華麗なる三つ星シェフ、ヤニック・アレノ「パヴィヨン」がロンドン初降臨!


フランスの名高い三つ星シェフ、ヤレック・アレノ氏が、この7月にロンドンのフォーシーズンズ・ホテル内に満を持して「Pavyllon London」をオープン! モダンフレンチの本流が、英国の風土と融合した。さてその形とは?

フランス国内で唯一、ミシュラン三つ星レストランを2軒同時成功させているモダンフレンチの巨匠、ヤニック・アレノ / Yannick Allénoさん(冒頭写真右)がロンドンのホテル・シーンに初お目見えし、話題をさらっている。

シェフ・アレノと言えば、現在保持しているミシュラン・スターの多さでも有名だ。世界各地14軒のレストランで、15個の星を持つ世界的シェフ。その彼がロンドンに進出するにあたってパートナーシップを結んだのは、メイフェア地区の5つ星ホテル、フォーシーズンズである。自身のブランド「Pavyllon / パヴィヨン」で、7月1日にオープンした。

ヤニックさんは15歳でキャリアをスタートさせて以来ずっと、伝統の世界で自らのやりたいことを貫いてきた。フランス国内の偉大なシェフたちを師と仰ぎ、自らの才能を磨いて2000年に初のミシュラン・スターを獲得。以来ノンストップで疾走し、パリの伝統ある最高級ホテル「ムーリス」を三つ星へと導いたことをきっかけにフランス料理界における最高峰シェフとして認知されるようになった。

パヴィヨンの「見せるカウンター」。個人的にはカウンター席が一番おすすめ。
エレガントなダイニング・ルーム。コンセプトは英仏の融合。

その後の活躍は伝説だ。多大なる貢献をしたホテルを辞し、2014 年夏にシャンゼリゼの老舗レストラン「パヴィヨン・ルドワイヤン」を引き継いで「Alleno Paris」を打ち立て、オープンからわずか7か月でミシュラン三つ星を獲得。さらにフランスのスキーリゾートにあるホテル・レストラン「Le 1947」へも三つ星をもたらし、世界各地の厨房から請われるスーパーシェフになった。

探究心が旺盛な彼は伝統を守りつつも、掘り起こし、探検し、革新を起こしてきた。その功績の一つが、フランス料理の真髄であるソースに新たな光を当てたことだ。食材が持つ最高のフレーバーを引き出すための調理温度を独自のやり方で探求し、エッセンスを抽出することに成功。その技法を「エクストラクション」と名付けた。そのエキスが、フランス料理のマザーソースに新たな可能性をもたらしたのだ。そんなヤニックさんは、長らくロンドン進出のアイディアを温めていたそうだ。

オープン前、実は彼の右腕でもあるグループのシェフ・ド・キュイジーヌ、廻神大地さん(めぐりかみ・たいち/冒頭写真中央)に大変お世話になった。パリ在住の廻神さんはグループが各地にレストランをオープンするたびに指導のため訪れ、厨房をまとめる役割も担っている。今回も監修のために頻繁にロンドンを訪れておられた頃、私は有難いご縁をいただき、また完成していないレストランを見学させていただくなどの光栄を得ることができた。7月のオープンに際しては、そんなわけでいち早くお邪魔させていただいた。

野菜料理にことさら力を入れているパヴィヨンの中東風マヌーシュはほのかなスパイスが香るパリパリ仕上げ。黒ニンニクと生姜のジュレ。
ヤニックさんのシグニチャーでもあるベイビー・ビーツのカカオ・ヴィネグレット。ビーツの甘さ、完璧な歯ごたえ、まろやかなカカオ風味。
絶対にまたいただきたいカラリと揚がったランゴスティン・テイル。カレー風味マヨ。絶品。
カラフルなブールブランに浮かぶのは小粒のマス卵。アレノ風牡蠣フライだ。

その日はシアター感を目一杯楽しめるカウンター席に陣取った。ヤニックさん、廻神さん、そしてパヴィヨン・ロンドンのヘッドシェフを務めるベンジャミンさん(冒頭写真左)の3名が揃い踏みしていた。ソムリエを含めほぼフランス人チームで固められた厨房で、エグゼクティブ・シェフとして「英国らしさ」をまとめるのがイギリス人のアンディ・クックさんだ。食材はもちろん、ほぼ英国産。

「野菜は正直フランスのものには及ばないけれどね」と、カウンター越しにベンジャミンさんがそっと教えてくれる。「英国産の肉は、なかなかいいね。 湖水地方の農家と契約してるんだけど、素晴らしいよ」。

この日はランチ限定セットやテイスティング・メニューから、コース料理のエッセンスを味見させていただいた。それら宝石のごとき皿の数々を、どう表現すればいいのだろうか。どの品をいただいても、透徹したピュアなフレーバーと大胆なハーモニーに、あっと驚く。目を閉じてじっくり味わっていると、一つひとつの食材がこう語りかけてくるようだ。「最高の状態で食べてもらえて本当に幸せです」と。確かな調理技術で風味を際立たせることで、意識的に砂糖や塩、油脂の量を減らしたアレノ・フレンチは、まさに未来志向のキュイジーヌだと言えるのではないか。

素晴らしくジューシーで美味しかった鶏肉のロースト、ジロール茸を添えて。エクストラクションのソースが香り高い。
これまで食べた中でも最高峰のラム・チョップ。柔らかく濃厚で優しい。パワフルな紫蘇のクーリとアンチョビ・ピュレを添えて。
カルダモンが香るキュートなチョコレート・クローバー。コーヒー・アイスクリームと一緒にいただく素晴らしいハーモニーのデザート。

パヴィヨン・ロンドンは、非常に洗練されたレストランだ。アラカルト・メニューの価格をみれば、ここが世界最高峰の三つ星シェフのレストランだと容易に理解できる。ただしランチタイムのセット・メニューや、一部テイスティング・メニューは現在のロンドンの物価からすると比較的リーズナブルだと言わざるを得ない。

プレゼンテーションも四角四面の高級フレンチではなく、ややリラックスしたビストロ風。しかしお味の方はもちろんシェフ・アレノのお墨付き。エレガンスが本領のモダンフレンチが、気取らない英国らしさを取り入れたら? その答えが、もしかするとこのパヴィヨン・ロンドンなのかもしれない。

ちなみに、パヴィヨン自慢の蒸しスフレは2種類を用意している。一つはフランス産コンテを、一つは英国産チェダーを使ったもの。両者ともに特徴があり、それぞれに優れている。料理とはそんなものだ。

こちらは併設の「Bar Antoine」のメニュー「Lynn 5 Pieces」。廻神シェフが自ら握ってくださった。なんとご飯はバターライス。マグロ、和牛、サーモン、ランゴスティン、アボカドなどフレーバー天国で開発秘話も聞かせていただいた。バーメニューにはレストランにはないカジュアルで惹かれるものがたくさんある。

Pavyllon London
https://www.pavyllonlondon.com

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

関連記事


SNSでフォローする