で

 東京・中目黒の有名店「ダイーサ」。実は、この店を始める前、山本尚徳さんはまったく違う店の準備をしていたという。2007年と2008年に世界ピッツァ選手権で連続優勝。その翌年も入賞という史上初の快挙を成し遂げ、当時メディアの取材が殺到。その名が知れ渡るにつれ、出資や引き合いも多数持ちかけられたという。独立の話が進む中、師匠であるエルネスト・カッチャリさんが倒れたとの知らせを受ける。ナポリからの国際電話で届いた師匠の言葉で我に返った。

「何のためにナポリへ渡り、何に感銘を受けたのかを忘れないように」

 それまで進めていた高級路線での出資を断り、ナポリスタイルの大衆的なピッツェリアという道を選んだ。イメージしたのは、大きな通り沿いにあり、どの席からも薪窯が見える店。場所は、日本で最初にピッツァのブームが起こった中目黒を選んだ。元畳店だった物件は、間口が広く、外からでも店内が見える。

「ピッツァが焼かれる様子が目の前で見られるライブ感を重視しました。熱くて嫌がる人もいるんですが、できたてすぐのピッツァが味わえる窯のそばのテーブルは一番の特等席。それはナポリでも同じなんですよ」

マルゲリータ
チーズはイタリア産フィオーレ・ディ・ラッテ、軽さと香りを追求した生地には、サッコ・ロッソ、レ・チンクエ・スタジオーニ、サンフェリーチェのいずれかを、その時々で見極めて単一使用。

ナポリの名店での修業を経て世界が認める実力を発揮

 ナポリピッツァとの出合いは年以上前に遡る。当時、すでにイタリア料理店で働いていた山本さんは、イタリア各地の食文化にふれる旅の最後に立ち寄ったナポリで「ディ・マッテオ」のピッツァと出合う。「窯から次々とピッツァが飛び出し、火傷しそうなほど熱いままテーブルに届く。大きくて安くておいしい。あまりにも感動して『ここで働きたい』と思いました」

 その後、知人を介してオーナーとコンタクトを取り、店で働かせてほしいと申し出た。ナポリから連絡があったのはその半年後。「マッテオ」でピッツァを焼いていた故エルネスト・カッチャリさんが独立して開いた店「イルピッツァイオーロデルプレジデンテ」で、同氏から本格的な指導を受けた。その技術と精神を受け継ぎ帰国したのが2006年。その後の快進撃は前述のとおりだ。

2010年にオープンした「ダ イーサ」では、山本さん自ら薪窯に立ちピッツァを焼く。平日でも絶え間なく客が訪れ、夜は予約でほぼ満席。それでも「この店は自分がやりたいことの途中段階」と山本さん。「ピッツァといえば中目黒というイメージに助けられた部分もある。次はピッツェリアがあまりない場所でひっそりと、でも中はつねににぎやか。そんな店を作りたいですね」

 日本人にとってのピッツァ、そしてピッツェリアへの認識もまだまだ自身の理想には届かないようだ。「ラーメンなら一人一杯が当たり前なのに、ピッツァはシェアして食べるものという感覚がある。いつか日本でもピッツァをシェアしない文化が定着したらと思います。そして前菜やパスタよりも先に、まずはピッツァを食べてほしい。注文を受けてから90秒で熱いピッツァが出せる。それが専門店の強みだと思うので」

こだわりの道具
店内のどこからも目に入る大きな薪窯は、開店当時はまだ珍しかったナポリの窯職人ステファノ・フェッラーラ氏によるもの。「親方が好んで使っていたのと同じ窯をここにも作って欲しい」とオーダーしたところ、「それほどの大きな窯をこんな小さな店に置くなんて本気か?」と、驚かれたそう。現在、日に500~600枚以上のピッツァが焼かれるほか、火を通すほとんどの料理にこの窯が使われている。

山本尚徳さん Hisanori Yamamoto
時には常連客が持ち込んだ食材を使ってピッツァを焼くこともあるという山本さん。世界一、そして店唯一のピッツァイオーロとして、その存在はつねに活気の中心にある。

ピッツェリア エ トラットリア ダ イーサ
Pizzeria e rtattoria da ISA

東京都目黒区青葉台1-28-9
03-5768-3739
● 11:30~14:00 17:30~22:30(21:45 LO)
● 月休(祝日の場合は翌平日) HPで確認
● 34席
www.da-isa.jp


田中英代=取材、文 小寺 恵=撮影

本記事は雑誌料理王国第262号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第262号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。
昨日作った料理は、過去のレシピ今、自分が感じる料理を作り続けたい


SNSでフォローする