World news Paris : フランスのクラフト・ビールブームを支える「GALLIA」

パンタンのバーでは、ビールがドラフトでサーブされる

食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュースをお届けする本連載。フランスでは昨今、ドラフト・ビールのブームが巻き起こっている。それを支えるビールブランド「GALLIA(ガリア)」の人気の秘訣を探るため、パリ郊外のパンタン醸造所を訪れた。

ワインの国フランスにもクラフト・ビールブームが起きている。19世紀末にはビール製造所が3,500もあったというが第二次世界大戦後に激減。1985年には25カ所という危機的な数字をあげている。ところが2021年には2,000にも急増し、そのうち90%がクラフト・ビールを造るマイクロブルワリーとのこと。
そんなブームを下支えしているブランドが「GALLIA」(ガリア)だろう。その歴史は19世紀末に遡り、大量生産型の製造会社として知られていたが、1968年に廃業。ところが、2010年にギョーム・ロワ氏とジャック・フェルテ氏という2人の若い企業家が、「GALLIA」の元オーナーと出会い、引き継ぐことを決め、ブランドを蘇らせることに。はじめは海外や地方で製造していたが、2015年に醸造所をパリ郊外のパンタンに移転。腕利きの醸造家が加わり、クラフト・ビールならではの実験的なビールを次々に発表して、ブランドの名が若い世代に一気に広がっていく。

棚にずらっと並ぶ「GALLIA」のビール

まずは、地元のホップの生産者協会も巻き込んで作るビールの味わいに注目すべきだろう。ホップを乾燥させたり、焙煎したり、様々な種類のホップをブレンドしたり、量や投入するタイミングなどで、異なる味わいを生み出している。
ホップを操ることで生まれる味わいのレシピは序の口。フレンチタッチと呼ぶべき、さまざまな味わいを生み出しているのが特徴的だ。例えば、素材を漬け込んだり、果汁を加えたり。

「Sanguine/サンギーヌ(ブラッド)」は、ブラッドオレンジの果汁を加え、フレッシュな金柑を漬け込んだもの。「Je sais Panacher/ジュ・セ・パナシェ(私はパナシェできる)」は、パナシェというレモネードを割ったビールのカクテルを彷彿とさせるレシピで、ライムの果汁を入れ、フレッシュに仕上げたラガー。「Nouveau Western/ヌーヴォー・ウェスタン(ニュー・ウェスタン)」はシトラス、フレッシュハーブ、松の葉の香り。また「EAST IPA」は、マルトにからす麦も投入して、ヴィロードのようなテクスチャーにこだわった。香りという香りは次々に試して、なんと5年で200ものレシピを生み出した。

そして最近アラン・デュカス・グループとのコラボレーションも決まり、3種のビールを造る予定だそう。カカオ豆、コーヒー豆の香り、そしてもう1種の味はまだ決まっていないというから、乞うご期待だ。

パリ郊外、パンタンの醸造所風景。
パリ郊外、パンタンの醸造所風景。

そしてなんとオランダの「ハイネケン」が食指をのばし、昨年、株の100%を取得したのはビックニュースとなった。ビール大手の企業とスタートアップ企業とのコラボレーションは、クラフト・ビール業界に衝撃を持って迎え入れられたが、2人の若き企業家は、国内だけでなく国際的な認知度・マーケットの広がりと、クリエーションの挑戦に資金を投入できることを期待している。

「Vière(ヴィエール)」という「Vin」と「Bière」のハイブリッドドリンクは、ユニークなクリエーションの一つだろう。除梗と圧搾を行ったブドウを発酵させたところに製造中のビールを投入。それをさらに発酵させることで、ワインの深みとビールの苦味が見事に融合したエレガントな味わいに。2019年、初めてメルロー種で作ったレッドカラーのヴィエールを誕生させ、現在はガメイ種、シルヴァネ種、ピノ・ノワール種などとのハイブリッドが次々に生まれている。ビールの常識を覆し、フランスらしいタッチを加えた「GALLIA」ならではのクリエーションと言っていい。ちなみにこうした商品は限定発売なので、オンラインでの購入か、パンタンのバーのみで味わえる。パンタンのバーでは、ありとあらゆるビールをドラフトでサービスしてくれるという楽しみがあり、また4杯の試飲付きの製造所見学も提案している。新しいビールの見地を発見させてくれる秘密基地のようだ。

パンタンの醸造所にあるバーの外観
パンタンの醸造所にあるバーの外観
パンタンのバーでは、ビールがドラフトでサーブされる
パンタンのバーでは、ビールがドラフトでサーブされる

text:伊藤 文

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