フランス料理のクラシックを強く意識するシェフの存在感が、近年強まっている。なかでも、自由な姿勢で伝統に取り組む料理人に、注目が集まっているようだ。
2016年にオープンした「シンシア」の石井真介シェフは、その代表格。旺盛なサービス精神と、料理のベースにある“クラシックなおいしさ”で評判を呼んでいる。
スペシャリテの「スズキのパイ包み焼き:ルー・アン・クルート 和のアレンジで」は、ポール・ボキューズの代名詞とも言える古典料理を分解、再構成したもの。何よりも石井シェフらしいのが、一人一個を食べるたい焼きの形にしたところだ。
「より多くのお客さまにクラシックの魅力を伝えたい。でもクラシックそのままだと、現代の感覚では楽しんでもらえるとも限らない。だから、わかりやすくておもしろい形にしました」という。そして、「僕たちの世代は、料理人としての自分を形作る20代にクラシックなフランス料理をギリギリ覚えることができました。その経験に感謝するからこそ、自分は、クラシックを広げる努力をしなくてはいけないと思っています」と語る。
この思いは、現在修業中の料理人にも向けられる。「今、若い子たちが伝統的な料理や技術を知る機会はどんどん減っています。僕がクラシックに取り組むのは、次世代の料理人たちにそのよさ、深さ、応用の幅の広さを知ってほしいから、という理由もあります」。
原形はこの料理!
スズキのパイ包み焼き
ポール・ボキューズのスペシャリテであるスズキのパイ包み焼き、「ルー・アン・クルート」。原形は大型の料理だが、石井シェフは一人分の大きさとし、かつ、たい焼きの型で焼く。その意外性、愛らしさで「シンシア」の代名詞となった一品だ。付合せの花ズッキーニにホタテのムースを詰め、ソース・アメリケーヌとベアルネーズを添えるなど、用いているパーツは原形のポール・ボキューズ版と共通。可愛らしい見た目だが、味わいはクラシックを踏襲する。
原形はこの料理!
アスピック
「アスピック」とは、ゆで海老や色とりどりの野菜を、コンソメゼリーでしっかりと固めた、フランス料理の古典的な前菜。石井シェフはそのイメージをもとに、現代的で軽やか、透明感にあふれた料理を作った。グラスに盛り込んでいるのは、アメリケーヌのムース、カリフラワーのエスプーマ、蟹、ゆでた海老、ラタトゥイユ、そしてギリギリにゆるく固めたコンソメジュレ。ムースやジュレのとろけるような口どけがポイントで、必ず作りたてで提供する。