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創業大正11年。「東京會舘」に伝わる秘伝のソースを公開!


ソースは、フランス料理そのものとも言うべき存在。フランス料理の核とも呼べる技術、伝統、哲学が備わっている。さらに時代とともにさまざまな解釈もされてきた。今回はあらためてソースに着目し、その奥深い世界、揺るぎない世界を 紹介する。

ワインを呼ぶクラシック
東京會舘 レストラン プルニエ

東京會舘 レストラン プルニエ 松本浩之

1969年山形県出身。「ステラマリス」などで修業の後、渡仏。ミシュラン三つ星「ラ・コート・ドール」などで経験を重ねる。帰国後、銀座「レザンジュ」、乃木坂「レストラン・フウ」のシェフとして活躍。2019年1月より現職。

あらためて、ソースってなんだろう? と思って。久しぶりに初代調理長の田中徳三郎の著書を前に、スタッフと議論しました! 


舌平目の洋酒蒸しボンファム

たっぷりのバターが加わる凝縮感と豊かな風味
「舌平目のボンファム」として、東京會舘の長い歴史の中で親しまれてきた料理。ふっくらと蒸した舌平目に、ソースをなみなみとかけて焼き色をつける。このしっかりとした焼き色が食欲をそそる。

伝統的な「舌平目のボンファム」では、白ワイン、マッシュルームやエシャロットとともに舌平 目を煮て、煮汁をソースにする。ここでは舌平目はより的確に火を入れるため別に蒸し、代わりに鍋に魚のだしを入れて煮詰める。
上写真のベースに、小麦粉とバターで作る「ルー」をプラス。ここまでが仕込み。オーダーが入ったらたっぷりのバターを加えてよく混ぜ、なめらかに乳化させる。惜しみなくバターを加えるのがポイント。
乳化を終えたソース。マッシュルーム、エシャロット、魚のだし、白ワイン、小麦粉、バターが一体化したところに、さらにたっぷりのバターを加えて抱き込ませた。乳化が成功すると写真のようになめらか、つややかに輝く。

フランス料理はうま味の料理、時間の料理その象徴として、伝統的なソースを継ぐ

「東京會舘の厨房には、伝統的な仕事が多く残っています。ソースに関しても然り。しかしそうした一見“古い”技術の中に、多くの発見があるのです」と、同舘内「レストラン プルニエ」の松本浩之シェフは話す。1922年に創業した「東京會舘」は、2019年1月に大々的にリニューアルした。松本シェフはこのタイミングでレストラン プルニエのシェフに就任している 。東京會舘といえば創業当初からフランス料理で知られており、特に今回紹介した「舌平目の洋酒蒸 ボンファム」は、その代名詞とも言える一品である。

現在、松本シェフが作るボンファムのソースは、マッシュルームや白ワインなどとともに魚のだしを煮詰め、小麦粉とバターで作るルーを混ぜ合わせたものがベース。これに、煮詰めた白ポルトやたっぷりのバターを加えて仕立てる。

「ボンファム」は、まさにソースが決め手の料理だ。松本シェフも、このソースに関しては引き継がれてきたレシピをほぼ踏襲する。「ボンファムのソースには、バターがたっぷりと入っています。その点は、時代に逆行しているかもしれません。でも非常になめらかで食べやすく、そして何より、文句なしに “おいしい!”と思える豊かな風味を持っているのです」。こうした力強いおいしさのあるソースは、伝統的な作り方から生まれる。
たとえば、マッシュルームやエシャロットのスライスを、魚のだし(フュメ・ド・ポワソン)と白ワインでしっかりと煮出しながら煮詰める工程がある。だしとワインの中に、具材のエキスをしっかりと引き出しながら味を凝縮させる 。時間と手間をかけて、複合味と凝縮感を作り出す。素材単体の味をはっきりと出し、フレッシュ感を大切にする現代のフランス料理とはベクトルが合わないかもしれない。
「でも、やはりフランス料理はうま味の料理、時間の料理。ソースはその象徴です」。また、ある程度しっかりとした量のソースを持つ料理は、ワインと非常によく合う。「ソースはワインを呼び、ワインと組み合わせることで互いの世界が一気に豊かに広がります」。
これもまたフランス料理の醍醐味である。


伊勢海老のポシェ ソース・アメリケーヌ

甲殻類のコクと香りが口の中で広がる
しっとりと蒸し上げた伊勢海老に、ソース・アメリケーヌを分厚くのせた、ぜいたくな仕立て。さまざまな甲殻類のうま味が溶け合い、凝縮した、力強いソースが圧倒的だ。甘い伊勢海老とソースが調和する、インパクトのある一品。

材料では、一般的には甲殻類の殻を用いるところ、東京會舘では最高級のフランス産のオマールの殻のほか、生のまま食べられるような芝海老、甘海老、身の入った渡り蟹も使う。ぜいたくな材料をたっぷりと使うのが、東京會舘流。格段に奥行きのあるソースとなる。
ソース・アメリケーヌとは、オマールを中心とした甲殻類の殻で作る、力強いうま味が印象的なソース。殻をしっかりと炒めてうま味と香りを出したところに、コニャックやトマトペーストで風味づけして作る、ゴージャスなソースだ。甲殻類は数種類を使い、複合味と奥行きを出す。

東京會舘の中で脈々と伝わってきた技術の中で、松本シェフが特に驚いたと言うのが、ソース・アメリケーヌの材料だ。一般的には甲殻類の殻を使うが、ここではフランス産の最高級のオマールの殻に加え、身入りの生の海老や渡り蟹を使うのだ。これらをぶつ切りにしてしっかりと焼き、たっぷりのコニャックでフランベする。「圧倒的にインパクトのある味に仕上がります。東京會舘では、このソースには材料を惜しみなく使う伝統があるのです」。選び抜かれた材料に、フランス料理の伝統的なソースの技術が加わったら、おいしく仕上がらないわけがない。


仔牛のメダイヨン プリンス・オルロフ

ベシャメルソースに、たっぷりのチーズを投入
丸く、メダルの形に整えた仔牛の上にかけたのが、たっぷりのエダムチーズをベシャメルに加えて仕立てるソース・モルネー。さっぱりとした仔牛に、厚みのあるコクを備えたソースがよく合う。ソースのなめらかな食感もポイント。

ソース・モルネーとはベシャメルソース(ホワイトソース)に、卵黄とすりおろしたチーズを混ぜ合わせ、うま味豊かなソース。通常仕上げにバターを加えるが、東京會舘ではここでオランデーズ(卵黄と澄ましバターを乳化させたソース)を加え、なめらかさを高める。
ソース・モルネーのベースとなるのが、ベシャメルソース。徹底的にきめ細かいソースとするため、東京會舘では伝統的に漉し器ではなく、2人がかりでネルで漉して仕上げる。布漉しならではの、ごくなめらかな舌触りとなる。

「東京會舘の創業は大正11年。伝統が色濃く残っている厨房ですから、大正11年から令和2年まで、行き来できる感覚でいます」と松本シェフ。特にソースは、フランス料理の中でも変化が激しいテーマ。揺るぎない伝統を備えていてこそ表現できる深い、そしてフランス料理らしい味がある。「それを、現代にも通用する形で追求していきたいと思います」。

東京會舘 レストラン プルニエ
東京都千代田区丸の内3-2-1
月~金 11:30 ~ 14:30 LO 17:30 ~ 21:30 LO
土・日・祝 17:30 ~ 20:30 LO
月休
TEL 050-3134-4890(本舘レストラン予約センター)

text 柴田泉 photo 山下亮一

本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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