World News Paris:フランスの日本酒蔵「WAKAZE」、パリ5区にカウンターバーをオープン


食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュース。今回は、フランスの日本酒マーケットでのシェアナンバーワンに成長した「WAKAZE」がパリで新たに開いたカウンターバーを訪れて、100%フランス産のSAKE舌鼓

2016年創業、山形県鶴岡市に本社を置く「WAKAZE」。世界を標的に挑戦する日本酒醸造のスタートアップ企業として名を挙げ、今や、その道の人々で知らない人はいないであろう。フランス・パリの進出は2019年だが、今や、仏日本酒マーケットでのシェアはナンバーワンという。

創業者は稲川琢磨。慶應大学理工学部在学中にパリに留学したことが、日本のものづくりを世界へ伝えるということを使命として掲げることのきっかけとなり、さらに、日本酒との出会いが、その思いの柱となった。
さらに、実家が群馬・聖酒造であり、東京大学農学部を卒業した杜氏、今井翔也との出会いで、「WAKAZE」は急成長をした。

東京三軒茶屋に酒蔵と併設のバルをオープンするという挑戦を仕掛けたのは2018年だったが、フランス上陸を見据えた第一歩でもあった。2019年にはパリ郊外に醸造所を構え、カマルグ米、フランスの白ワイン酵母、フランスの水で仕込んだ、100%フランス産のSAKEを生産することに漕ぎ着けたのである。

「WAKAZE」がパリで新たに開いたカウンターバー
「WAKAZE」がパリで新たに開いたカウンターバー

東京三軒茶屋のレストランは、醸造所併設ということもあり、ガラス張りの向こうに設置された仕込みタンクをカウンターで眺めながら味わえるという魅力があるが、一方、パリでの魅力は、何と言っても、その佇まいだろう。U字型のカウンター席のみの15席。手前にはドラフトビールをサービスするのと同様のサーバーが取り付けられている。パリの某ワインバーからインスピレーションを得て、生ビールのための炭酸ガスではなく、窒素ガスを充填するだけで、生酒をサービスすることを可能にした。
サーバーでサービスされるドラフト酒というスタイルは、日本でも珍しいのは当然、フランスでは初の試みで、まさに「日本酒の民主化」を成功させた瞬間になったと言ってもいい。

日本酒を注ぐためにビールサーバーには窒素ガスをつめている
日本酒を注ぐためにビールサーバーには窒素ガスをつめている
World News Paris:フランスの日本酒蔵「WAKAZE」、パリ5区にカウンターバーをオープン
外観

現在、生でサービスしているのは4種である。
白ワインのような涼やかさのある、シグネチャー「THE CLASSIC」と、スパイシーさが特徴的な、ブルゴーニュ地方のドメーヌ「ジャック・プリウール」のピノ・ノワール品種の樽で熟成させた「THE BARREL」。さらには、スペインとの国境に近い南仏産の柚子の皮を浸けて作った「YUZU SAKE」、シーズンものの酒、初摘みのイチゴを潰して加えた「ICHIGO SAKE」といった、今までにない味わいばかり。カマルグ米はほぼ磨かず92%残しているのにも関わらず、共通して透明感のある味わいなのには驚く。スパークリング酒も登場する予定だ。

料理も醸造所があるからこその副産物を使用した料理で、日本の発酵文化を伝えるという裏テーマもある。例えば、豆腐の塩麹マリネや醤油麹角煮と煮卵、酒粕ベジカレー、塩麹唐揚げなど。生酒はワングラス6ユーロ、一品5ユーロからというリーズナブルな価格だが、限定15席の予約制としているのも、量よりも質を大切にし、体験としての空間を味わった人々を通したコミュニティを作りたいからと稲川さん。
アメリカやヨーロッパにも輸出が始まっているが、今後の目標は、仏マーケットシェアナンバーワンからヨーロッパナンバーワンにすること。近々には、パリ近郊に2つめのステーションをオープン予定であり、「和風」旋風はとどまるところを知らない。
クラフトビールやジンの世界に熱いまなざしが集まっていることを追い風に、クラフト日本酒のスタイルに魅了される時代が始まっている。

text:伊藤 文

関連記事


SNSでフォローする