もっと英国産スパークリング・ワインを! ブリティッシュ・エアウェイズの新戦略


今年、日本線就航から75周年を迎えた英国のフラッグ・キャリア、ブリティッシュ・エアウェイズでは、プレミアム戦略の一環でワイン・サービスに投資。世界に400人しかいないマスター・オブ・ワインの一人を迎え、英国産の高級スパークリング・ワインの魅力を伝えようとしている。

英国産のスパークリング・ワインが世界的に一目置かれる存在となって久しい。しかも今年は、英国ワインは近年まれに見る当たり年なのだそうだ。冬の霜が少なく、晴天続きの暖かい春の気候が豊作につながったという。「記録的な収穫量で品質も素晴らしい」と報告する生産者が多く、そのクオリティに大いなる期待が集まっている。

それにしても近年の英国ワイン業界の躍進はすさまじい。業界レポートによると、生産量はこの5年で130%増加。その土壌が特にスパークリング・ワインの生産に適していることから、2022年に生産されたワインのうち約七割がスパークリングだったそうだ。

主なブドウ品種はシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ。主要産地であるイングランド南部の冷涼な気候と白亜質の土壌がフランスのシャンパーニュ地方に似ているため、伝統的なシャンパーニュ製法で作られている。エレガントで爽やかなスパークリング・ワインを生産するのに理想的な条件が揃っているだけでなく、近年の温暖化でブドウの糖度が上がり、アルコール度数も高めになるなど恩恵を受けている。

英国産スパークリング・ワインを試飲するイベントが、この10月にイングランド南部サセックスにあるWiston Estate / ウィストン・エステートで開催された。英国のフラッグ・キャリアであるブリティッシュ・エアウェイズ(以下BA)のビジネスクラス以上の上位キャビンで本格的に高品質の英国産スパークリング・ワインが取り扱われるようになり、ウィストンがその試飲会場となったのだ。

ウィストン・エステートとその周辺地域。この風土が良いワインを育む。

BAの新戦略は今年3月から始まった。世界にたった400名しかいないマスター・オブ・ワイン(MW)の一人をBAワイン部門のアドバイザーに任命し、世界中のデスティネーションごとにふさわしいワインを選んでいくことにしたのだ。その重要任務を負っているMWは、ティム・ジャクソン氏。四半期ごとに斬新なワインリストを作っていく。

ジャクソン氏のセレクトで今年春、初めてプレミアム・キャビンに加わったのはディグビー・ファイン・イングリッシュ・ブリュット NV。夏には赤ブドウのみから作られたハッシュ・ヒース・エステートのバルフォア・ロゼ・ド・ノワールが登場。現在はシンプソンズ・チョークランズ・キュヴェ・ブリュット NVが搭載されている。チョークランズ(白亜土壌)と言うだけあり、青リンゴの香りの中にミネラル感が漂い、淡いゴールドが英国らしいエレガンスを象徴。

そして2024 年 1 月からは、ウィストン・エステート・ブリュット NV が登場予定。こちらはシトラスの香りと土壌のまろやかさを感じる風味が特徴。年の始めにふさわしい爽やかさが際立つテイストであると言えるだろう。

このウィストン・エステートでのイベントでは、ティム・ジャクソンMWが地上とは全く異なる機上環境で美味しくいただけるワインを選ぶ際に、必要となる基準について話してくれた。

ワイン業界の最高峰資格であるマスター・オブ・ワインの称号を持つティム・ジャクソン氏。昨年末にBAワイン・アドバイザーに就任。
ティム・ジャクソンMWがセレクトしたBA搭載の英国産スパークリング・ワインのテイスティング。冒頭写真はイベントにアテンドしたBAのスタッフたち。

「あらゆる飲み物や食べ物を楽しむ上で最も重要な感覚は、嗅覚です。しかし機内では嗅覚が抑制され、香りや味に対する感度が低くなってしまうので、口に入れるものは風味が強いものでなくてはなりません。ワインも同様です。私の場合は、地上で試飲する際によりフルーティーで、ふくよかな香りを持つワインを選ぶようにしています」

香りだけでなく、バランスも重要だとジャクソン氏。ご自身がよく知っていて、地上で飲むと美味しいと思うワインでも選ばないことが多いと言う。「風味を強く感じられなくなる環境では、味のバランス・シートも見直す必要があります。例えばアルコール類では、アルコール(特に蒸留酒)、白ワインの酸味、赤ワインのタンニンなどの要素がバランス・シートからはみ出して、楽しめなくなることがわかっています。赤ワインのタンニンには特に気をつけていますね。

上位キャビンのワインリストに、オレゴン州のクラウドラインや、カリフォルニア北海岸のブエナ・ビスタなどのピノ・ノワールが常に含まれているのも、以上の理由によります。十分な風味の強さ、しっかりとした果実の土台があり、比較的繊細でしなやかなタンニンを持っているため、機内でも美味しくいただけるのです」

ウィストン・エステート・ブリュット NV 。©Matthew J Thomas

マスター・オブ・ワインの説明には説得力があった。例えば来年1月から搭載されるウィストン・エステート・ブリュット NVは、確かにしなやかでありながら、どっしり感のあるボディが特徴的だ。口に含んだときの爽やかさにうっとりするが、やがてフルーツと土壌の強い風味を感じられるようになる。機内でいただくとまた、別の印象を持つに違いない。

BAは今年、日本線就航から75周年という節目の年を迎え、ティム・ジャクソンMWが来日して英国産スパークリング・ワインと共に祝った。BAではさらに制服も一新され、9月から日本線ファースト・クラスが復活。10月より日本線へ新しいビジネスクラスが導入されるなど、この英国産スパークリング・ワインを試すチャンスがますます増えている。

英国に住む者にとって日本線が充実するのは本当にありがたく、祝福すべきことだ。さっそく、英国産スパークリング・ワインでお祝いをしなければ。

協力:
British Airways
https://www.britishairways.com
英国政府観光庁
https://www.visitbritain.com

text:江國まゆ Mayu Ekuni

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