World news Paris : ヤニック・アレノ氏が引き継ぐ、キャビアの老舗「プルニエ」のレストラン

フランスを代表するキャビアの老舗店「プルニエ」が、ヴィクトル・ユゴー通りに展開する「プルニエ」のレストラン。新たにスターシェフのヤニック・アレノ氏が監修することになり、注目を集めている。

食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュースをお届けする本連載。フランスを代表するキャビアの老舗店「プルニエ」が、ヴィクトル・ユゴー通りに展開する「プルニエ」のレストラン。新たにスターシェフのヤニック・アレノ氏が監修することになり、注目を集めている。

フランスを代表するキャビアの老舗店はいくつかあるが、「プルニエ」はその一二を争う名店だ。その歴史は1872年に遡るが、1921年にはすでに、フランスのジロンド川周辺でロシアの生産方式に習い、フランス産キャビアの生産に挑むなど、画期的な改革をいくつも行ってきたことでも知られる。

今回の舞台となるのは、1924年に美しいアール・デコの内装でパリ16区のヴィクトル・ユゴー通りに、「プルニエ」の2代目であるエミール・プルニエがオープンさせたレストラン。エミール・プルニエは、自身で作ったキャビアをこの店で惜しみなく出すことができた。古き良き時代の伝説は今も語り継がれている。

アール・デコの内装を生かしてリニューアルを施された高級感あふれる「プルニエ」の店内 © Nicolas Lobbestae
アール・デコの内装を生かしてリニューアルを施された高級感あふれる「プルニエ」の店内
© Nicolas Lobbestae

伝説的な出来事がある。それは、イヴ・サンローランのパートナーであったピエール・ベルジェが、キャビアの歴史を支えてきた「プルニエ」の伝統を守るべく、1996年から、モードとアートを結びつけるような共同事業を展開したこと。2000年には、「プルニエ」を傘下に収め、このヴィクトル・ユゴー通りにあるレストランを買い上げている。その当時、インテリアはジャック・グランジュにリニューアルさせた。100%自家製のキャビアを出すための、ドルドーニュ地方にある養魚場への投資にも余念がなかったことでも知られる。

こうした歴史を背景にして、今年は「プルニエ」創業150年を迎え、さらに大きなステージに立った。それは、「プルニエ」の株式の過半数を投資会社であるオルマ・ラグジュアリー・ホールディングスが獲得したこと。ミッションをフランスにおけるキャビアの芸術を世界へと知らしめるということだ。

その象徴としての事業が、歴史的建造物にも指定されているヴィクトル・ユゴー通りの「プルニエ」を改修して、その伝統と歴史を継承しつつ、新しいメニューを提供するということ。その監修シェフに、フランスの3つ星シェフとして世界に名を轟かせるヤニック・アレノに白羽の矢を立てたのだった。

「プルニエ」を新しく監修するヤニック・アレノ氏 ©Nicolas Lobbestae
「プルニエ」を新しく監修するヤニック・アレノ氏
©Nicolas Lobbestae

ヤニック・アレノはパラス・ホテル「ムーリス」の総料理長だったころから、フランスのテロワールに注目し、料理の遺産を守るという活動を一貫して行ってきた人物でもあり、今回の登用にはうってつけだったと言える。

また1つ。同時に興味深いのは、オルマ・ラグジュアリー・ホールディングス社の中に、ステファン・ペトロシアンの名があること。

フランスのキャビアに詳しい方であれば、ピンと来るかと思うのだが、競合であるキャヴィアの老舗「ペトロシアン」の創業者の1人である人物の孫だ。ステファン・ペトロシアンは、国際的なM&Aを専門とするビジネス弁護士として活躍する人物でもあり、今後のキャビアの世界に貢献していくことは間違いないであろう。

「プルニエ」マストハブの一品「ゼラニウム風味のラングスティーヌ、キャビアのクリーム仕立て」 © Nicolas Lobbestae
「プルニエ」マストハブの一品「ゼラニウム風味のラングスティーヌ、キャビアのクリーム仕立て」
© Nicolas Lobbestae

料理は創業者であるアルフレッド・プルニエ、その息子エミール・プルニエに敬意を払いつつ、ピエール・ベルジェによる食の芸術を引き継いだ料理をも継承しており、料理を通して今と昔を堪能できる内容であるのが魅力的だ。

例えばメニューに残る「クリスチャン・ディオールの卵」には、こんな逸話がある。クリスチャン・ディオールは卵料理が好きだ。ピエール・ベルジェは親しい友人で、週末、ノルマンディの海沿いの町ドーヴィルにあるベルジェの別荘で過ごした。ディオールは、そこで、半熟卵にヴォライユのだし汁をゼリー状にしたものを乗せたレシピを提案したということ。これにベルジェはキャビアを30g乗せて、繊細な塩味を加えたということだ。

伝統のレシピを踏襲した「クリスチャン・ディオールの卵」。 © Nicolas Lobbestae
伝統のレシピを踏襲した「クリスチャン・ディオールの卵」。
© Nicolas Lobbestae

「ゼラニウム風味の生のラングスティーヌとキャビアのクリームソース」、「トマトウォーター風味の芋セロリのジュレとキャビア」、「アーティチョークのアイスクリーム、クネル状に添えたキャビア」など、画竜点睛のごとく、キャビアを添えるレシピはさすがである。

また、オマールのボロネーズ風リンギーネやビーフストロガノフなど、フランスとロシア双方の料理があるのも発見だ。

創業150年を迎えて、どんな未来を描くキャビアハウスとなるのか。料理から未来を眺めたい。

text:伊藤 文

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